魔王の子育て日記

教祖

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波乱

来訪者への極意~魔王監修~ その2

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 パインが執務室に戻ると、魔王は言いつけ通りに留まっていた。むしろ机から動いてもおらず、その行儀の良さにパインの方が面を食らってしまった。
 「戻ったか」
 「戻りました。赤ちゃんはヴィエルが審判の間の奥に避難させています」
 「おう、ありがとう」
 魔王の返答はどこか上の空だった。それを見て行儀が良いのではなく、深い思考の末自分が戻るまで動かなかったのだと悟ったパイン。
 「……人間の対処ですか?」
 「……それもある。でも一番は赤ん坊をどうするか、だな」
 「どうするもなにも。親の元に帰れるのならそれ以上のことはないでしょう」
 「それはそうなんだけどよ。今回の原因――――犯人が分からねえと、また同じことがあるんじゃねえかと思ってよ。次は赤ん坊も無事じゃ済まねえかも」
 「それは……。赤ちゃんには罪はありませんが私たちには関係のない事です」
 そう言うパインの口元が微かに歪んだ。
 赤子に罪はない。きっと祝福されて生まれてきたであろう。
 母親の腕の中で微睡みに身を委ねるはずの身が異界の地で争いの火種になろうとしているなど、あってはならないのだ。しかし、まさに今そうなっている。そして親の腕の中に戻れたとしても、次は今以上に悲惨な未来が待っているかもしれない。
 不憫だ。だからといって自分たちには親元へ帰す選択肢以外持ち合わせていない。
 「そうなんだけどよ……。赤ん坊の顔見ちまったら心配にもなるぞ。――――なあ、パイン」
 「だめです」
 二の句を継がせぬ確かな否定。
 既視感を感じる言葉だが、温度感は明らかに異なる。抑揚のない純粋な言葉は、いつもの冷ややかな物言いよりも強力な拒絶を示していた。
 「だよなあ……」
 言葉にせずともその返答が来ることは魔王も分かりきっていた。
 
 ――――犯人が見つかるまで赤ん坊を預かっておかねえか?

 パインには魔王の言葉が発せられずとも一言一句違わず脳裏に浮かんだ。
 自分にもその考えはもちろんあった。しかし、そんなものは一瞬で棄却された。あまりにも不利益が多い。
 自分達にも、あの子にとっても。
 「大人しく返してやるか。犯人捜しはその後でもできるしな」
 「それが良いかと。心苦しいですが」
 話はそこで終わった。間もなくして爺の招集で城内の者たちが執務室へ集った。
 爺が集まったのを確認して扉を閉める。
 「それじゃあ、赤ん坊返還の寸劇の流れを説明すっかな」
 そう口にすると、魔王は席を立った。
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