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波乱
痕跡 その6
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少し休めば回復する――――と言葉を受け、佐伯は木陰に朱雀を休ませた。
兵士の一人が朱雀の面を外すと、元から色白の顔がもはや青白くなっていた。
その姿に上がる周りの心配の声をよそに、朱雀は淡々と指示を飛ばす。
「明日の突入まで交代でこの門を見張れ。あちら側から何かが来るかもしれん。見張りの順番を決め、辺りの巡回が済んだら見張り番以外は速やかに迎賓館に戻り明日に備えよ」
「「「はいっ!」」」
朱雀の指示に従い、兵士たちは手早く見張り班の編成を終えると辺りの巡回へと散った。
その中の一人――――司令塔となっていた兵士だけがその場に残った。
「朱雀様、迷子札はいかがなさいますか」
「――――今回ばかりは置いていく。取りに来れる者がいないだろうからな」
「かしこまりました」
迷子札――――たまに首から下げている子供などを見かける、名前の通りよく迷子になる子供に身に着けさせることで、有事の際に子供の発見を容易にするための札。
そんなものの名前が兵士の口から出てきたのだから、村正は驚きを隠せなかった。
しかし、朱雀の自然な返しに口をはさむ気にはならなかった。
対照的に総雲は表情を一切変えなかったが、一張羅のズボンには握りしめられることで皺が寄っていた。
「二人とも迷惑をかけた。村正殿、このような炎天の中の案内痛み入る。後は我々だけで動けそうだ。自室でゆっくり休んでくれ。総雲も明日に備えてくれ。諸々の準備を頼む」
「はい! ですがどうか迎賓館まで朱雀様をお送りさせてください」
「朱雀様、この老体にはあまりあるお言葉、残りの人生の励みにいたします。総雲と同じくどうか迎賓館までのお見送りを――――」
「二人の申し出は非常にありがたい。だが、もう少し木陰で涼んでいきたいのだ。私の道楽に二人を付き合わせるのは忍びない」
「そのようなことはございません。いくらでもお待ちいたしますよ。お顔色もまだ優れないようですし、なにかお持ちいたしましょう。暫しお待ちを」
「村正様、どうか朱雀様のお言葉のままに。武人とは見栄を張る性分ゆえご容赦を」
村正に立ちはだかるように兵士は告げる。
誰の目から見ても朱雀が回復しきれていないことは明らか。
涼みたいのではなく、もっと体を休ませなければ立ち上がることは困難なのだ。だが、それを言葉にすることは武人として憚られる。それが火を見るより明らかであろうとも、仮にもこれから人命を救おうという者が己の足で立つこともできぬなど、決して口にすることは許されない。
「かしこまりました。明日のご出発の際にまた参ります。今晩は私も街におりますので、ご用命があれば何なりと」
「すまない。恩に着る」
「では、これにて」
深々と首を垂れ、村正はその場を後に街への道を戻っていった。
習うように総雲も朱雀へ別れの言葉を告げ、村正の後を追った。
兵士の一人が朱雀の面を外すと、元から色白の顔がもはや青白くなっていた。
その姿に上がる周りの心配の声をよそに、朱雀は淡々と指示を飛ばす。
「明日の突入まで交代でこの門を見張れ。あちら側から何かが来るかもしれん。見張りの順番を決め、辺りの巡回が済んだら見張り番以外は速やかに迎賓館に戻り明日に備えよ」
「「「はいっ!」」」
朱雀の指示に従い、兵士たちは手早く見張り班の編成を終えると辺りの巡回へと散った。
その中の一人――――司令塔となっていた兵士だけがその場に残った。
「朱雀様、迷子札はいかがなさいますか」
「――――今回ばかりは置いていく。取りに来れる者がいないだろうからな」
「かしこまりました」
迷子札――――たまに首から下げている子供などを見かける、名前の通りよく迷子になる子供に身に着けさせることで、有事の際に子供の発見を容易にするための札。
そんなものの名前が兵士の口から出てきたのだから、村正は驚きを隠せなかった。
しかし、朱雀の自然な返しに口をはさむ気にはならなかった。
対照的に総雲は表情を一切変えなかったが、一張羅のズボンには握りしめられることで皺が寄っていた。
「二人とも迷惑をかけた。村正殿、このような炎天の中の案内痛み入る。後は我々だけで動けそうだ。自室でゆっくり休んでくれ。総雲も明日に備えてくれ。諸々の準備を頼む」
「はい! ですがどうか迎賓館まで朱雀様をお送りさせてください」
「朱雀様、この老体にはあまりあるお言葉、残りの人生の励みにいたします。総雲と同じくどうか迎賓館までのお見送りを――――」
「二人の申し出は非常にありがたい。だが、もう少し木陰で涼んでいきたいのだ。私の道楽に二人を付き合わせるのは忍びない」
「そのようなことはございません。いくらでもお待ちいたしますよ。お顔色もまだ優れないようですし、なにかお持ちいたしましょう。暫しお待ちを」
「村正様、どうか朱雀様のお言葉のままに。武人とは見栄を張る性分ゆえご容赦を」
村正に立ちはだかるように兵士は告げる。
誰の目から見ても朱雀が回復しきれていないことは明らか。
涼みたいのではなく、もっと体を休ませなければ立ち上がることは困難なのだ。だが、それを言葉にすることは武人として憚られる。それが火を見るより明らかであろうとも、仮にもこれから人命を救おうという者が己の足で立つこともできぬなど、決して口にすることは許されない。
「かしこまりました。明日のご出発の際にまた参ります。今晩は私も街におりますので、ご用命があれば何なりと」
「すまない。恩に着る」
「では、これにて」
深々と首を垂れ、村正はその場を後に街への道を戻っていった。
習うように総雲も朱雀へ別れの言葉を告げ、村正の後を追った。
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