魔王の子育て日記

教祖

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波乱

痕跡 その4

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 「わずかだが草が剥げている」
 「はい。周囲は生い茂っている雑草の類が、横一線に無くなっておるのです」
 見れば、確かに一部分だけ雑草が生えていなかった。
 兵士に呼ばれたのは、この場所の中央。
 子供らが遊びでやったことも考えられなくはないが、意図が見えない。しかし、不自然に正確な直線であるがゆえに、人為的な力が加えられていることは間違いないだろう。
 「ここに門が現れたのでしょうか?」
 「わからない。だが可能性は否定できない。少し待て」
 兵士の問いに困惑しながらも答えると、朱雀は巻物を取り出したように懐に手を伸ばし、形代を1枚取り出した。
 「術が使われていれば何か起こるはずだ」
 草の剥げた部分へ人型に切り抜かれた白紙が触れると、たちまち深紫に染まり、やがて端から解けるように朽ち果てた。
 「「「っ!?」」」
 朱雀たちの他、周りで事の行く末を横目に見ていた兵士達も、この光景は直視せざるを得なかった。
 「どうやら間違いないようだ。よもや朽ち果てようとは……」
 「聖護達におっしゃっていた通り、魔術の痕跡があったということですね」
 集会所での話を思い出し村正が朱雀に確認する。
 「ああ。だが、魔力が桁違いだ。形代も陰陽から持たされたのだが、変化の度合いも色の濃淡程度だと言われていた。やはり相当な手練れのようだ。魔王の息がかかっている可能性は高いだろう」
 「左様でございますね――――」
 淡々と告げられた事実に総雲は心を決めた。
 ここには戻れないかもしれない。状況は異なろうとも自分は再び戦場へ赴くのだ。
 命のやり取りが待っているかもしれない。それでも――――
 「もう一度聞くが、一緒に来てくれるのか? 此度は戦ではなく偵察と人質の奪還だ。場合によっては辺りを敵に囲まれるやもしれん」
 総雲の声音に籠った思いを朱雀は汲み取っていた。
 故に敢えて問う。自ら志願して敵地へ赴くだけの理由があるのか、命を危険に晒す価値がその理由にあるのかを。
 「ご配慮痛み入ります。ですが私は決めたのです。迷いはございません」
 総雲の心は志願した時から決まっていた。過去の清算には命を懸けて臨もうと。
 「愚問だったな。では始めるか」
 皆、急ぎ私の後ろに控えよ――――!
 朱雀は巻き上げていた巻物を再び伸ばすと、全て兵士達に号令を掛け背後に控えさせた。
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