96 / 133
波乱
痕跡
しおりを挟む
「ここが二人の言っていた門が現れた場所か」
「左様でございます。しかし、このような場所に魔界への門があったなど、私には想像もつきません」
朱雀一行は聖護達の証言をもとに村はずれの雑木林に足を運んだ。
集会所と村を繋ぐ雑木林をまっすぐに切り開いた一本道。その中腹に聖護達の言う開けた場所があった。
陽はほぼ頂点と言って差しつかえないところまで登り、さすがの雑木林でも陽光を遮ることは叶わない。
「すまないな村正殿。真夏の昼時の炎天下に案内役を任せてしまった。だが、あの二人が門を発現させた状況に可能な限り近づけたいのだ。暫し付き合ってくれ」
「私ごときの身を案じていただき、感謝に堪えません。どうか私のことはお気になさらず。私にできることがあれば何なりとお申し付けください」
「分かった。何かあれば声を掛けよう」
――――皆、一帯を捜索だ。どんなことでもかまわない。気になることがあれば報告せよ。はじめ!
朱雀の一声で今まで組まれていたきれいな隊列は一瞬で散り散りとなり、兵士たちは周囲の捜索に動き出した。
「総雲、聖術の心得はあるか?」
「禊は終えましたが生憎適性が見られず、切り込むことしかできかねます。知識として最低限は教え込まれましたが……。お力になれず申し訳ございません」
朱雀の問いに総雲は首を垂れる。
「そうか、気にするな。となれば私一人でやるしかないか。奴らの言うことは信用ならないのだがな」
これまでの会話で初めての独り言を口にした朱雀は防具の間から一本の巻物を取り出した。
華美ではないが明らかに質の良さがうかがえる淡い紫の布地が陽光に照らされて映える。
「っ! 朱雀様。お持ちの巻物のその色、陰陽様の……」
「おお、よく分かったな。奴らから押し付けられてな。ほれ」
話しながら朱雀は巻物の封を解き、広げ始めた。以外にも全長は短く、細身の朱雀の肩幅より少し長い程度。
「私ごときが拝見してもよろしいのでしょうか」
「はっ、こんな巻物一本で咎められたりしない。私の上席でも所詮一人の人間だ。同じ人間の書いたものを読んで罰せられる方がどうかしている」
かかかっ、と快活に朱雀は笑った。しかし、それに同調することは総雲には適わない。
忘れてはならない。目の前にいるこの男は、この国で国主から数えて三番目の地位に座する人間なのだ。
「左様でございます。しかし、このような場所に魔界への門があったなど、私には想像もつきません」
朱雀一行は聖護達の証言をもとに村はずれの雑木林に足を運んだ。
集会所と村を繋ぐ雑木林をまっすぐに切り開いた一本道。その中腹に聖護達の言う開けた場所があった。
陽はほぼ頂点と言って差しつかえないところまで登り、さすがの雑木林でも陽光を遮ることは叶わない。
「すまないな村正殿。真夏の昼時の炎天下に案内役を任せてしまった。だが、あの二人が門を発現させた状況に可能な限り近づけたいのだ。暫し付き合ってくれ」
「私ごときの身を案じていただき、感謝に堪えません。どうか私のことはお気になさらず。私にできることがあれば何なりとお申し付けください」
「分かった。何かあれば声を掛けよう」
――――皆、一帯を捜索だ。どんなことでもかまわない。気になることがあれば報告せよ。はじめ!
朱雀の一声で今まで組まれていたきれいな隊列は一瞬で散り散りとなり、兵士たちは周囲の捜索に動き出した。
「総雲、聖術の心得はあるか?」
「禊は終えましたが生憎適性が見られず、切り込むことしかできかねます。知識として最低限は教え込まれましたが……。お力になれず申し訳ございません」
朱雀の問いに総雲は首を垂れる。
「そうか、気にするな。となれば私一人でやるしかないか。奴らの言うことは信用ならないのだがな」
これまでの会話で初めての独り言を口にした朱雀は防具の間から一本の巻物を取り出した。
華美ではないが明らかに質の良さがうかがえる淡い紫の布地が陽光に照らされて映える。
「っ! 朱雀様。お持ちの巻物のその色、陰陽様の……」
「おお、よく分かったな。奴らから押し付けられてな。ほれ」
話しながら朱雀は巻物の封を解き、広げ始めた。以外にも全長は短く、細身の朱雀の肩幅より少し長い程度。
「私ごときが拝見してもよろしいのでしょうか」
「はっ、こんな巻物一本で咎められたりしない。私の上席でも所詮一人の人間だ。同じ人間の書いたものを読んで罰せられる方がどうかしている」
かかかっ、と快活に朱雀は笑った。しかし、それに同調することは総雲には適わない。
忘れてはならない。目の前にいるこの男は、この国で国主から数えて三番目の地位に座する人間なのだ。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる