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波乱
鴉~からす~
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その部屋には窓も扉も無いようであった。
外の光を一切受け入れぬ異様な構造でありながら闇に包まれていないのは、数多の長方形が虚空に浮かびその一つ一つが光を発しているからだ。
淡い光ではあるが、それで辺りが見渡せる程度の広さの空間。
「動いたね。あれは朱雀だったかな。魔族がらみだと末端でも来るんだな」
独り言にしては大きめの言葉が、光によって浮かび上がっている人影から発せられた。
声の主はテーブルの傍らに手を伸ばし、脚付きの盃に入った残り少ない緑の液体を呷る。
空になった盃をテーブルに戻せば、盃の底から同じ液体が湧き出て、盃は満たされた。
そんなことには目もくれず、声の主は次の言葉を発した。
「コール=ネイビル」
言葉に応じるように一つの長方形が声の主の前に大きく広がった。
白く発光する長方形はしばらくして、わずかにノイズが入った後、初老の男性を映し出した。
「鴉か」
「鴉ちゃんです。ネイビルさん見つかったよ。あと少し面倒なことも」
「すべて伝達しろ」
「はいはい」
ネイビルと呼ばれた男と声の主――――鴉はやり取りを続ける。
ネイビルは淡々とした口調ながら、どこか焦りを感じる。
それに対し会話を楽しもうとする鴉とは温度差が明らかで、ネイビルから急かされる場面が散見された。
それでも一通り報告を終え、会話が始まって初めての沈黙を迎える。
口に手を当て思案するネイビルを肴に鴉は再び盃を呷る。
沈黙はネイビルが破った。
「契約でもある故、情報の出どころについては聞かぬ。こちらも助かっているからな」
「それは有り難い限りだね」
「だからこそ、私はお前を信用していない。魔王様がどれほどお前を買っていようとも」
「かまわないさ。むしろネイビルさんみたいに直接そう言ってくれるほうが僕も気が楽だよ。ありがとう」
「ふん。まず間違いなくこちらへ向かってくるだろう。動きが出たらまた報告しろ」
「はーい」
険悪とは言えないながらも、確かに確執を感じるやり取りを終え、映像は途絶えた。
「また暇になっちゃったな。少し寝ようかな」
鴉は両手を頭上へ伸ばす。連動するように背中に生える一対の黒翼も大きく広がる。
黒髪短髪の少女に羽が生えたように見える鴉は、その名前にそぐわず椅子の上で膝を抱え込むとそこに首をうずめ微睡へ落ちていく。
外の光を一切受け入れぬ異様な構造でありながら闇に包まれていないのは、数多の長方形が虚空に浮かびその一つ一つが光を発しているからだ。
淡い光ではあるが、それで辺りが見渡せる程度の広さの空間。
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独り言にしては大きめの言葉が、光によって浮かび上がっている人影から発せられた。
声の主はテーブルの傍らに手を伸ばし、脚付きの盃に入った残り少ない緑の液体を呷る。
空になった盃をテーブルに戻せば、盃の底から同じ液体が湧き出て、盃は満たされた。
そんなことには目もくれず、声の主は次の言葉を発した。
「コール=ネイビル」
言葉に応じるように一つの長方形が声の主の前に大きく広がった。
白く発光する長方形はしばらくして、わずかにノイズが入った後、初老の男性を映し出した。
「鴉か」
「鴉ちゃんです。ネイビルさん見つかったよ。あと少し面倒なことも」
「すべて伝達しろ」
「はいはい」
ネイビルと呼ばれた男と声の主――――鴉はやり取りを続ける。
ネイビルは淡々とした口調ながら、どこか焦りを感じる。
それに対し会話を楽しもうとする鴉とは温度差が明らかで、ネイビルから急かされる場面が散見された。
それでも一通り報告を終え、会話が始まって初めての沈黙を迎える。
口に手を当て思案するネイビルを肴に鴉は再び盃を呷る。
沈黙はネイビルが破った。
「契約でもある故、情報の出どころについては聞かぬ。こちらも助かっているからな」
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「だからこそ、私はお前を信用していない。魔王様がどれほどお前を買っていようとも」
「かまわないさ。むしろネイビルさんみたいに直接そう言ってくれるほうが僕も気が楽だよ。ありがとう」
「ふん。まず間違いなくこちらへ向かってくるだろう。動きが出たらまた報告しろ」
「はーい」
険悪とは言えないながらも、確かに確執を感じるやり取りを終え、映像は途絶えた。
「また暇になっちゃったな。少し寝ようかな」
鴉は両手を頭上へ伸ばす。連動するように背中に生える一対の黒翼も大きく広がる。
黒髪短髪の少女に羽が生えたように見える鴉は、その名前にそぐわず椅子の上で膝を抱え込むとそこに首をうずめ微睡へ落ちていく。
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