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波乱
魔王の見栄?
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二度執務室の扉が叩かれ、返事を待たずに開かれた。
「魔王様! こちらですか!」
「おう、こちらだ」
どこか既視感を感じる爺の登場に魔王は軽口で答える。
「人間が赤子の件で動き出したようでございます。いずれはこちらへ向かって来るやもしれません」
「以外に早いな」
爺の表情とは対照的に魔王の態度はどこまでも軽率。まるで家に招いた友人を待ちわびているような態度。
「いかがいたしますか」
「いかがもなにも、動きがあるまで待つしかねえだろうよ。どこまで目星がついてんのか知らねーけど、ここにいるのがわかったところで早々入って来れるもんでもねーし」
「気持ちは察しますが落ち着いてください爺。今回ばかりは魔王様の言う通りです」
「『今回ばかり』は余計だ!」
「しかし、なにかがあってからでは――――」
「爺、私の――――魔王様の言葉に異を唱えるというのであれば、それなりの覚悟があるんですね」
爺の言葉を遮るように、パインが切り捨てる。いつもの三白眼ではない、ひたすらに冷酷な裁定者の眼差し。
もはや、爺に二の句を継ぐ術はなかった。
その様子を見かねて自然に魔王がフォローに入る。
「怖えなあ、パイン。まあ、あいつらがこっちに来れたとしてそこらへんの民衆に攻撃するなんて馬鹿なことすることもねえだろうし。もちろん城に入ろうもんなら皆気づくだろ? だから大丈夫だって。もし、何かあったんなら――――五体満足で帰さねーよ」
何食わぬ顔で言うと魔王は頭の後ろで腕を組んだ。
その声音も目の色も変わらない。今までの会話と何ら変わらない。だからこそ爺は恐怖した。
日常会話の温度感で確かな殺意を感じたからだ。
「先の発言は撤回いたします。ご報告に留めておけばよいものを出過ぎたことを申しました。お許しください」
「心配してくれてありがとな爺。要はいつも通りやってくれりゃあいいって話だからよ。よろしく頼むわ」
「私も強く言い過ぎました。すみません。ご報告確かに承ります。いつも以上に用心しますね」
「ご配慮のお言葉ありがとうございます。城の皆にも伝えてまいりますのでこれで失礼します」
言い終えるが先か、爺は執務室を後にした。
「相変わらずおっかねえこと言うなあパイン」
「どの口が言うんですか」
「あ? 大事な仲間に手出されて何もしねえわけねえだろ。それに」
――――その方が人間のためだろ
たしかにパインの耳には聞こえていた。いまさら耳を疑うことも無い。
それでも、パインは聞き返すしかない。彼の歪みはできることなら見たくはないから。
「それに、なんですか」
「――――あれぐらい言わなきゃ格好がつかねえだろ?」
「それもそうですね。一応魔王ですからね」
「また余計な言葉がついてんだよ!」
いつもの会話からやがて二人は書類の山へ目を向け直した。
執務室の刻盤は表の6丁度を差している。
「魔王様! こちらですか!」
「おう、こちらだ」
どこか既視感を感じる爺の登場に魔王は軽口で答える。
「人間が赤子の件で動き出したようでございます。いずれはこちらへ向かって来るやもしれません」
「以外に早いな」
爺の表情とは対照的に魔王の態度はどこまでも軽率。まるで家に招いた友人を待ちわびているような態度。
「いかがいたしますか」
「いかがもなにも、動きがあるまで待つしかねえだろうよ。どこまで目星がついてんのか知らねーけど、ここにいるのがわかったところで早々入って来れるもんでもねーし」
「気持ちは察しますが落ち着いてください爺。今回ばかりは魔王様の言う通りです」
「『今回ばかり』は余計だ!」
「しかし、なにかがあってからでは――――」
「爺、私の――――魔王様の言葉に異を唱えるというのであれば、それなりの覚悟があるんですね」
爺の言葉を遮るように、パインが切り捨てる。いつもの三白眼ではない、ひたすらに冷酷な裁定者の眼差し。
もはや、爺に二の句を継ぐ術はなかった。
その様子を見かねて自然に魔王がフォローに入る。
「怖えなあ、パイン。まあ、あいつらがこっちに来れたとしてそこらへんの民衆に攻撃するなんて馬鹿なことすることもねえだろうし。もちろん城に入ろうもんなら皆気づくだろ? だから大丈夫だって。もし、何かあったんなら――――五体満足で帰さねーよ」
何食わぬ顔で言うと魔王は頭の後ろで腕を組んだ。
その声音も目の色も変わらない。今までの会話と何ら変わらない。だからこそ爺は恐怖した。
日常会話の温度感で確かな殺意を感じたからだ。
「先の発言は撤回いたします。ご報告に留めておけばよいものを出過ぎたことを申しました。お許しください」
「心配してくれてありがとな爺。要はいつも通りやってくれりゃあいいって話だからよ。よろしく頼むわ」
「私も強く言い過ぎました。すみません。ご報告確かに承ります。いつも以上に用心しますね」
「ご配慮のお言葉ありがとうございます。城の皆にも伝えてまいりますのでこれで失礼します」
言い終えるが先か、爺は執務室を後にした。
「相変わらずおっかねえこと言うなあパイン」
「どの口が言うんですか」
「あ? 大事な仲間に手出されて何もしねえわけねえだろ。それに」
――――その方が人間のためだろ
たしかにパインの耳には聞こえていた。いまさら耳を疑うことも無い。
それでも、パインは聞き返すしかない。彼の歪みはできることなら見たくはないから。
「それに、なんですか」
「――――あれぐらい言わなきゃ格好がつかねえだろ?」
「それもそうですね。一応魔王ですからね」
「また余計な言葉がついてんだよ!」
いつもの会話からやがて二人は書類の山へ目を向け直した。
執務室の刻盤は表の6丁度を差している。
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