魔王の子育て日記

教祖

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波乱の幕開け

悪餓鬼の末路

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 聞き耳を立てていた迎賓館の壁。その頭上の換気窓から発せられたであろう開閉音に、空を仰いだ瞬間。
 
 「何用だ。話が聞きたくば互いに顔を突き合わせるべきではないか」
 
 芝居がかった言葉遣いには似つかわしくない声音が二人の背後から聞こえた。
 「「!?」」
 振り返れば、目の前には一人の――――男だ。
 歳は二十を少し過ぎた程度か。特徴的なおかっぱ頭に元から鋭いであろう眼光をさらに強めて、こちらを不審そうに睨む。
 全身を黒い薄手の衣服で覆い、顔は中性的。声音も低めの女声と高めの男声の間。そんな人物が突然背後に現れ、自分たちの盗み聞きを咎めてきたのだから、驚かないわけがない。
 「なんだ、子供ではないか。とは言え盗み聞きは看過できんな。それに内容も内容だ。中に入って話を聞かせてもらうぞ」
 男は少し驚いた顔を見せたが、再び厳しい顔つきに戻ると、二人の首根っこを掴み半ば引きずるように迎賓館の玄関へ歩き出す。
 同時に男と同じ格好の人間が同じく険しい顔で庭に流れ込んできた。
 投げられた身を案じる声を手で制し、男が歩みを止めることはない。
 「いや、えっと、これから学校に行かなきゃならねーんだよ。終わってからでもいいだろ?」
 「案ずるな。私は朱雀。聞いていただろうがいわゆる武神と呼ばれている者でな。こう言ってなんだがそれなりに顔が利く。一日学校に行かずとも咎めは受けぬよう口添えをしておいてやる。安心して話を聞かせろ」
 「あんたが武神!? 大男って話じゃねーのかよ!」
 「それは玄武のことではないか? 生憎と奴はこの街は管轄外でな」
 「武神様! どうか釈明を。この場でお話をさせてください」
 「お主はその歳で言葉遣いができておるな。それほど礼儀正しいのに盗み聞きなど要らぬ悪さをしよって。益々話を聞かねばな。喜べ、中には冷茶と菓子がある。ゆっくりは話ができるぞ」
 二人の抵抗も虚しく玄関まで男――――朱雀の歩みを止めることは叶わなかった。
 玄関には大人たちが五人。
 見覚えのある顔もいる。その筆頭は――――
 「またお前たちか! 聖護! 源太!」
 既視感のある声音――――村正だ。
 「「はいぃぃ!」」
 名前を叫ばれた聖護と源太ふたりは、その声量に産毛を逆立て反射で返事を返した。
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