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波乱の幕開け
待ち人 その2
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「赤子が攫われたのが、四日前だったか」
「左様でございます」
男に問いかけられ、村正は並び立つ位置に移動しながら答えた。
「厳しいだろうな。直接手を下されずとも、親の介助なしには生きることもままならぬ赤子だ。残酷だが、亡骸だけでも親の元へ還すことができれば奇跡であろう」
「それは母親自身、覚悟しております。自分と同じ思いをする人間が今後生まれぬよう、原因を追究してほしい、と」
「健気なことだ。最善を尽くそう」
「そのお言葉で、母親――美雪も救われます」
一行は街へと入った。道は整備され、足取りが軽くなる。
今までの村の様子とは異なり、規則正しい碁盤の目のような往路によって構成された、人の力を感じる風景。
朝ではあるが、村とは比べ物にならぬほど人の動きがあり、活気に満ちている。
結果、金属音を響かせ街を歩く一行には、奇異の眼がいたるところから向けられる。
男はここまで頑なほど正面を向き続けていたが、突然視線を左右に向けた。
視線を向けられた者たちは、皆一様に目をそらした。
目を合わせてはいけないものだと、本能的に察したのだろう。
その姿をみた村正は、男の前に出ると深く頭を下げた。
「お気を悪くされたでしょうが、どうかご容赦ください。所詮は皆田舎者ですので、武神様方のような高貴な方々を見慣れておりませんもので」
男が歩みを止め、兵士たちもそれに倣う。
「当然の反応だ。気にするな。顔を上げてくれ」
「恐れ入ります」
村正は顔を上げ、静かに息を吐いた。
――――来たのがこの男でよかった。
安堵の表情を浮かべ、男の案内を再開した。
「お待たせいたしました。あちらにございます」
街の中心に位置する大通り。
村正が示した先には、街の中でもひときわ大きな建物があり、傍らに男が二人立っていた。
多少意匠の違いはあるが、村正と同じくジャケットを羽織った正装だ。
こちらの姿を確認すると、足早に向かってくる。
「遠方からありがとうございます」
「皆さまお疲れでしょう。どうぞ中へ」
二人は駆け寄るなり、男へ労いの言葉を掛けた。
一人は村正と同じような歳に見える、白髪の男。
村正の禿頭とは対照的に、長髪を後ろに束ねている。
もう一人は、五十半ばに見える細身の男。
顔や身のこなしから、品性を感じる優男。
「ああ。お主らは」
「この街を共に作った別の村の長達でございます」
「そうか。わざわざすまない。お言葉に甘えよう」
皆、休息だ。この三名に礼――――!
声量はそれほどではないが、よく通る声で男は兵士たちに呼びかけた。
声を合図に、兵士たちは一糸乱れぬ動きで頭を下げ、元に直る。
響く金属音と、この大人数で誰一人として乱れぬ統率の取れた動き。
迫力に気圧され三人は礼を返すのも忘れ、呆然とその姿を眺めていた。
「どうかしたか」
「っ! いえ、ご案内いたします」
男の呼びかけに村正は我に返る。
村正を含む三人の村長たちを筆頭に、一行は建物へと入っていった。
「左様でございます」
男に問いかけられ、村正は並び立つ位置に移動しながら答えた。
「厳しいだろうな。直接手を下されずとも、親の介助なしには生きることもままならぬ赤子だ。残酷だが、亡骸だけでも親の元へ還すことができれば奇跡であろう」
「それは母親自身、覚悟しております。自分と同じ思いをする人間が今後生まれぬよう、原因を追究してほしい、と」
「健気なことだ。最善を尽くそう」
「そのお言葉で、母親――美雪も救われます」
一行は街へと入った。道は整備され、足取りが軽くなる。
今までの村の様子とは異なり、規則正しい碁盤の目のような往路によって構成された、人の力を感じる風景。
朝ではあるが、村とは比べ物にならぬほど人の動きがあり、活気に満ちている。
結果、金属音を響かせ街を歩く一行には、奇異の眼がいたるところから向けられる。
男はここまで頑なほど正面を向き続けていたが、突然視線を左右に向けた。
視線を向けられた者たちは、皆一様に目をそらした。
目を合わせてはいけないものだと、本能的に察したのだろう。
その姿をみた村正は、男の前に出ると深く頭を下げた。
「お気を悪くされたでしょうが、どうかご容赦ください。所詮は皆田舎者ですので、武神様方のような高貴な方々を見慣れておりませんもので」
男が歩みを止め、兵士たちもそれに倣う。
「当然の反応だ。気にするな。顔を上げてくれ」
「恐れ入ります」
村正は顔を上げ、静かに息を吐いた。
――――来たのがこの男でよかった。
安堵の表情を浮かべ、男の案内を再開した。
「お待たせいたしました。あちらにございます」
街の中心に位置する大通り。
村正が示した先には、街の中でもひときわ大きな建物があり、傍らに男が二人立っていた。
多少意匠の違いはあるが、村正と同じくジャケットを羽織った正装だ。
こちらの姿を確認すると、足早に向かってくる。
「遠方からありがとうございます」
「皆さまお疲れでしょう。どうぞ中へ」
二人は駆け寄るなり、男へ労いの言葉を掛けた。
一人は村正と同じような歳に見える、白髪の男。
村正の禿頭とは対照的に、長髪を後ろに束ねている。
もう一人は、五十半ばに見える細身の男。
顔や身のこなしから、品性を感じる優男。
「ああ。お主らは」
「この街を共に作った別の村の長達でございます」
「そうか。わざわざすまない。お言葉に甘えよう」
皆、休息だ。この三名に礼――――!
声量はそれほどではないが、よく通る声で男は兵士たちに呼びかけた。
声を合図に、兵士たちは一糸乱れぬ動きで頭を下げ、元に直る。
響く金属音と、この大人数で誰一人として乱れぬ統率の取れた動き。
迫力に気圧され三人は礼を返すのも忘れ、呆然とその姿を眺めていた。
「どうかしたか」
「っ! いえ、ご案内いたします」
男の呼びかけに村正は我に返る。
村正を含む三人の村長たちを筆頭に、一行は建物へと入っていった。
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