82 / 133
魔王のちょっといいとこ見てみたい
びっくり魔王 その3
しおりを挟む
「明りを」
「戻せ」
兵士の声で、部屋には明りが戻った。
「なんなんだこれ」
魔王はかろうじて言葉を紡いだ。
「鴉の眼に映らない生物が存在し、赤ちゃんを城の前に捨てた張本人だと? とても信じられません」
「言葉の見つからぬ私をどうかお許しください。ですが、今の映像が事実なのです」
爺に伝えられるのは、今の映像が確かに現実で起こったということだけ。
何もわからぬ中、罪悪感だけがのしかかり、爺の頭を下げさせた。
魔王の顔など恐れのあまり見ることは叶わない。
映像が終わるまでの間魔王と対話できたのは、何においても全ての情報を伝えることを最優先にする、と心に決めていたからだ。でなければこの部屋に入った瞬間額を地に擦り付けていたに違いない。
どんな状況に立たされようが、我々はこの世界の長を守る最後の砦。
それも最も警備の手厚い城の前において、不審者の観測すらできず逃亡を許すなど、時が時なら首が飛んでも文句は言えまい。
爺もそれを覚悟の上で今の任務にあたってきた。
―――どんな判断も甘んじて受け入れよう。
爺はこの事実を確認した瞬間に覚悟は決まっていた。
「こいつはとんでもねえな。とばっちりだな爺。自分の管轄で歴史上初の生き物に厄介ごと押し付けられるんだから。とりあえず顔上げてくれよ」
軽やかに言うと、魔王は爺の肩を両手で掴み、軽く仰け反るほどに上体を起こさせた。
あまりの勢いに爺は一歩下がって姿勢を立て直した。
「おっと、悪りぃ! でもこんなの防ぎようがねえだろ。俺が爺の立場ならむしろ、でかい顔して言ってやるけどな。『魔王様なら撃退できました? でも今この映像見てその顔ってことは、何もできなかったと思いますけど笑』ってな」
肩を掴んだまま、爺へ続ける。
「気にするな。なんなら無かったことにしていい。ここ10年近く敵意をもって城に近づいてきたやつすらいなかったのは、爺のおかげなんだから。あの城には生きる『鬼神』がいるって言われてんの、本人でも分かってんだろ」
「…‥はい。存じております。そのお言葉、身に余る光栄でございます」
噛み締めるように爺は答えた。
爺の眼は床ではなく、魔王の顔を見据えていた。
微かに潤んだ瞳は、胸元に光る緋色の勲章よりも輝いている。
「だから、気にするな! こうやって見つけてくれただけで、どれだけ感謝してるか。いつも俺なんかがどこかの馬鹿に怪我でもさせられないために、血眼で守ってくれてんだろ。もちろんお前たちもな」
爺の肩から手を外して、兵士たちの方を向く。
慌てて4人は敬礼姿勢を取った。
「それに、奴らなら何かしら見てんだろ。その為にお目こぼししてやってんだから」
「そうですな。生憎まだ返事は来ておりません」
「奴らのことだから、目星はもうとっくについてんだろうさ。気長に待とうぜ。ほら、パインも何か労いの言葉掛けてやれよ」
「まあ、仕方ないと思います。仮に何者かが魔王様の前に現れようと、私が捻り潰しますのでご安心を」
「それじゃ、労いになってねーよ。まあ、パインもこう言ってるし、この話は終わりにしようぜ。パインまたお茶淹れ直してくれよ。菓子も追加で」
「仕方ないですね。部屋に戻りましょうか」
「おう。爺もほどほどにな。あと、お前らも。差し入れ待っとけよ」
二人は席を立ちあがると、そそくさと部屋を後にした。
「戻せ」
兵士の声で、部屋には明りが戻った。
「なんなんだこれ」
魔王はかろうじて言葉を紡いだ。
「鴉の眼に映らない生物が存在し、赤ちゃんを城の前に捨てた張本人だと? とても信じられません」
「言葉の見つからぬ私をどうかお許しください。ですが、今の映像が事実なのです」
爺に伝えられるのは、今の映像が確かに現実で起こったということだけ。
何もわからぬ中、罪悪感だけがのしかかり、爺の頭を下げさせた。
魔王の顔など恐れのあまり見ることは叶わない。
映像が終わるまでの間魔王と対話できたのは、何においても全ての情報を伝えることを最優先にする、と心に決めていたからだ。でなければこの部屋に入った瞬間額を地に擦り付けていたに違いない。
どんな状況に立たされようが、我々はこの世界の長を守る最後の砦。
それも最も警備の手厚い城の前において、不審者の観測すらできず逃亡を許すなど、時が時なら首が飛んでも文句は言えまい。
爺もそれを覚悟の上で今の任務にあたってきた。
―――どんな判断も甘んじて受け入れよう。
爺はこの事実を確認した瞬間に覚悟は決まっていた。
「こいつはとんでもねえな。とばっちりだな爺。自分の管轄で歴史上初の生き物に厄介ごと押し付けられるんだから。とりあえず顔上げてくれよ」
軽やかに言うと、魔王は爺の肩を両手で掴み、軽く仰け反るほどに上体を起こさせた。
あまりの勢いに爺は一歩下がって姿勢を立て直した。
「おっと、悪りぃ! でもこんなの防ぎようがねえだろ。俺が爺の立場ならむしろ、でかい顔して言ってやるけどな。『魔王様なら撃退できました? でも今この映像見てその顔ってことは、何もできなかったと思いますけど笑』ってな」
肩を掴んだまま、爺へ続ける。
「気にするな。なんなら無かったことにしていい。ここ10年近く敵意をもって城に近づいてきたやつすらいなかったのは、爺のおかげなんだから。あの城には生きる『鬼神』がいるって言われてんの、本人でも分かってんだろ」
「…‥はい。存じております。そのお言葉、身に余る光栄でございます」
噛み締めるように爺は答えた。
爺の眼は床ではなく、魔王の顔を見据えていた。
微かに潤んだ瞳は、胸元に光る緋色の勲章よりも輝いている。
「だから、気にするな! こうやって見つけてくれただけで、どれだけ感謝してるか。いつも俺なんかがどこかの馬鹿に怪我でもさせられないために、血眼で守ってくれてんだろ。もちろんお前たちもな」
爺の肩から手を外して、兵士たちの方を向く。
慌てて4人は敬礼姿勢を取った。
「それに、奴らなら何かしら見てんだろ。その為にお目こぼししてやってんだから」
「そうですな。生憎まだ返事は来ておりません」
「奴らのことだから、目星はもうとっくについてんだろうさ。気長に待とうぜ。ほら、パインも何か労いの言葉掛けてやれよ」
「まあ、仕方ないと思います。仮に何者かが魔王様の前に現れようと、私が捻り潰しますのでご安心を」
「それじゃ、労いになってねーよ。まあ、パインもこう言ってるし、この話は終わりにしようぜ。パインまたお茶淹れ直してくれよ。菓子も追加で」
「仕方ないですね。部屋に戻りましょうか」
「おう。爺もほどほどにな。あと、お前らも。差し入れ待っとけよ」
二人は席を立ちあがると、そそくさと部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる