魔王の子育て日記

教祖

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魔王のちょっといいとこ見てみたい

びっくり魔王 その3

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 「明りを」
 「戻せリストア
 兵士の声で、部屋には明りが戻った。
 「なんなんだこれ」
 魔王はかろうじて言葉を紡いだ。
 「鴉の眼に映らない生物が存在し、赤ちゃんを城の前に捨てた張本人だと? とても信じられません」
 「言葉の見つからぬ私をどうかお許しください。ですが、今の映像が事実なのです」
 爺に伝えられるのは、今の映像が確かに現実で起こったということだけ。
 何もわからぬ中、罪悪感だけがのしかかり、爺の頭を下げさせた。
 魔王の顔など恐れのあまり見ることは叶わない。
 映像が終わるまでの間魔王と対話できたのは、何においても全ての情報を伝えることを最優先にする、と心に決めていたからだ。でなければこの部屋に入った瞬間額を地に擦り付けていたに違いない。
 どんな状況に立たされようが、我々はこの世界の長を守る最後の砦。
 それも最も警備の手厚い城の前において、不審者の観測すらできず逃亡を許すなど、時が時なら首が飛んでも文句は言えまい。
 爺もそれを覚悟の上で今の任務にあたってきた。
 ―――どんな判断も甘んじて受け入れよう。
 爺はこの事実を確認した瞬間に覚悟は決まっていた。

 「こいつはとんでもねえな。とばっちりだな爺。自分の管轄で歴史上初の生き物に厄介ごと押し付けられるんだから。とりあえず顔上げてくれよ」
 
 軽やかに言うと、魔王は爺の肩を両手で掴み、軽く仰け反るほどに上体を起こさせた。
 あまりの勢いに爺は一歩下がって姿勢を立て直した。
 「おっと、悪りぃ! でもこんなの防ぎようがねえだろ。俺が爺の立場ならむしろ、でかい顔して言ってやるけどな。『魔王様なら撃退できました? でも今この映像見てその顔ってことは、何もできなかったと思いますけど笑』ってな」
 肩を掴んだまま、爺へ続ける。
 「気にするな。なんなら無かったことにしていい。ここ10年近く敵意をもって城に近づいてきたやつすらいなかったのは、爺のおかげなんだから。あの城には生きる『鬼神』がいるって言われてんの、本人でも分かってんだろ」
 「…‥はい。存じております。そのお言葉、身に余る光栄でございます」
 噛み締めるように爺は答えた。
 爺の眼は床ではなく、魔王の顔を見据えていた。
 微かに潤んだ瞳は、胸元に光る緋色の勲章よりも輝いている。
 「だから、気にするな! こうやって見つけてくれただけで、どれだけ感謝してるか。いつも俺なんかがどこかの馬鹿に怪我でもさせられないために、血眼で守ってくれてんだろ。もちろんお前たちもな」
 爺の肩から手を外して、兵士たちの方を向く。
 慌てて4人は敬礼姿勢を取った。
 「それに、奴ら・・なら何かしら見てんだろ。その為にお目こぼししてやってんだから」
 「そうですな。生憎まだ返事は来ておりません」
 「奴らのことだから、目星はもうとっくについてんだろうさ。気長に待とうぜ。ほら、パインも何か労いの言葉掛けてやれよ」
 「まあ、仕方ないと思います。仮に何者かが魔王様の前に現れようと、私が捻り潰しますのでご安心を」
 「それじゃ、労いになってねーよ。まあ、パインもこう言ってるし、この話は終わりにしようぜ。パインまたお茶淹れ直してくれよ。菓子も追加で」
 「仕方ないですね。部屋に戻りましょうか」
 「おう。爺もほどほどにな。あと、お前らも。差し入れ待っとけよ」
 二人は席を立ちあがると、そそくさと部屋を後にした。
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