魔王の子育て日記

教祖

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魔王のちょっといいとこ見てみたい

びっくり魔王 その2

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 爺を先頭に三人は廊下を進み、執務室の対面、飾り気のない灰色の扉を開けた。
 中には制服に身を包む兵士の男が4名。魔王たちの到着を出迎えるように、扉の両脇に控えている。
 「お疲れさん。みんな悪いな。あとで差し入れ持ってくるわ」
 「楽しみにしております。さあこちらへ」
 爺に促され、パインと魔王は最奥の席に掛けた。
 「明りを」
 「ウィークン弱めろ
 爺の声に兵士の一人が唱えると、部屋は薄暗くなった。
 爺は折りたたんだ中指の背で机を二度叩いた。
 すると、机から浮き出るように横長の長方形に光が浮かび上がった。それは面積を増やしながら立ち上がり、魔王たちの目の前を覆った。
 「確かに、死角と呼ぶべき場所に赤子は放置されていました。しかし、魔力反応があれば我々が気づかないはずがない。人間の赤子に魔力がなくとも、城まで運んだ者が魔力を持っているはずなのですから」
 爺はそう言って、今度は一度机を叩く。
 応じるように光は映像を映し出した。
 城門の真上から見下ろすような視点で映像は流れ始める。
 常に薄暗い魔界でも防犯も兼ねた高照度の照明の前では、その映像は人間界の真昼のように高い解像度で照らし出されている。
 しばらく何の変哲もない城門前の様子が続く。
 このまま何も起こらないのではないか。魔王が声を上げようとしたその時、微かに映像にノイズが走る。
 「「!?」」
 パインと共に魔王は息を呑む。
 それはわずか一瞬の出来事。今はもう元の映像に戻っている。
 「今のは……?」
 「恥ずかしながら、わかりません。鴉__からす__#の眼が捉えられぬものなど、聞いたことがありません」
 謝罪を述べる爺は、心底悔しそうに頭を垂れる。
 自分が生まれる前からこの任に就いていた爺がわからないとは――――
 魔王は驚きで言葉が出なかった。
 その空気を遮るように羽音がした。
 鴉が移動したのか、ふと映像が切り替わり、城門の左端、先程の視点では死角となっていた場所を映し出した。
 そこは、門柱の陰。さすがの照明でも照らしきれない幽幽たるその場所に、かろうじて移る赤子の姿があった。
 「これがあの赤ちゃんなのですね」
 「ええ。この後、私の指示を受けたゼクスが籠に入った赤子を回収いたします。実はその直前の映像が問題なのです」
 「ちょくぜん?」
 「左様でございます。どうぞ目を凝らしてご覧ください」
 爺に促され二人は流れる映像に集中する。
 赤子は起きることもなく、薄明りに照らされ無垢な表情で眠っている。そこへ
 「影が!」
 思わずパインが声を上げる。わずかな光にぼんやりと影が映る。
 しかし、影の主の姿はわずかに枠外。これだけの距離でも鴉が反応しないことなどあり得るのか。
 そんな疑問も併せて、影の動向を追う。
 影は人型にしては抽象的でぼんやりとした形をしている。
 「恐らく、ローブかなにか羽織っているものかと」
 二人の疑問を察して、爺が補足する。
 影はのらりくらりと小さく絶えず揺れ動き、やがて画面の半分程度を往復するように動く。
 赤子の顔にその影が浮かんでは消えを繰り返し、僅かに赤子の表情が曇る。
 それに気づいたのか、動きを止めた影だったが、突然小さくなり始め、消えてしまう。
 影が小さくなる直前、僅かに赤く光るなにか・・・が映った。
 それと入れ替わるようにゼクスが画面に飛び込んでくると、赤子を回収していった。
 ゼクスが画面から捌けると同時に映像は消え、元の光へ戻った。
 一部始終を確認した二人は放心状態になる。
 難解な物語を途中から見せられたような、置き去りにされたような感情だ。
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