77 / 133
綻び
秘密はばれるためにある
しおりを挟む
休み明けの教室の生徒は2種類に大別される。
二日ぶりに友人との会話に花を咲かせるか、休みの気楽さを引きずって学校の煩わしさに顔をしかめるか。
聖護と源次は後者だ。
しかし、二人の顔が曇る理由は同類の生徒とは大きく異なる。
「……何か考えたか」
頬杖を突き、目線だけを送って聖護は隣の席の源次に問う。
「考えはした、が、分かったのは俺たちにできることは奇跡を願っていつもの生活を送ること。ただそれだけだ」
建築教本から眼を離すことなく放った源次の言葉は平坦だった。
「だよなぁ」
成す術なし――――と、聖護は天を仰ぐ。
頭上には青空でも広がっていればまだ気分は晴れようというものだが、年季の入った木目にそれを求めるのは酷というものだろう。
言葉にすることすらかなわず、どうにか伝わったとしてもまともに取り合ってもらえる可能性がどれだけあるのか。
どうしようもない閉塞感が聖護にもたれかかる。
それを振り払うように強く瞼を閉じ、開いた。
するとそこには、見慣れた少女の顔。
「珍しいな蓮__れん__#。寝坊か?」
「まあね。あんた達、あの後大丈夫だったの?」
少女――――蓮は二人の顔を見比べ、呆れの混じった声音で問いかけた。
「「もちろん、怒られた」」
「でしょうね。まあいつものことか」
「分かってんなら、わざわざ聞くなよ」
「一応心配してあげたんじゃない。まったく」
用が済んだのか、二人とは反対の窓側の先頭――――自分の席へと足を向けた蓮。
それに倣い、聖護も視線を正面へ戻した。
「ねえ、昨日ほんとに遊んでただけなのよね?」
思わぬ声に振り向くと、自席へ戻ったと思っていた蓮はまだ手の届く距離にいた。
見れば鞄は手元になかった為、またこちらまで戻ってきていたようだった。
そんなに疑われるような挙動をしたつもりはなかったが、顔に出ていただろうか。
いや、これは恐らく――――
「遊んでただけだよ。心配かけたなら悪かった」
「……そう。なら良かった。遅くなりそうなら事前にお母さんに言っておきなさい。心配してたわよ」
蓮は満足したのか、自席へ再び戻っていった。
要は心配してくれていたのだ。
昔から滅茶苦茶に遊んできた自分に対し、親と同等かそれ以上に彼女は注意を向けてくれていた。
だからこそ、今回の件に関して一番悟られたくはない。
なんとしても、彼女に心配を掛けないようにしなければ。
決心を新たにすると、始業の鐘が鳴った。
二日ぶりに友人との会話に花を咲かせるか、休みの気楽さを引きずって学校の煩わしさに顔をしかめるか。
聖護と源次は後者だ。
しかし、二人の顔が曇る理由は同類の生徒とは大きく異なる。
「……何か考えたか」
頬杖を突き、目線だけを送って聖護は隣の席の源次に問う。
「考えはした、が、分かったのは俺たちにできることは奇跡を願っていつもの生活を送ること。ただそれだけだ」
建築教本から眼を離すことなく放った源次の言葉は平坦だった。
「だよなぁ」
成す術なし――――と、聖護は天を仰ぐ。
頭上には青空でも広がっていればまだ気分は晴れようというものだが、年季の入った木目にそれを求めるのは酷というものだろう。
言葉にすることすらかなわず、どうにか伝わったとしてもまともに取り合ってもらえる可能性がどれだけあるのか。
どうしようもない閉塞感が聖護にもたれかかる。
それを振り払うように強く瞼を閉じ、開いた。
するとそこには、見慣れた少女の顔。
「珍しいな蓮__れん__#。寝坊か?」
「まあね。あんた達、あの後大丈夫だったの?」
少女――――蓮は二人の顔を見比べ、呆れの混じった声音で問いかけた。
「「もちろん、怒られた」」
「でしょうね。まあいつものことか」
「分かってんなら、わざわざ聞くなよ」
「一応心配してあげたんじゃない。まったく」
用が済んだのか、二人とは反対の窓側の先頭――――自分の席へと足を向けた蓮。
それに倣い、聖護も視線を正面へ戻した。
「ねえ、昨日ほんとに遊んでただけなのよね?」
思わぬ声に振り向くと、自席へ戻ったと思っていた蓮はまだ手の届く距離にいた。
見れば鞄は手元になかった為、またこちらまで戻ってきていたようだった。
そんなに疑われるような挙動をしたつもりはなかったが、顔に出ていただろうか。
いや、これは恐らく――――
「遊んでただけだよ。心配かけたなら悪かった」
「……そう。なら良かった。遅くなりそうなら事前にお母さんに言っておきなさい。心配してたわよ」
蓮は満足したのか、自席へ再び戻っていった。
要は心配してくれていたのだ。
昔から滅茶苦茶に遊んできた自分に対し、親と同等かそれ以上に彼女は注意を向けてくれていた。
だからこそ、今回の件に関して一番悟られたくはない。
なんとしても、彼女に心配を掛けないようにしなければ。
決心を新たにすると、始業の鐘が鳴った。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる