魔王の子育て日記

教祖

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夜の魔王

考え魔王 その5

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 「うし、終わった」
 使用済みの丸めたおむつを片手に、魔王は作業を終えた。
 赤ちゃんも不快感が消え、無邪気に笑っている。
 「少し違うけど、ほとんどできてる。すごいです、魔王様」
 少し手直しをした後、その完成度にヴィエルは羨望の眼差しを魔王に向ける。
 「小だったから助かったぜ。ま、これからは俺も頼ってくれよ。パインも見直したろ?」
 「いままでの負の出来事が多すぎて、この程度では何もなかったに等しい評価しかできません」
 「ひでえ。評価されてるだけ、ありがてーよ」 
 気を良くしたのか、魔王はおむつを手の上で弄ぶ。
 「そうですね。せっかくのお申し出ですから、今後は時々お願いさせていただきますね」
 「おうよ! まかしとけ」
 魔王の心境に呼応するように、おむつが投げ上げられる。
 ヴィエルは魔王の調子の良さに顔を綻ばせながら、タンスの中身の残数を数え始めた。
 「魔王様。調子に乗りすぎです。早く洗濯籠に入れてください」
 「わかったよ。ほれっ。…‥あ?」
 パインに諭され魔王は思わず疑問符を浮かべる。
 広げられた手のひらにはいつまで経っても重みが伝わってこないのだ。
 違和感に頭上を見れば、予想していた落下点は大幅に外れ、ヴィエルの頭に落下せんとしていた。
 「ヴィエル、うえ!」
 「はい? んぎっ!?」
 不幸は立て続けに舞い込んでくるものだ。
 今回はその不幸の種まきも水やりも全て魔王が行ったわけだが。
 ヴィエルが言われた通り頭上に顔を向ければ、目の前は真っ白だった。
 いや、少し黄色の斑点も見受けられたかもしれない。
 少し重みのあるそれ・・が先程まで魔王が弄んでいたおむつだと気づくまで、生唾を飲み下す程度の空白の時間があった。
 やがて重力に抗いきれなくなったおむつを両手で受け止め確信した。
 「ヴィエル!?」
 「大丈夫かっ!?」
 魔王はおろかパインでさえも、狼狽えることしかできない。
 この後何が起きるのか。どう償ったらいいものか。
 まずは、清潔な顔拭きをヴィエルに渡さなければ。
 二人が薬品棚の下目掛けて踵を返すのは、まったくの同時。
 しかし、その動作は半ば強引に止められた。

 「お気になさらず」

 踵を返し僅かに流れる視界の端で、ヴィエルは静かに笑っていた。
 逆に言えば笑っているだけだった。
 それ以外の動作は全て底知れぬ憤怒を体現している。
 青筋の立った額も、小刻みに震える肩も二人にたった一つの真実を告げていた。
 ――――次はない、と
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