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魔王と侵入者
ぬかるみ
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「色々ありすぎたな」
「ん」
いまだぬかるむ帰路を進む。
女が言っていた通り、雨がやんでから間もないようだ。
踏みしめる毎に地面からは水が染み出し、離れる時には靴底に絡みついた泥がその場に留めんと抵抗する。
「あれ見たよな」
「ああ、間違いないだろう」
二人が思うのは門をくぐる前のこと
「では、いく、する、です」
薬品臭満ちた医務室で、魔族の女は虚空に手をかざすと言葉を発した。
それは紛れもなく、この世界に足を踏み入れる元凶となったもの。
虚空を揺らめかせ、門は再び姿を現した。
今この場にいることがどれだけの奇跡であるか、門は二人に突きつける。
そのとき
「ううあ、うああああんっ!」
「「「!?」」」
背後から発せられた声に振り替えると、カーテンで囲われたベッドが5台。
声の主は、中央のベッドにいるようだ。
「赤ん坊か……?」
源太がつぶやくと同時、女はおもむろにベッドに歩み寄ると、静かにカーテンを開けた。
そのまま女に抱き上げられた声の主は、紛れもなく赤ちゃんだった。
「美雪ねーちゃんの娘だよな」
「証拠はないが、可能性は高い」
考えてみれば、おかしなところが多い。
あの大きな屋敷で赤ちゃんの寝室が医務室。ベビーベッドの一つでもあるだろうに。
茶会のメンバーの子供で、あんな扱いをするだろうか。
あの中心人物と思しき男の子供であれば、保母の1人でもいてもおかしくはないだろう。
そもそも親があんな生まれて間もない子供の傍を離れていられるはずもない。
つまりは、あの場にいた者たちの子供ではない。
「そうなんだよな。証拠ねえ……つの?」
「どうした」
「なあ源太。魔族って生まれたときから角生えてんのか」
「ふん……おそらく。昔爺さまから聞いた話では、小さくはあるが生えていると。それが魔族の証であると聞いたな」
「なら、証拠があるぜ。赤ん坊の頭は真っ平だった。間違いねえ」
「あんな一瞬で、わかるものか。俺たちが赤子を目にした矢先に、気にするなと隠され、仲間があやしながら部屋を出て行ってしまっただろう」
「オレの記憶力知ってんだろ」
「ぐっ……」
得意げに笑う聖護に珍しく気圧される源太。
事実、聖護の記憶力は目を見張るものがある。
学舎でも暗記物の試験は毎回満点を叩き出し、7日前の朝食を瞬時に答えることができる。
ほかの面がおざなりな分、聖護の記憶には良くも悪くも気を付けていた。
だからこそ、今の言葉も信用に値する。
「お前が言うなら信じよう。しかしどうする。言いたいのはやまやまだが、あの女には釘を刺されている。口を滑らせれば、俺たちが危険だぞ」
「でも、美雪ねーちゃんが泣いてたんだぞ。せめて無事だったことぐらい、オレらが危なくなっても教えてやりてえじゃねーか」
「気持ちはわかる。だが考えてもみろ。いままでいた場所は、話でしか聞いたことがない『魔法』を平気で使う奴らがいたんだぞ。あの女の言葉がただの脅しで済むと思うか? 誰かに話した瞬間に俺たちの首が飛ぶ可能性だってある」
「でもっ!」
「別に俺だってこのままにするつもりはない。ただ、少し考えよう。今すぐは無理でも、好機が必ず来る。この事を知ってるのが俺たちだけである以上、まずは俺たちが誰かに伝えるまで無事でいなければ」
「っ……。わかった。考えてみる」
「ああ。おっと、急いで帰らないとまずいな」
「おう。そうだな」
空は宵の口などとうに過ぎ、星の瞬きを感じれるほどだ。
二人は再び、ぬかるみに歩を進める。
ガサッ
「うおっ!」
「ひっ!」
それぞれの声を上げ音の元を見ると、わざとらしい羽音を立ててカラスが飛んでいくところだった。
それを見て二人は安堵の声をを漏らすと、帰路についた。
「ん」
いまだぬかるむ帰路を進む。
女が言っていた通り、雨がやんでから間もないようだ。
踏みしめる毎に地面からは水が染み出し、離れる時には靴底に絡みついた泥がその場に留めんと抵抗する。
「あれ見たよな」
「ああ、間違いないだろう」
二人が思うのは門をくぐる前のこと
「では、いく、する、です」
薬品臭満ちた医務室で、魔族の女は虚空に手をかざすと言葉を発した。
それは紛れもなく、この世界に足を踏み入れる元凶となったもの。
虚空を揺らめかせ、門は再び姿を現した。
今この場にいることがどれだけの奇跡であるか、門は二人に突きつける。
そのとき
「ううあ、うああああんっ!」
「「「!?」」」
背後から発せられた声に振り替えると、カーテンで囲われたベッドが5台。
声の主は、中央のベッドにいるようだ。
「赤ん坊か……?」
源太がつぶやくと同時、女はおもむろにベッドに歩み寄ると、静かにカーテンを開けた。
そのまま女に抱き上げられた声の主は、紛れもなく赤ちゃんだった。
「美雪ねーちゃんの娘だよな」
「証拠はないが、可能性は高い」
考えてみれば、おかしなところが多い。
あの大きな屋敷で赤ちゃんの寝室が医務室。ベビーベッドの一つでもあるだろうに。
茶会のメンバーの子供で、あんな扱いをするだろうか。
あの中心人物と思しき男の子供であれば、保母の1人でもいてもおかしくはないだろう。
そもそも親があんな生まれて間もない子供の傍を離れていられるはずもない。
つまりは、あの場にいた者たちの子供ではない。
「そうなんだよな。証拠ねえ……つの?」
「どうした」
「なあ源太。魔族って生まれたときから角生えてんのか」
「ふん……おそらく。昔爺さまから聞いた話では、小さくはあるが生えていると。それが魔族の証であると聞いたな」
「なら、証拠があるぜ。赤ん坊の頭は真っ平だった。間違いねえ」
「あんな一瞬で、わかるものか。俺たちが赤子を目にした矢先に、気にするなと隠され、仲間があやしながら部屋を出て行ってしまっただろう」
「オレの記憶力知ってんだろ」
「ぐっ……」
得意げに笑う聖護に珍しく気圧される源太。
事実、聖護の記憶力は目を見張るものがある。
学舎でも暗記物の試験は毎回満点を叩き出し、7日前の朝食を瞬時に答えることができる。
ほかの面がおざなりな分、聖護の記憶には良くも悪くも気を付けていた。
だからこそ、今の言葉も信用に値する。
「お前が言うなら信じよう。しかしどうする。言いたいのはやまやまだが、あの女には釘を刺されている。口を滑らせれば、俺たちが危険だぞ」
「でも、美雪ねーちゃんが泣いてたんだぞ。せめて無事だったことぐらい、オレらが危なくなっても教えてやりてえじゃねーか」
「気持ちはわかる。だが考えてもみろ。いままでいた場所は、話でしか聞いたことがない『魔法』を平気で使う奴らがいたんだぞ。あの女の言葉がただの脅しで済むと思うか? 誰かに話した瞬間に俺たちの首が飛ぶ可能性だってある」
「でもっ!」
「別に俺だってこのままにするつもりはない。ただ、少し考えよう。今すぐは無理でも、好機が必ず来る。この事を知ってるのが俺たちだけである以上、まずは俺たちが誰かに伝えるまで無事でいなければ」
「っ……。わかった。考えてみる」
「ああ。おっと、急いで帰らないとまずいな」
「おう。そうだな」
空は宵の口などとうに過ぎ、星の瞬きを感じれるほどだ。
二人は再び、ぬかるみに歩を進める。
ガサッ
「うおっ!」
「ひっ!」
それぞれの声を上げ音の元を見ると、わざとらしい羽音を立ててカラスが飛んでいくところだった。
それを見て二人は安堵の声をを漏らすと、帰路についた。
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