魔王の子育て日記

教祖

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ハプニング大好き魔王さん

帰ろうかもう帰ろうよ その2

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 「やっと着いたぜ」
 荷車から解放された魔王は、わざとらしく肩を回してみせた。
 が、勿論パインがそんな事を気に留める訳もなく
 「そうですね。迷子探し・・・・と見栄を張った誰かの後始末が無ければ、半分の時間でここまで戻ってこれたでしょうね」
 冷笑を添えて答えるのだった。
 「ひっ! さ、さーて帰ろう帰ろう。我が家が主人の帰還を待ちかねてるぜ」
 流石の魔王も伏せ字が誰を指すのか見当がついたのか、門へと足を向けた。

 そう、なぜかあるがままの姿を晒す魔界へと繋がる門へと――――

「「っ!?」」

 あのパインでさえも異変に気づかなかったのは、先の一件の疲労と安息の地への帰還に対する安堵によるものだろう。
 「見えなくしたよな? まさか時間経つと元に戻っちまうのか?」
 「そんなはずはありません! そんなはずは――――」
 ない。
 確かに魔術は掛かっていた。
 まさかこの世界に魔術を使える者がいるとでもいうのか? 
 それこそありえない。
 では、この状況は――――
 
 「まあ、悩んでもしょうがねえ。ほら行くぞ?」
 あっけらかんと言い放つと、魔王は再び荷車を押して揺らめく漆黒の帰路に歩みを進めた。
 「っ! ちょっと待ってください! 魔術を解いたのが何者なのかも分からないのに、どうしてそんなためらわずに進めるんですか!?」
 一歩遅れて、パインも門をくぐった。
 しかし、魔王とは違い辺りを確認せずにはいられない。もっとも、二歩ほど先を行く魔王の背中の輪郭をかろうじて捉えられる程度の暗闇の中、見回したところで何も見えはしないのだ。
 「パッと見て分かんねーなら、行ってみるしかねえだろ。もしかたら、あっちに行ってるかもしんねえ。大体、危ねぇ奴ならメイド連中が心配だ。まあ、俺が行く前に行動不能になってるだろうけどな。敵が」
 カカカと軽く笑って、歩調を早める。
 「そんな楽観的な」
 「もう着くぞ!」
 なんとか魔王のついて行くと、気がつけば光に包まれていた。
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