魔王の子育て日記

教祖

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ここら辺で魔王を見ませんでしたか?

母は偉大なり その3

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 しかし、二つの塊に目を奪われていた二人は反応が遅れた。
 「こ、こなみるく、ある、ですか?」
 「粉ミルク? あー、それなら確か……」
 パタパタと店の奥に入って行くと、何かを漁る音が聞こえた後、あった! と声を上げて二人の前に戻ってきた。
 「はいこれ! よかったわねー。最後の一缶だったわよ」
 女店主は誇らしげに粉ミルクを差し出してきた。
 自分の成果でもないのに、女店主は胸を張った。それに応じて、主張の強い塊がぶるんと揺れる。
 「ありがとう、です」
 「はいよ! お代は750マルね」
 「750……」
 パインがポケットから財布を取り出していると後ろから声が聞こえた。
 「トヨさーん!」
 振り返ると、そこに一人の少年がいた。
 「あら義喜! お使いかい?」
 「うん!」
 女店主に義喜と呼ばれた少年は、元気に頷いた。 
 「今日は何が要りようだい?」
 「母ちゃんのお乳の出が悪いから粉ミルクを買いにきたんだ」
 「こなみるく……」
 パインは隣の魔王の右腕に抱えられた缶を見た。
 女店主の話が本当なら、この缶が最後。
 つまりどちらかが手に入らない。
 しかし、ここで手に入れなければ、また探しに行かなければならない。 
 でも、このお使いに来たという純真無垢な少年の思いを無下にするのも如何なものか。
 パインの目線は粉ミルクと少年を往復し続ける。
 その視線の意図を察した女店主は、少年の前に歩み出ると、目線を合わせるため膝を折って、語りかける。
 「ごめんね義喜。このお客さんので最後なの。佐伯さえきさんとこで買って」
 「えー、やだよ。だってあそこのおじさん、ちょっと怖いし……」
 気乗りしないのか、吉喜は苦笑いを浮かべる
 「いや、それは……。とにかくさ、でもこのお客さんが最初に来たからお客さんにも悪いから頼むよ」
 「……うん」
 少年は渋々と言った様子で頷くと踵を返し、とぼとぼと来た道を戻り始めた。
 パインは、ばつが悪そうに少年と女店主を交互に見つめた。
 「お客さんは気にしなくていいんだよ。仕入れの甘かったアタシが悪いんだから」
 「そう、ですか……」
 パインは申し訳なさそうに目を伏せる。
 その様子を見ていた魔王はパインに問う。
 「なんかあったのか? さっきの子ども落ち込んでたみたいだけど」
 「あの子も粉ミルクを欲しがっていたようなのですが、どうもこれが最後の一缶らしく」
 「ふーん。そんであの子は?」
 「なんでも他にも粉ミルクを置いている店があるようなので、そちらに向かったようですがって、魔王様!? どちらに行かれるんですか!」
 「お客さん、どこ行くの!」
 話の途中でいきなり走り出した魔王に二人は制止の声を投げかける。
 しかし、二人の声を背中で聞き流し魔王が向かったのは、先ほど踵を返して去っていった少年の元だった。
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