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ここら辺で魔王を見ませんでしたか?
魔王を探せ! その3
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「なに、ですか?」
「何か誤解をなさっているようなので申し上げます。このお店は誠実にお客様のお身体のお悩みを解決する処です。お連れ様が仰るような行為は一切行っておりません」
「そこまで、いう、なら、きく、です。こっとうや、から、ここ、ひわい、こと、する、みせ、きく、した、です」
「そんなっ! いったい誰から!?」
「こっとうひん、みせ、しゅじん、です」
「あそこのご主人が? あの人はいかにも法螺吹きといった風貌ですが、堅実で嘘のつけない方と有名なのですよ。」
「でも、たしか、ここ、いう、された、です」
「何かの間違いです! 私たちは決して」
「まあ落ち着きなさい」
女性の声を遮る、年を重ねた深みのある声が入り口から聞こえた。
そこにはこの店の店主と思しき、恰幅のいい男性が立っている。
「だって父さんっ!」
店主は抗議する娘の肩に手を置いて下がらせると、パインの前へと歩み出た。
「え?」
パインは驚愕に目を開く。
こう言ってはなんだが、男性と魔王をマッサージしていた女性とはあまりにも容姿が違いすぎる。
それこそ種族が違うレベルの話だ。
人間も突然変異が存在するのか。
パインは人間の遺伝に大きな疑問を抱いた。
「お客様の前では店長だ。お客様? うちの店員はこの通り、男女比も半々でございます。お客様が仰るような行為はとてもしにくい環境でございます」
父さんと呼ばれたのは、この店の店主。そして目の前の女性の父である人物だ。
店主は自らの後ろで中の様子を伺っている従業員を指して言った。
「それは、そう、です」
「お分かり頂けましたか?」
「はい。でも、どうして、こっとうや、ここ、ひわい、いう、した、ですか?」
「なぜでしょうか。よろしければ、店主ここへどうやって来られたかお教えいただますか?」
「おれ、みて、ひだり、ろじ、にこ、こえる、して、つぎ、みぎ、まがる、して、さんこ、たてもの、の、ところ、きいた」
「ふむ……」
店主はパインの言葉を噛み砕き、脳内で骨董屋からここまでの道のりを辿った。
確かにあっている。
紛れもなくうちへの道のりだ。しかしだとしたらなぜこの人の言うようなことを言ったのか。少なくとも悪い関係ではなかったと思うのだが。
店主はしばらく思索に耽った。
骨董屋とは同じ街の商売仲間として、決して浅くはない付き合いをしてきた。それこそ陰口を叩かれるような関係ではない。
だが、目の前の彼女の言葉通りなら、うちをいかがわしい店と骨董屋が言ったことになる。
そもそも、どうして彼女はいかがわしい店と言われたのにも関わらず、うちの店にやってきたのだろう。女性ならそう言った商売をする店には嫌悪感を抱くはず。それなのになぜ。
だいたいこの街にはいかがわしい店など……
幾つもの考察を積み重ね、情報を整理する。
そしてふとある答えが生まれた。
「少しよろしいでしょうか?」
ちょいちょいと手招きを受けたパインは、躊躇いながらも店主へ近づく。
不思議そうに首を傾げる魔王と店主の娘を尻目に、店主はパインに囁いた。
いつの間にか部屋の入り口には、従業員以外にもマッサージを受けていたであろう客もギャラリーに加わっている。
皆、中の様子を伺おうと背伸びをしている。
「そんなっ! わたし、まちがい、しない」
パインが店主の囁きに聞き入っていたのもつかの間、クワッと目を見開き叫んだ。
店主以外、驚きに息が詰まる。
店主だけはそんな中でも淡々と事実を述べる。
「確かに私の勘違いかもしれません。ですがこの店の反対にその店があるのも事実です。これでも骨董屋の店主とは長い付き合いですから」
店主は味のある笑顔をパインに向けた。
とても口からでまかせを言ってるとは思えない。
そう思ったパインは、類稀な記憶力を駆使して骨董屋との会話の後を思い出す。
話を打ち切り店主の言ったとおり左に……ひだり? 骨董屋の言った左とは、私から見れば、右。
みぎ!!?
「何か誤解をなさっているようなので申し上げます。このお店は誠実にお客様のお身体のお悩みを解決する処です。お連れ様が仰るような行為は一切行っておりません」
「そこまで、いう、なら、きく、です。こっとうや、から、ここ、ひわい、こと、する、みせ、きく、した、です」
「そんなっ! いったい誰から!?」
「こっとうひん、みせ、しゅじん、です」
「あそこのご主人が? あの人はいかにも法螺吹きといった風貌ですが、堅実で嘘のつけない方と有名なのですよ。」
「でも、たしか、ここ、いう、された、です」
「何かの間違いです! 私たちは決して」
「まあ落ち着きなさい」
女性の声を遮る、年を重ねた深みのある声が入り口から聞こえた。
そこにはこの店の店主と思しき、恰幅のいい男性が立っている。
「だって父さんっ!」
店主は抗議する娘の肩に手を置いて下がらせると、パインの前へと歩み出た。
「え?」
パインは驚愕に目を開く。
こう言ってはなんだが、男性と魔王をマッサージしていた女性とはあまりにも容姿が違いすぎる。
それこそ種族が違うレベルの話だ。
人間も突然変異が存在するのか。
パインは人間の遺伝に大きな疑問を抱いた。
「お客様の前では店長だ。お客様? うちの店員はこの通り、男女比も半々でございます。お客様が仰るような行為はとてもしにくい環境でございます」
父さんと呼ばれたのは、この店の店主。そして目の前の女性の父である人物だ。
店主は自らの後ろで中の様子を伺っている従業員を指して言った。
「それは、そう、です」
「お分かり頂けましたか?」
「はい。でも、どうして、こっとうや、ここ、ひわい、いう、した、ですか?」
「なぜでしょうか。よろしければ、店主ここへどうやって来られたかお教えいただますか?」
「おれ、みて、ひだり、ろじ、にこ、こえる、して、つぎ、みぎ、まがる、して、さんこ、たてもの、の、ところ、きいた」
「ふむ……」
店主はパインの言葉を噛み砕き、脳内で骨董屋からここまでの道のりを辿った。
確かにあっている。
紛れもなくうちへの道のりだ。しかしだとしたらなぜこの人の言うようなことを言ったのか。少なくとも悪い関係ではなかったと思うのだが。
店主はしばらく思索に耽った。
骨董屋とは同じ街の商売仲間として、決して浅くはない付き合いをしてきた。それこそ陰口を叩かれるような関係ではない。
だが、目の前の彼女の言葉通りなら、うちをいかがわしい店と骨董屋が言ったことになる。
そもそも、どうして彼女はいかがわしい店と言われたのにも関わらず、うちの店にやってきたのだろう。女性ならそう言った商売をする店には嫌悪感を抱くはず。それなのになぜ。
だいたいこの街にはいかがわしい店など……
幾つもの考察を積み重ね、情報を整理する。
そしてふとある答えが生まれた。
「少しよろしいでしょうか?」
ちょいちょいと手招きを受けたパインは、躊躇いながらも店主へ近づく。
不思議そうに首を傾げる魔王と店主の娘を尻目に、店主はパインに囁いた。
いつの間にか部屋の入り口には、従業員以外にもマッサージを受けていたであろう客もギャラリーに加わっている。
皆、中の様子を伺おうと背伸びをしている。
「そんなっ! わたし、まちがい、しない」
パインが店主の囁きに聞き入っていたのもつかの間、クワッと目を見開き叫んだ。
店主以外、驚きに息が詰まる。
店主だけはそんな中でも淡々と事実を述べる。
「確かに私の勘違いかもしれません。ですがこの店の反対にその店があるのも事実です。これでも骨董屋の店主とは長い付き合いですから」
店主は味のある笑顔をパインに向けた。
とても口からでまかせを言ってるとは思えない。
そう思ったパインは、類稀な記憶力を駆使して骨董屋との会話の後を思い出す。
話を打ち切り店主の言ったとおり左に……ひだり? 骨董屋の言った左とは、私から見れば、右。
みぎ!!?
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