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ここら辺で魔王を見ませんでしたか?
魔王を探せ!
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「ま、はぐれちまったもんはしょーがねーな。ったく、一体どこに行ったんだ? やれやれ、こりゃ探すしかねーな」
わざとらしく呟くと魔王は歩みを進めた。
もちろん魔王はパインを探す気などは毛頭ない。
合法的にパインと離れることができた上、もし見つかったとしてもお前を探していたとでも言えばお咎めなしという最高のシチュエーションをどう満喫するか。
魔王の頭の中はそれが全てだ。
目の前に広がるのは、夢にまで見た人間の街。テンションを上げるなという方が無理な話だろう。
そんな魔王の目に止まった一つの店があった。
「これはっ!!!」
早く魔王を見つけ出さなければ何が起こるかわからない。
最悪、魔王の正体が露呈した場合、この街どころかこの国の全兵士がここに集うだろう。
いくら魔王とはいえ、何百もの兵士を相手にして行きて帰れるとは思えない。
そんな事態はなんとしても避けなければ。
とりあえず魔王を撒いてしまった場所まで戻ってみるが、姿はない。
パインは拙い人間語を駆使して聞き込みを開始した。
「かみ、くろい、ふく、おなじ、わたし、のと、もだち、みな、かた?」
ちょうど左に骨董品を扱っていると思しき店があったので店主の親父に聞いてみた。
「のと、もだち? ああ! の、友達か。みな、かた、は、見なかった?」
パインは首を縦に振った。
「髪が黒くて、君と同じ服を着た友達を見なかったか? ということか。うーん。悪いけど見てないね」
「わかった、です。ありがと、でした」
礼を言いその場を後にしようと踵を返したとき、背中に声がかかった。
「なあ、ねぇちゃん、その連れってのは男かい?」
親父の問いに再び顔を合わせたパインは怒りの表情を滲ませていた。
歳が少しいった中年の男は若い女性に対して冷やかしをすることがある。見たところこの男は少々下世話な話題を好みそうな人相をしている。
私も齢19の女。冷やかしを甘んじて受け入れられるほど生きてきていない。もしそうならそれなりの対応をさせてもらおう。
パインは獲物を狙う猛禽類のように慎重に親父に次の言葉を促す。
「そうだ、です、だけど、それが、どう、したですか?」
「いやな? 男ってのは新天地の土を踏んだとき舞い上がっちまうもんでよ。おもわずよからぬところに足を踏み入れちまうことがあんだよ」
「それ、だから?」
「実はな、この街にゃあちっとばかし世間様にはおおっぴらにできねえ店があるんだ。ねぇちゃんの連れを悪く言うつもりはねえが、もしかしたらってこともあるからよ」
人間語を学んだのは全て独学だ。
多くは書物。補いきれないところは専門家から聞いた。
その専門家曰く、人間は本当の意味を隠して話をするという。
伝えるべき本質をあえて隠すなんて意味がわからない。
「もしかしたら、とは、どういう、いみ、ですか?」
「だから、ねぇちゃんの連れがその店に行っちまってるんじゃねえかってことよ」
「そんな、はず、ない、です……」
なんとか否定したものの、パインの目は泳いでいる。
というのも、城で見つけたあの紙の束を見る限り否定しきれないからである。
「だな。まあ変な親父の戯言だと思ってくれ。引き止めて悪かったな。ああそうだ、これはあくまで独り言だけど、確かあの店は俺から見て左に向かって路地を二つ越えて、次の路地を右に曲がって三つ目の建物だったな」
「いいえ、だい、じょぶ、です」
骨董屋の親父に向かって一礼するとパインは静かに歩き出し、骨董屋からある程度離れたのを確認してから猛スピードで走り出した。自分から見て左に向かって。
「おいっ! 逆だー! って聞いちゃいねーか」
親父が呼びかけた時には、パインは声の届かぬところまで走り去っていた。
その後ろ姿を眺めながら親父は静かに煙草をふかした。
わざとらしく呟くと魔王は歩みを進めた。
もちろん魔王はパインを探す気などは毛頭ない。
合法的にパインと離れることができた上、もし見つかったとしてもお前を探していたとでも言えばお咎めなしという最高のシチュエーションをどう満喫するか。
魔王の頭の中はそれが全てだ。
目の前に広がるのは、夢にまで見た人間の街。テンションを上げるなという方が無理な話だろう。
そんな魔王の目に止まった一つの店があった。
「これはっ!!!」
早く魔王を見つけ出さなければ何が起こるかわからない。
最悪、魔王の正体が露呈した場合、この街どころかこの国の全兵士がここに集うだろう。
いくら魔王とはいえ、何百もの兵士を相手にして行きて帰れるとは思えない。
そんな事態はなんとしても避けなければ。
とりあえず魔王を撒いてしまった場所まで戻ってみるが、姿はない。
パインは拙い人間語を駆使して聞き込みを開始した。
「かみ、くろい、ふく、おなじ、わたし、のと、もだち、みな、かた?」
ちょうど左に骨董品を扱っていると思しき店があったので店主の親父に聞いてみた。
「のと、もだち? ああ! の、友達か。みな、かた、は、見なかった?」
パインは首を縦に振った。
「髪が黒くて、君と同じ服を着た友達を見なかったか? ということか。うーん。悪いけど見てないね」
「わかった、です。ありがと、でした」
礼を言いその場を後にしようと踵を返したとき、背中に声がかかった。
「なあ、ねぇちゃん、その連れってのは男かい?」
親父の問いに再び顔を合わせたパインは怒りの表情を滲ませていた。
歳が少しいった中年の男は若い女性に対して冷やかしをすることがある。見たところこの男は少々下世話な話題を好みそうな人相をしている。
私も齢19の女。冷やかしを甘んじて受け入れられるほど生きてきていない。もしそうならそれなりの対応をさせてもらおう。
パインは獲物を狙う猛禽類のように慎重に親父に次の言葉を促す。
「そうだ、です、だけど、それが、どう、したですか?」
「いやな? 男ってのは新天地の土を踏んだとき舞い上がっちまうもんでよ。おもわずよからぬところに足を踏み入れちまうことがあんだよ」
「それ、だから?」
「実はな、この街にゃあちっとばかし世間様にはおおっぴらにできねえ店があるんだ。ねぇちゃんの連れを悪く言うつもりはねえが、もしかしたらってこともあるからよ」
人間語を学んだのは全て独学だ。
多くは書物。補いきれないところは専門家から聞いた。
その専門家曰く、人間は本当の意味を隠して話をするという。
伝えるべき本質をあえて隠すなんて意味がわからない。
「もしかしたら、とは、どういう、いみ、ですか?」
「だから、ねぇちゃんの連れがその店に行っちまってるんじゃねえかってことよ」
「そんな、はず、ない、です……」
なんとか否定したものの、パインの目は泳いでいる。
というのも、城で見つけたあの紙の束を見る限り否定しきれないからである。
「だな。まあ変な親父の戯言だと思ってくれ。引き止めて悪かったな。ああそうだ、これはあくまで独り言だけど、確かあの店は俺から見て左に向かって路地を二つ越えて、次の路地を右に曲がって三つ目の建物だったな」
「いいえ、だい、じょぶ、です」
骨董屋の親父に向かって一礼するとパインは静かに歩き出し、骨董屋からある程度離れたのを確認してから猛スピードで走り出した。自分から見て左に向かって。
「おいっ! 逆だー! って聞いちゃいねーか」
親父が呼びかけた時には、パインは声の届かぬところまで走り去っていた。
その後ろ姿を眺めながら親父は静かに煙草をふかした。
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