魔王の子育て日記

教祖

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魔界へ

とりあえず一杯 その6

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 「@&☆♪→\$☆?」
 「@&☆♪→\$☆@&☆♪→\$☆」
 「@&☆♪→\$☆……」 
 小柄な体格の少年は頷くとメモ帳を一枚めくり、爺の方を向くと書くものを要求するジェスチャーをした。
 爺は自分のが背を向けていた方向にある魔王の机に歩いていくと、「失礼します」と断りを入れ羽根ペンとインクを持ってきた。
 それを受け取った少年は、ペンにインクを含ませて手馴れた様子でメモ帳にペンを走らせた。
 「へ~。結構……いやめちゃくちゃ上手いっ! なに君! 魔法でも使えんの!?」
 その姿を眺めていたセリアが思わず叫んだ。他のメイド達もハリルを含め、皆が驚きの表情を示した。
 淀みなく紙面を滑るペンに描き出される風景は、単に線で物体の輪郭をなぞったものではなく、陰影を描き入れ立体的に描かれたものだ。
 おそらく何かの薬品が入っているであろうガラス戸の前に立つ重厚な佇まいの門。
 中は漆黒で満たされ奥を見通すことは敵わない。
 その外枠には何かの花が彫られ、禍々しさの中に可憐さを添えている。
 「これはゲート、ですかな?」
 顎に手を当て爺は呟いた。
 「門ってさっきの?」
 バンゼインはコリユスに問うた。
 「ああ。本来あれには人間に見えぬよう幻術の魔術をかけるはずなのだが、術をかけ忘れたか、あるいは術をかけたが解けてしまったのか。どちらにせよ人間にも視認できるようになってしまったのだろう」
 バンゼインの問いに爺が答えた。
 「じゃあ、まだ門が丸見えの状態で人間界にあるってことですか!?」
 「そうなるな」
 「どうするんですか! 他の人間が門を通ってこっちに来たら!」
 「まあパインのことだ。おいそれと人に見つかるような場所に設置したとは思えん」
 「でも、もしもということもあります!」
 「だがな、私には魔王様やパインのような魔力はない。というかあの二人が異常なのだ。中位魔法を扱えるような魔族は城内には残っておらん」
 「そんな……」
 目の前の二人がここにいるだけでも耐え難い苦痛だというのに、まだ人間がこの世界に入ってくる可能性があるなんて、考えたくもない。
 魔王様、パインさん、早く帰ってきて……
 ハリルの悲痛な叫びに応じるように部屋のドアが開け放たれる。
 
 「「「っ!?」」」

 「大丈夫ですか!?」
 
 そこには珍しく焦りを見せるパインが立っていた。
 拳を固め狩りの時を待つ獣のような出で立ちで。
 「メイド長!」
 ハリルは思わず席を立ちパインの元へと走った。
 「何かされたんですか? いったい誰が!?」
 「本当に帰ってきてくれてありがとうございます!」
 辺りを見回すパインの手を取り、上下に激しく振る。
 彼女の頬は涙で濡れていた。
 
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