魔王の子育て日記

教祖

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ここら辺で魔王を見ませんでしたか?

母は偉大なり その14

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 焦りは禁物とはよく言ったもので、そんなときに限って何かしらの不幸が舞い込んでくるものである。
 声の主は、すっかり眼中から外れていた女店主。会ってからの快活な表情とは打って変わった、訝しげに見つめる瞳。
 パインのみぞおちに不安感が異物となって、一瞬呼吸を妨げた。
 女店主は続けて魔王を指さし開口
 「黙って聞いてたけど、今のはさすがに無理。あんた、さっきのは演技だったの? だとしたら街一番の劇団紹介するけど、違うだろう? 時間がかかるだけで、わざわざ演技する意味がない。 ってことは、いきなり力が何倍にもなったってことだ。あんな一瞬で力を倍増させる術は、アタシは魔術しか知らないよ。あんたら何者だい? 近頃中央では魔術が使える人間がいるなんてうわさ話を聞いたけど、あんまりいい話は聞かなかったよ?」

 佐伯は魔王に指をさしたまま、パインに顔を向ける。さされた当人は、目を丸くして立ち尽くしている。
 魔王に通訳をしろということか、それともお前が答えろということか、おそらくは両方であろう。
 佐伯の反応に活路を見出したのもつかの間、思わぬ伏兵が潜んでいた。
 ここは人間界で私たちは魔族。それも魔界を統べる魔王と側近。
 人間界なら総臣民卒倒物の話だ。
 それがこうやって現実になっているのは歴代魔王の慣例・・・・・・・あってこそ。
 もっと魔王に注意していれば……。
 ここで下手な返答してしまえば、自警団に突き出され、そこからは想像もしたくない。
 「くっ!」
 思わず声が漏れる。
 まさかこんなところで、足元をすくわれてしまうとは。ほかに打つ手は……。
 明晰な頭脳がいくつもの案を反芻するも、どこにも女店主の快活な笑顔が見えない。
 ひとまず、何か話さなければ。無言は肯定とみなされてしまう。
 しかし、なにを? 
 
 こうなれば、覚悟を決めるか――――
 魔術で起こした問題は魔術で解決するしかない。
 認識阻害の魔術。一時的に特定の生き物から特定の生物や物を認識させなくする術。
 魔力の消費は問題ではないが、確実に混乱を招いてしまう。
 言ってしまえば、目の前にいた人間が一瞬消えてしまうのだ。下手をすれば、大事おおごとになりかねない。
 だが、やらなければ、この窮地からは逃れられない。
 「――――っ!」

 「違うわよトヨさん!」

 意を決したパインの魔術詠唱を遮った声の主は、佐伯だ。
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