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人間界へ
LET’S人間界 その9
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「もう分かりました! 魔王様も人間界に連れて行きますから、力を貸してください」
「っしゃあ! その言葉を待っていた!」
俺の天下だー! と魔王は喜びの舞を踊ると、パインの横に立ち同じように右手を突き出した。
「魔王様、何を?」
「ん? まだみんな仕事あんだろ」
あっけらかんと答え、魔王は言葉を紡ぐ。
我は理を改変す。
数多のゆらぎを礎に、俄かに様を門とする。
魔力を贄に異なる双界を結べ
開け!
魔王の呼びかけに応じるように自身の瞳がライトパープルの光を帯びた。すると右手の先からも同色の光が現れ、それはどんどんその濃さを増し、最後にはほぼ黒に近い色になった。
するとその光は魔王の右手を離れ、前方に進みながら肥大化し、魔王の背丈に頭三つ分を足したほどの大きさになると、動きを止めその場で門を形作った。
完全に形が安定すると、その中に漆黒の闇が広がった。
「これが門か」
セリアは初めて見る門に感嘆の声を上げた。
「これで俺も人間界に……!」
魔王は門の先にある人間界を想像して興奮した。ご丁寧によだれまで垂れている。
瞳の光も消えていた。
「まさか、本当に一人で中位魔法を発動させるなんて……」
パインは予想をはるかに上回る魔王の魔力に、畏怖の念を抱かずにはいられなかった。
「うあ、うう」
新たに門の出現に声が上がった。
突然の声の主はもちろん赤子。
「出した後は腹が減る。それが自然の摂理、世の理」
「うああああん! うああああん!」
魔王の声に応じるように赤子は泣き始めた。
「うん。元気だな赤ん坊!」
「何を平然としておるのですか! なだめるのがどれほど大変か、魔王様はわかっていらっしゃるのですか!」
「別に俺のせいじゃねーだろ。ほらほら今度は絶対ミルクだぞ。さっさと買いに行かねーと」
「くっ……! 最も危険な方を連れて行かなければならないとは、不安しかありません」
「心配すんなよ。何もしねーから……多分」
「もう嫌」
この言葉が本音であることは誰もが周知の事項だった。
「んじゃ行ってくる」
「早急にミルクを調達してきます」
人間界に行くべく角を目深にかぶったフードで隠し、旅人然とした格好の二人は、メイド達と爺に出掛けの挨拶をした。
「「「いってらっしゃいませ」」」
見送りを背に、二人は門をくぐっていった。
一呼吸置いて、最初の光景が逆再生されるように門は虚空へと姿を溶かした。
「なあパイン。 門って無くなったのか?」
小道をしばらく進んだ後、ふと魔王はパインに問いかけた。
「いえ、不可視状態にしただけです。
とは言っても、魔力で召喚されたものは魔力を持つ者にしか触れることはできませんから、人間に見つかることはないでしょう」
「ふーんそっか。お? なんか森を抜けたっぽいぞ」
「本当ですね」
二人の先からは瞳に刺さるような陽光が差し込み、森の終わりを告げていた。
「今回ばかりはパインの勘が当たったな」
「ばかりとはなんですか。いつもです」
「いやそれはない」
そんな軽口を叩きつつ、二人は森を抜けた。
「っしゃあ! その言葉を待っていた!」
俺の天下だー! と魔王は喜びの舞を踊ると、パインの横に立ち同じように右手を突き出した。
「魔王様、何を?」
「ん? まだみんな仕事あんだろ」
あっけらかんと答え、魔王は言葉を紡ぐ。
我は理を改変す。
数多のゆらぎを礎に、俄かに様を門とする。
魔力を贄に異なる双界を結べ
開け!
魔王の呼びかけに応じるように自身の瞳がライトパープルの光を帯びた。すると右手の先からも同色の光が現れ、それはどんどんその濃さを増し、最後にはほぼ黒に近い色になった。
するとその光は魔王の右手を離れ、前方に進みながら肥大化し、魔王の背丈に頭三つ分を足したほどの大きさになると、動きを止めその場で門を形作った。
完全に形が安定すると、その中に漆黒の闇が広がった。
「これが門か」
セリアは初めて見る門に感嘆の声を上げた。
「これで俺も人間界に……!」
魔王は門の先にある人間界を想像して興奮した。ご丁寧によだれまで垂れている。
瞳の光も消えていた。
「まさか、本当に一人で中位魔法を発動させるなんて……」
パインは予想をはるかに上回る魔王の魔力に、畏怖の念を抱かずにはいられなかった。
「うあ、うう」
新たに門の出現に声が上がった。
突然の声の主はもちろん赤子。
「出した後は腹が減る。それが自然の摂理、世の理」
「うああああん! うああああん!」
魔王の声に応じるように赤子は泣き始めた。
「うん。元気だな赤ん坊!」
「何を平然としておるのですか! なだめるのがどれほど大変か、魔王様はわかっていらっしゃるのですか!」
「別に俺のせいじゃねーだろ。ほらほら今度は絶対ミルクだぞ。さっさと買いに行かねーと」
「くっ……! 最も危険な方を連れて行かなければならないとは、不安しかありません」
「心配すんなよ。何もしねーから……多分」
「もう嫌」
この言葉が本音であることは誰もが周知の事項だった。
「んじゃ行ってくる」
「早急にミルクを調達してきます」
人間界に行くべく角を目深にかぶったフードで隠し、旅人然とした格好の二人は、メイド達と爺に出掛けの挨拶をした。
「「「いってらっしゃいませ」」」
見送りを背に、二人は門をくぐっていった。
一呼吸置いて、最初の光景が逆再生されるように門は虚空へと姿を溶かした。
「なあパイン。 門って無くなったのか?」
小道をしばらく進んだ後、ふと魔王はパインに問いかけた。
「いえ、不可視状態にしただけです。
とは言っても、魔力で召喚されたものは魔力を持つ者にしか触れることはできませんから、人間に見つかることはないでしょう」
「ふーんそっか。お? なんか森を抜けたっぽいぞ」
「本当ですね」
二人の先からは瞳に刺さるような陽光が差し込み、森の終わりを告げていた。
「今回ばかりはパインの勘が当たったな」
「ばかりとはなんですか。いつもです」
「いやそれはない」
そんな軽口を叩きつつ、二人は森を抜けた。
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