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◇最終章 されど御曹司は◇
セカンドライン②
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久我の言う「玲旺に相応しい」というものが何なのか良くわからないが、久我はもう充分過ぎるほどの結果を出したはずだ。
それなのにまだ会いに来ないという事は、きっともう、今更自分とどうこうなるつもりはないのだろう。
「藤井、悪い。買い物して帰りたいから、次の出口で高速降りてもらっていい?」
「買い物ですか? 次の出口は芝公園ですよ。それなら芝公園の次で降りて六本木へ向かいましょうか? このまま降りずに渋谷まで行くのも良いかと思いますが」
藤井は不可解そうにルームミラー越しに玲旺を見た。玲旺は肩をすくめ、「うーん」と唸りながら困ったような顔をする。
「白状すると、ちょっと一人で歩きたいだけだから芝公園が丁度いいや。東京タワー見たら、日本に帰ってきたなーって実感しそうだし」
ははっと笑って玲旺は窓の外に視線を逸らす。藤井はウインカーを出し、言われた通り芝公園の出口で降りた。日比谷通りを真っ直ぐ進み公園に車を横付けすると、運転席から心配そうに玲旺を振りかえる。
「今日は雨の予報も出ていますし、すぐにお戻りください。私は駐車場で待機しておりますから」
藤井の言葉通り、灰色の低い雲が空を流れていて、今にも降り出しそうだった。曇天を見上げなが、玲旺はゆっくり首を振る。
「藤井はこのまま仕事に戻っていいよ。就業中に送らせちゃってごめんね。ありがとう」
「そんな事はお気になさらずに。玲旺様のお世話は私の中で最も優先すべき任務なのです。あなたに関われる事が、私の生き甲斐なのですから」
「何だか熱烈だね」
「それは、もう」
大真面目に藤井が頷くので、玲旺は思わず吹き出してしまった。
「玲旺様、もうじき日も暮れます。夜は少し冷えますし、長旅のお疲れもあるでしょうから風邪を引かれては大変です。早めに帰りましょう」
「うん。ごめん。明日からちゃんとするから、今日だけワガママ許してくれる?」
車を降りながら玲旺が申し訳なさそうに告げると、藤井は肩を落としてため息を吐いた。
「……あなたにそんな風に言われたら、従うしかないじゃありませんか」
仕方ないですねと笑われたので、玲旺も面映ゆそうに「ありがとう」と返す。
藤井の車を見送った後、玲旺はぐるりと公園内を見回した。園内の木々は紅葉が始まっていて、重たそうな黒い雲ともみじのコントラストに見惚れてしまう。木に囲まれているせいか公園内の空気はひんやりしていて、少し肌寒い。
水面が落ち葉で覆われた池の横を通り過ぎた時は、気味が悪いほど静かで、思わず早足になってしまった。一人になりたくて車を降りたのに、早速寂しくなって「参ったな」と小さく溢す。
「久我さんは今頃、仕事中かな」
ロンドンにいた時はなるべく気にしないようにしていたが、流石にこの街のどこかに久我がいるのかと思うと落ち着かなかった。
もし会社でバッタリ会っても、緊張せずに仕事仲間の顔で挨拶できるだろうか。寂しいとか、会いたかったとか、未練を出さないように気を付けないと。
そんなことを考えながら、いつの間にか東京タワーの麓に辿り着く。初めてこんなに近くまで来たなと、見上げ過ぎて首が痛くなった。すでに日は暮れ始め、オレンジ色のライトが東京タワーを浮かび上がらせている。明日の休みはスカイツリーにでも行ってみようか。東京観光も悪くない。
ぼんやり灯りを眺めていたら、頬にポツリと冷たい雫が落ちてきた。
それなのにまだ会いに来ないという事は、きっともう、今更自分とどうこうなるつもりはないのだろう。
「藤井、悪い。買い物して帰りたいから、次の出口で高速降りてもらっていい?」
「買い物ですか? 次の出口は芝公園ですよ。それなら芝公園の次で降りて六本木へ向かいましょうか? このまま降りずに渋谷まで行くのも良いかと思いますが」
藤井は不可解そうにルームミラー越しに玲旺を見た。玲旺は肩をすくめ、「うーん」と唸りながら困ったような顔をする。
「白状すると、ちょっと一人で歩きたいだけだから芝公園が丁度いいや。東京タワー見たら、日本に帰ってきたなーって実感しそうだし」
ははっと笑って玲旺は窓の外に視線を逸らす。藤井はウインカーを出し、言われた通り芝公園の出口で降りた。日比谷通りを真っ直ぐ進み公園に車を横付けすると、運転席から心配そうに玲旺を振りかえる。
「今日は雨の予報も出ていますし、すぐにお戻りください。私は駐車場で待機しておりますから」
藤井の言葉通り、灰色の低い雲が空を流れていて、今にも降り出しそうだった。曇天を見上げなが、玲旺はゆっくり首を振る。
「藤井はこのまま仕事に戻っていいよ。就業中に送らせちゃってごめんね。ありがとう」
「そんな事はお気になさらずに。玲旺様のお世話は私の中で最も優先すべき任務なのです。あなたに関われる事が、私の生き甲斐なのですから」
「何だか熱烈だね」
「それは、もう」
大真面目に藤井が頷くので、玲旺は思わず吹き出してしまった。
「玲旺様、もうじき日も暮れます。夜は少し冷えますし、長旅のお疲れもあるでしょうから風邪を引かれては大変です。早めに帰りましょう」
「うん。ごめん。明日からちゃんとするから、今日だけワガママ許してくれる?」
車を降りながら玲旺が申し訳なさそうに告げると、藤井は肩を落としてため息を吐いた。
「……あなたにそんな風に言われたら、従うしかないじゃありませんか」
仕方ないですねと笑われたので、玲旺も面映ゆそうに「ありがとう」と返す。
藤井の車を見送った後、玲旺はぐるりと公園内を見回した。園内の木々は紅葉が始まっていて、重たそうな黒い雲ともみじのコントラストに見惚れてしまう。木に囲まれているせいか公園内の空気はひんやりしていて、少し肌寒い。
水面が落ち葉で覆われた池の横を通り過ぎた時は、気味が悪いほど静かで、思わず早足になってしまった。一人になりたくて車を降りたのに、早速寂しくなって「参ったな」と小さく溢す。
「久我さんは今頃、仕事中かな」
ロンドンにいた時はなるべく気にしないようにしていたが、流石にこの街のどこかに久我がいるのかと思うと落ち着かなかった。
もし会社でバッタリ会っても、緊張せずに仕事仲間の顔で挨拶できるだろうか。寂しいとか、会いたかったとか、未練を出さないように気を付けないと。
そんなことを考えながら、いつの間にか東京タワーの麓に辿り着く。初めてこんなに近くまで来たなと、見上げ過ぎて首が痛くなった。すでに日は暮れ始め、オレンジ色のライトが東京タワーを浮かび上がらせている。明日の休みはスカイツリーにでも行ってみようか。東京観光も悪くない。
ぼんやり灯りを眺めていたら、頬にポツリと冷たい雫が落ちてきた。
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