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~ 最終章 されど御曹司は ~
人生を賭けた大勝負⑩
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玲旺の背に手を添えながら、久我が父親に視線を戻す。
「私も玲旺さんと同じ考えです。私たちの関係を積極的に世間に打ち明ける事はしませんが、万が一表に出てしまった時のために、対策は講じておきます。啓蒙活動も、セクシャルマイノリティの中には『そっとしておいてほしい』と考える人もいるので、大々的にというよりは地道に浸透させていく方向になるでしょう」
ずっと黙って聞いていた父親の眼差しには、憐憫の情が込められているようだった。愛を貫くために全てを背負う覚悟を決めた二人の行く先を、憂いているのかもしれない。
「玲旺。お前は私を、損得勘定ばかりの狡賢い人間だと思っているかもしれないが……」
父親が、伝えるべき言葉を探しながら途切れ途切れに口を開いた。
「これでも一応、親なんだ。お前の幸せを、誰よりも願っている。この先どんなに辛いことがあったとしても、彼となら乗り越えられるんだな?」
初めて見る心細そうな父親に、玲旺も込み上げるものを感じながら迷いなくうなずく。
「ああ。久我さんとなら、乗り越えられる。久我さんと共に生きられれば、それだけで幸せなんだ」
父親は一瞬うつむき、目を伏せた。その瞳が潤んでいたような気がして、玲旺も唇を噛みしめる。
しかし次に父親が顔を上げた時には、いつも通りの厳格な双眸で、揺らぎは一切消えていた。
恐らく父親も、何かしらの覚悟を決めたのだろう。
「そうか。そこまで言うのならば、お前達を信じよう。協力は惜しまない。二人だけで何とかしようとせず、決して無理や無茶はしないように」
社長としてではなく、一人の親として贈る餞のような言葉だった。
「ありがとう」
涙声にならないように、腹に力を込めてそう告げる。自然と久我と同じタイミングで、頭を深く下げていた。
「大丈夫、心配しないで。マスコミに気付かれて、理瑚の結婚がダメになるようなことはしないから」
玲旺は懸念を口にしたが、父親はそんなものはどうでもいいと言わんばかりに首を振る。
「しばらくは細心の注意を払ってマスコミの目を欺くことが最善だが、理瑚の結婚話とは切り離して考えて良い。もし理瑚の夫になる男が、お前のパートナーが久我君だと知って結婚に難色を示すようなら、こちらから願い下げだ」
強い口調で言い切った父親だったが、ただ、と玲旺と久我を交互に見ながら言い難そうに付け加える。
「もし妻にも打ち明けるつもりなら、それはもう少し先にしてくれないか。私も性的少数派について勉強する時間が欲しいし、それに伴ってさり気なく妻にも受け入れやすい下地を作っておきたい。あいつは私よりも柔軟だから、恐らくすぐに受け入れるだろうが、それでもやはり慎重に事を進めたいんだ」
父に話したのならばやはり母にも言うべきだろうかと思案していたので、暫く猶予を与えて貰えて逆にホッとしてしまった。
玲旺は父親に賛同するように、何度も首を縦に振る。久我も神妙な顔で「承知しました」と口にした。
「どんな時でも、必ず玲旺さんを守るとお約束いたします。私たちの事、認めてくださってありがとうございました」
玲旺と久我はソファから立ち上がり、二人揃って最敬礼のお辞儀で謝意を示す。
「二人で幸せになりなさい。……久我君、玲旺をよろしく頼むよ」
玲旺が今まで見たこともないほど柔らかな表情で、父親は目を細めた。
「私も玲旺さんと同じ考えです。私たちの関係を積極的に世間に打ち明ける事はしませんが、万が一表に出てしまった時のために、対策は講じておきます。啓蒙活動も、セクシャルマイノリティの中には『そっとしておいてほしい』と考える人もいるので、大々的にというよりは地道に浸透させていく方向になるでしょう」
ずっと黙って聞いていた父親の眼差しには、憐憫の情が込められているようだった。愛を貫くために全てを背負う覚悟を決めた二人の行く先を、憂いているのかもしれない。
「玲旺。お前は私を、損得勘定ばかりの狡賢い人間だと思っているかもしれないが……」
父親が、伝えるべき言葉を探しながら途切れ途切れに口を開いた。
「これでも一応、親なんだ。お前の幸せを、誰よりも願っている。この先どんなに辛いことがあったとしても、彼となら乗り越えられるんだな?」
初めて見る心細そうな父親に、玲旺も込み上げるものを感じながら迷いなくうなずく。
「ああ。久我さんとなら、乗り越えられる。久我さんと共に生きられれば、それだけで幸せなんだ」
父親は一瞬うつむき、目を伏せた。その瞳が潤んでいたような気がして、玲旺も唇を噛みしめる。
しかし次に父親が顔を上げた時には、いつも通りの厳格な双眸で、揺らぎは一切消えていた。
恐らく父親も、何かしらの覚悟を決めたのだろう。
「そうか。そこまで言うのならば、お前達を信じよう。協力は惜しまない。二人だけで何とかしようとせず、決して無理や無茶はしないように」
社長としてではなく、一人の親として贈る餞のような言葉だった。
「ありがとう」
涙声にならないように、腹に力を込めてそう告げる。自然と久我と同じタイミングで、頭を深く下げていた。
「大丈夫、心配しないで。マスコミに気付かれて、理瑚の結婚がダメになるようなことはしないから」
玲旺は懸念を口にしたが、父親はそんなものはどうでもいいと言わんばかりに首を振る。
「しばらくは細心の注意を払ってマスコミの目を欺くことが最善だが、理瑚の結婚話とは切り離して考えて良い。もし理瑚の夫になる男が、お前のパートナーが久我君だと知って結婚に難色を示すようなら、こちらから願い下げだ」
強い口調で言い切った父親だったが、ただ、と玲旺と久我を交互に見ながら言い難そうに付け加える。
「もし妻にも打ち明けるつもりなら、それはもう少し先にしてくれないか。私も性的少数派について勉強する時間が欲しいし、それに伴ってさり気なく妻にも受け入れやすい下地を作っておきたい。あいつは私よりも柔軟だから、恐らくすぐに受け入れるだろうが、それでもやはり慎重に事を進めたいんだ」
父に話したのならばやはり母にも言うべきだろうかと思案していたので、暫く猶予を与えて貰えて逆にホッとしてしまった。
玲旺は父親に賛同するように、何度も首を縦に振る。久我も神妙な顔で「承知しました」と口にした。
「どんな時でも、必ず玲旺さんを守るとお約束いたします。私たちの事、認めてくださってありがとうございました」
玲旺と久我はソファから立ち上がり、二人揃って最敬礼のお辞儀で謝意を示す。
「二人で幸せになりなさい。……久我君、玲旺をよろしく頼むよ」
玲旺が今まで見たこともないほど柔らかな表情で、父親は目を細めた。
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