されど御曹司は愛を誓う

雪華

文字の大きさ
上 下
292 / 302
~ 最終章 されど御曹司は ~

SAIL AWAY⑥

しおりを挟む
「なるほど、ナイショか。それは余計、気になるなぁ」

 あからさまに除け者にされた玲旺は、不満そうに腕組みをし、氷雨ではなく久我の方を睨む。
 氷雨は悪戯っ子の顔でクスクス笑い、久我は気まずそうに目を逸らした。

 もし氷雨が本気で秘密にしたいのなら、もっと上手く立ち回るだろう。そもそも、玲旺の目の前で書類のやり取りを行うはずがない。
 このタイミングで渡したということは、恐らく玲旺が知っても構わない内容だが、氷雨の口から伝える事は出来ないと言うことだ。
 と、なれば、久我に聞くしかない。

「ねぇ、久我さん。今の書類、何?」
「いや、これは……その」

 もごもごと言葉を濁す久我に、「やっぱりまだ話してなかったんだねぇ」と、氷雨が仕方なさそうに助け船を出す。

「桐ケ谷クン。気になるとは思うけど、今じゃなくてお家に帰ってからゆーっくり説明して貰いな? 楽しみは後に取っておきましょ」

 ね? と優しく諭すような氷雨の口調には、これ以上追求しにくい雰囲気があった。
 まだ納得いかなかったが、この場で話すべきことではないのだろうと理解して、玲旺は大人しく引き下がる。

「わかった。じゃあ、今日は久我さんの家に行くから、絶対あとで説明してよ」

 不機嫌そうな玲旺を前にして、久我も観念したようだった。
 叱られてしょんぼりしている大型犬のように、玲旺の顔色をうかがいながらボソボソと口を開く。

「ああ。うちに来てくれて構わない。そこでちゃんと説明するよ。でも、あの、隠してたわけじゃないからな。もっと具体的になったら、話そうと思ってたんだ。時期が来たら、俺のタイミングで……」

 歯切れ悪く伝える久我の言葉を聞いて、氷雨が憤慨したように「えーっ」と声を上げた。

「ひっどーい。それじゃまるで僕が余計なことしたみたいじゃない。『具体的になったら』って、もう相当具体的になってると思うんだけど? あーあ。いつまでたっても言い出せない友人の背中を押してあげたのになー。上手く行くように、応援してたのになー」

 わざとらしく拗ねたような口ぶりだったが、どこか楽しそうでもあった。久我も苦笑いで、「そんなつもりで言ったんじゃないよ」と氷雨に謝罪する。
 二人の様子から察するに、あの書類はそれほど深刻な物ではなさそうだと、玲旺はこっそり安堵した。

 それならば、と今度は藤井に探るような視線を向けてみる。しっかり目が合ったにもかかわらず、藤井はすーっと逃げるように顔を背けた。
 つまりこいつも書類の内容を知ってるんだな。と、玲旺は面白くなさそうに口をへの字に曲げる。
 それに気づいた久我が、慌てたように問いかけた。

「ところで桐ケ谷は、もう仕事は終わったの?」

 これ以上機嫌を損ねられたら困るので、話題を変えたかったのだろう。玲旺もここで駄々をこねるつもりはないので、素直に「まだだよ」と答える。

「途中で放り出してこっちに来ちゃったから。でも、すぐに終わると思うけど」
「俺はやりかけの仕事を片付けた後、三号店の新ディスプレイを確認しに行ってくるよ。きっと桐ケ谷の方が終わるの早いよな。悪い、先に帰って待っててくれないか」

 言いながら、久我がキーケースから家の鍵だけを取り外して玲旺に手渡した。手のひらに乗せられた鍵を見つめ、玲旺はその感触と重みを噛みしめる。

「わかった、先に行ってる。じゃあ、そろそろ仕事に戻るね」

 鍵を胸ポケットにしまいながら「また後で」と久我に告げ、次に氷雨に目を向けた。氷雨の眼差しは優しく穏やかで、ああ、いつもこうして見守ってくれていたなと感慨に耽る。

「氷雨さん……本当にありがとう」

 玲旺は改まった口調でそう伝えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

サイテー上司とデザイナーだった僕の半年

谷村にじゅうえん
BL
デザイナー志望のミズキは就活中、憧れていたクリエイター・相楽に出会う。そして彼の事務所に採用されるが、相楽はミズキを都合のいい営業要員としか考えていなかった。天才肌で愛嬌のある相楽には、一方で計算高く身勝手な一面もあり……。ミズキはそんな彼に振り回されるうち、否応なく惹かれていく。 「知ってるくせに意地悪ですね……あなたみたいなひどい人、好きになった僕が馬鹿だった」 「ははっ、ホントだな」 ――僕の想いが届く日は、いつか来るのでしょうか? ★★★★★★★★ エブリスタ『真夜中のラジオ文芸部×執筆応援キャンペーン  スパダリ/溺愛/ハートフルなBL』入賞作品 ※エブリスタのほか、フジョッシー、ムーンライトノベルスにも転載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

コントレイルとちぎれ雲

葉月凛
BL
恋も仕事も失った本城薫、26歳。 ちぎれたような薫の心を導いてくれる、ひと筋のコントレイル(飛行機雲)は現れるだろうか── *『ブライダル・ラプソディー』に出てくる本城薫が少し若い頃のお話ですが、単独で読んでいただける内容になっています。時系列的には、こちらが先です。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

処理中です...