されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 最終章 されど御曹司は ~

人生を賭けた大勝負⑥

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 玲旺は身構えながらもサッと室内に視線を走らせる。
 やはり人払いをしていたようで、社長室に秘書の姿はなく、久我と父親の二人きりしかいなかった。
 突然現れた玲旺に驚く久我の反応は理解できるが、余裕のある父親の態度が引っかかる。
 玲旺は父親を睨んだまま、後ろ手で社長室の扉を閉めた。

「『やっと来たか』だって? 俺が来るってわかっていたような言い方だな」

 警戒心をあらわにする玲旺に、父親は可笑しそうに肩をゆすって笑う。

「見くびるんじゃない。これでも長いこと企業のトップを張っているんだ。こんな繊細な話をする前に、社長室を点検するくらいの用心深さは持ち合わせているさ」

 父親が誘導するように、ゆっくり視線を落とした。玲旺もつられてそちらを見ると、スマートフォンが一台、ローテーブルの隅に置かれている。
 まさかと思ったが、何も知らないような涼しい顔で父親を見返した。とぼける玲旺に対し、父親はやれやれと軽く頭を振る。

「まったく、油断も隙も無いな。まだ盗聴器の方が、わかりやすくて可愛げがある。今朝は藤井君がここに顔を出したが、いつの間に仕掛けたんだか」

 どうやら父親は、部屋に隠したスマートフォンを早々に発見していたらしい。
 だったらアプリを停止させて盗み聞きを阻止すればいいものを、わざわざテーブルの端に置いて会話を進めていたということになる。
 あえて玲旺にも聞かせたかったのだとしたら、なぜ。
 疑問に思いつつも、玲旺は誤魔化すための演技をつづけた。

「盗聴器? 何の話だよ。そう言えば、スマホをどこかに落として探してたんだ。ここにあったんだな、見つかって良かった」

 白々しさは承知の上で、玲旺は藤井のスマートフォンに手を伸ばす。まだ藤井は会話を聞いているだろうかと考えながら、アプリは起動させたままスーツのポケットにしまった。
 父親は特に腹を立てている様子もなく、「お前も座れ」と顎で久我の隣を指し示す。玲旺は最初からそのつもりだと言わんばかりに、ドカッとソファに腰を降ろした。

 今の話の流れで、久我も何となくスマートフォンの役割を察したのだろう。言葉は発さなかったが、目が「ごめん」と伝えていた。
 もしかすると勝手に父親に打ち明けてしまったことを、申し訳なく思っているのかもしれない。
 玲旺は僅かに微笑んで、気にするなと首を振った。
 目で会話する二人を見た父親が、こめかみを押さえながら大きく息を吐く。

「お前達は本当に……そういった間柄なのだな。一体いつからなんだ」

 二人の間に流れる空気が、仕事仲間や友人とは違うと肌で感じたらしい。実際に目の当たりにして、酷く困惑しているようだった。

「玲旺さんを一目見た時から、惹かれてはおりました。しかし正式にお付き合いを始めたのは、玲旺さんがロンドン勤務から戻った後です」

 一目見た時からと答えた久我の言葉に、玲旺は初めて会った時のことを思い返す。
 御曹司だと腫れもの扱いされていた自分を、他の社員と変わらない態度で接し、本気で叱ってくれた。
 父親は考え込むような仕草をして、久我に目を向ける。

「そう言えばフローズンレインは、玲旺のロンドン勤務が決まったと同じ頃に立ち上がったプロジェクトだったな。何か関係があるのか」

 その質問に、久我は感慨深そうにうなずいた。

「ええ。あの頃の自分は、玲旺さんに相応しくないと考えておりました。ですから、明確な実績を作ろうと考えたのです。いつかこんな日が訪れた時、玲旺さんを守り、戦えるように」
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