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~ 最終章 されど御曹司は ~
人生を賭けた大勝負⑤
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『五十年後も心変わりすることなく、か。君はリアリストだと思っていたんだが、随分青臭いことを言うんだな。婚姻も結べない無責任な関係に、どんな夢を見ているのかね』
侮蔑を含んだ父親の物言いに、玲旺は怒りを覚えて唇を噛んだ。こんな奴に何を言っても通じないだろうという諦めの気持ちと、久我への申し訳なさが胸を埋め尽くす。
もう充分だ。
この上ないほどに、自分は久我に想われている。この事実があれば、例え親に理解されなくても、この先ずっと二人で生きていける。
もう戦わなくていい。どうかこれ以上傷付かないでくれと思いながら、玲旺はイヤホンに手をかけた。
何か理由を付けて、久我を社長室から呼び戻そう。
しかし、外しかけたイヤホンから聞こえてきたのは、久我の不敵な笑い声だった。
『では、社長は法的効力があれば、愛は決して色褪せないとお考えですか。男女のカップルが婚姻届さえ出せば、バラ色の生活が未来永劫続くと? それこそ夢のような話ですね。私が青臭いなら、社長はロマンチストだ』
まさか言い返されるとは思わなかったのだろう。強烈な反撃を喰らった父親が絶句する。久我はこの機を逃すまいと、畳みかけるように言葉をつづけた。
『社長がおっしゃる通り、私はリアリストです。玲旺さんへの愛を、理想や夢で語っている訳ではありません。お望みとあらば社長が納得してくださるまで、私と玲旺さんが共に人生を歩むことで得られる相乗効果やメリットをご説明いたしましょうか』
玲旺の脳裏に、強気に笑う久我の表情が浮んだ。
こんな窮地に立たされても、臆さずに新しく道を切り開こうとする久我に、心底痺れる。
これが自分の愛した人なのだと、胸を張って父親に伝えたいと思った。
しゃがみ込んでいた玲旺は、ゆっくり立ち上がって会議机に手をつく。気持ちを落ち着かせるように、息を深く吸って吐いた。
イヤホンから、少しだけ勢いを失った父親の声が聞こえてくる。
『まるでプレゼンテーションだな』
『そうですね。一世一代の人生を賭けた大勝負です。引き下がると言う選択肢はありません』
久我のアグレッシブな発言に、玲旺の口角が僅かに上がった。
「人生を賭けた大勝負だってさ。そんな時に、隣に俺が居なくてどうするんだよ」
玲旺はどこかスッキリしたような表情で、藤井に目を向ける。耳から外したイヤホンを差し出し「ごめん」と口にした。
「このタイミングで行ったら怪しまれそうだけど。俺、久我さんの加勢に行かなきゃ。お前がスマホを置き忘れたことは、バレないように上手くやるよ」
藤井はイヤホンを受け取ると、心得たように目を細めて玲旺にうなずいてみせた。
「承知いたしました。私のスマホなど、どうぞお気になさらずに。社長からのお咎めなら、いくらでも受けますから。人生を賭けたプレゼンの成功を、心からお祈り申し上げます」
藤井の励ましを背に、玲旺は社長室に向かって歩き出す。
相変わらず廊下には誰もおらず、「こんなデリケートな話題だから、社長室周辺は人払いされているのだろう」と考えているうちに、部屋の前に辿り着いた。重厚な木の扉が威圧的で、玲旺はごくりと唾を飲み込む。
合図程度に扉をノックし、返事も待たずにドアノブを思い切り引いた。
ローテーブルを挟んで向かい合うように座っていた父親と久我が、同時にこちらを向く。
久我は驚いたように少し腰を浮かせたが、父親の方は妙に落ち着いていた。
「やっと来たか、玲旺。遅かったじゃないか」
そう言って、意味ありげに微笑んだ。
侮蔑を含んだ父親の物言いに、玲旺は怒りを覚えて唇を噛んだ。こんな奴に何を言っても通じないだろうという諦めの気持ちと、久我への申し訳なさが胸を埋め尽くす。
もう充分だ。
この上ないほどに、自分は久我に想われている。この事実があれば、例え親に理解されなくても、この先ずっと二人で生きていける。
もう戦わなくていい。どうかこれ以上傷付かないでくれと思いながら、玲旺はイヤホンに手をかけた。
何か理由を付けて、久我を社長室から呼び戻そう。
しかし、外しかけたイヤホンから聞こえてきたのは、久我の不敵な笑い声だった。
『では、社長は法的効力があれば、愛は決して色褪せないとお考えですか。男女のカップルが婚姻届さえ出せば、バラ色の生活が未来永劫続くと? それこそ夢のような話ですね。私が青臭いなら、社長はロマンチストだ』
まさか言い返されるとは思わなかったのだろう。強烈な反撃を喰らった父親が絶句する。久我はこの機を逃すまいと、畳みかけるように言葉をつづけた。
『社長がおっしゃる通り、私はリアリストです。玲旺さんへの愛を、理想や夢で語っている訳ではありません。お望みとあらば社長が納得してくださるまで、私と玲旺さんが共に人生を歩むことで得られる相乗効果やメリットをご説明いたしましょうか』
玲旺の脳裏に、強気に笑う久我の表情が浮んだ。
こんな窮地に立たされても、臆さずに新しく道を切り開こうとする久我に、心底痺れる。
これが自分の愛した人なのだと、胸を張って父親に伝えたいと思った。
しゃがみ込んでいた玲旺は、ゆっくり立ち上がって会議机に手をつく。気持ちを落ち着かせるように、息を深く吸って吐いた。
イヤホンから、少しだけ勢いを失った父親の声が聞こえてくる。
『まるでプレゼンテーションだな』
『そうですね。一世一代の人生を賭けた大勝負です。引き下がると言う選択肢はありません』
久我のアグレッシブな発言に、玲旺の口角が僅かに上がった。
「人生を賭けた大勝負だってさ。そんな時に、隣に俺が居なくてどうするんだよ」
玲旺はどこかスッキリしたような表情で、藤井に目を向ける。耳から外したイヤホンを差し出し「ごめん」と口にした。
「このタイミングで行ったら怪しまれそうだけど。俺、久我さんの加勢に行かなきゃ。お前がスマホを置き忘れたことは、バレないように上手くやるよ」
藤井はイヤホンを受け取ると、心得たように目を細めて玲旺にうなずいてみせた。
「承知いたしました。私のスマホなど、どうぞお気になさらずに。社長からのお咎めなら、いくらでも受けますから。人生を賭けたプレゼンの成功を、心からお祈り申し上げます」
藤井の励ましを背に、玲旺は社長室に向かって歩き出す。
相変わらず廊下には誰もおらず、「こんなデリケートな話題だから、社長室周辺は人払いされているのだろう」と考えているうちに、部屋の前に辿り着いた。重厚な木の扉が威圧的で、玲旺はごくりと唾を飲み込む。
合図程度に扉をノックし、返事も待たずにドアノブを思い切り引いた。
ローテーブルを挟んで向かい合うように座っていた父親と久我が、同時にこちらを向く。
久我は驚いたように少し腰を浮かせたが、父親の方は妙に落ち着いていた。
「やっと来たか、玲旺。遅かったじゃないか」
そう言って、意味ありげに微笑んだ。
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