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~ 最終章 されど御曹司は ~
人生を賭けた大勝負②
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最上階に到着し、エレベーターの扉が開くと同時に玲旺は速足で第二会議室へ向かった。本当なら直ぐにでも社長室に乗り込みたいところだが、藤井が「第二会議室へ」と言うのならば、何かそれなりの理由があるのだろう。
人影のない廊下を、硬い表情の玲旺が進む。
十六階は他のフロアと違い、人の出入りがあまりないので怖いほど静かだ。
玲旺はノックもせずに会議室のドアを開け、人目を避けるように素早く入室する。
「何があった」
会議室で一人玲旺を待っていた藤井の顔を見るなり、低い声で尋ねた。藤井はその問いには答えず、「まずはこれを」と言って玲旺に高性能のワイヤレスイヤホンを片方だけ差し出す。
コロンとした白いイヤホンを受け取った玲旺は、急を要する気配を察し「なぜ」と問いを重ねるよりも、今は指示に従った方が賢明だと判断した。
言われた通りすぐさまイヤホンを片耳に装着すると、談笑している二人の男性の声が聞こえてくる。
一方は父親の声、もう一方は久我の声だ。
『それにしても、フローズンレインはよくやった。私も鼻が高かったよ。一時はどうなることかと思ったが、最高の結果になって本当に良かった。これも久我君の指揮のおかげだな』
少しくぐもった音声だったが、会話の内容はハッキリ聞き取れた。
『いえ、私はただサポートしたにすぎません。全ては桐ケ谷部長の統率力と、行動力の賜物です。あの方には人を惹きつけ動かす力があります。彼が居なければ、今回の勝利は難しかったでしょう』
少しかしこまったような久我の声を聞き、玲旺の背に冷たい汗が流れる。
『そうか。息子を褒められるのは嬉しいものだな。昔は明らかに見え透いたお世辞で辟易したが、最近はどうやら本当に実力を認められているようだ。そう言えば、先ほど出たネットニュースは見たかね。紅林がインタビューに答えていたが、随分と殊勝なことを言っていたよ』
初めは録音された音声が流れているのかと思ったが、会話の内容からしてどうやら現在進行形のようだった。
玲旺は非難めいた視線を藤井に向ける。
「どういうことだよ。まさか盗聴してるのか」
「人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。私はただ、周囲の音声を拾うように設定したスマホを、うっかり社長室に置き忘れてしまっただけです」
物は言いようだなと、玲旺はこめかみを押さえた。どうりでスマートフォンではなく、内線で連絡を寄こしてくるわけだ。
この方法で自分も会話を聞かれたことがあるのではないかと、少々不安になってしまう。
そんな玲旺の心情を察したのか、藤井は「ご安心ください」と笑みを浮かべた。
「公私共に、今まで玲旺様にこの方法を取ったことはございませんよ。それに、ブルートゥースの電波が届く範囲内でしか音は拾えません。せいぜい十メートルです」
「十メートル届けば充分だろ。情報収集も大事だが、悪用はするなよ」
「心得ております」
胸に手を当て神妙にうなずく藤井に、玲旺は呆れたような溜め息をつく。
「で、どういう状況なんだ」
「はい。久我が社長室に呼び出されるのを聞き、すぐに玲旺様に連絡を差し上げた次第です。久我が社長室に到着したのは、つい五分ほど前でした。今のところ、和やかに雑談している状態が続いております」
藤井の耳には、玲旺に渡したイヤホンの片割れが装着されていた。
今朝車の中で、確かに「社長に怪しまれない程度に様子を窺っておきましょう」とは言っていたが、その行動力に感心してしまう。
「このまま、先日の合同コレクションの件を労うだけで済めば良いのですが……」
人影のない廊下を、硬い表情の玲旺が進む。
十六階は他のフロアと違い、人の出入りがあまりないので怖いほど静かだ。
玲旺はノックもせずに会議室のドアを開け、人目を避けるように素早く入室する。
「何があった」
会議室で一人玲旺を待っていた藤井の顔を見るなり、低い声で尋ねた。藤井はその問いには答えず、「まずはこれを」と言って玲旺に高性能のワイヤレスイヤホンを片方だけ差し出す。
コロンとした白いイヤホンを受け取った玲旺は、急を要する気配を察し「なぜ」と問いを重ねるよりも、今は指示に従った方が賢明だと判断した。
言われた通りすぐさまイヤホンを片耳に装着すると、談笑している二人の男性の声が聞こえてくる。
一方は父親の声、もう一方は久我の声だ。
『それにしても、フローズンレインはよくやった。私も鼻が高かったよ。一時はどうなることかと思ったが、最高の結果になって本当に良かった。これも久我君の指揮のおかげだな』
少しくぐもった音声だったが、会話の内容はハッキリ聞き取れた。
『いえ、私はただサポートしたにすぎません。全ては桐ケ谷部長の統率力と、行動力の賜物です。あの方には人を惹きつけ動かす力があります。彼が居なければ、今回の勝利は難しかったでしょう』
少しかしこまったような久我の声を聞き、玲旺の背に冷たい汗が流れる。
『そうか。息子を褒められるのは嬉しいものだな。昔は明らかに見え透いたお世辞で辟易したが、最近はどうやら本当に実力を認められているようだ。そう言えば、先ほど出たネットニュースは見たかね。紅林がインタビューに答えていたが、随分と殊勝なことを言っていたよ』
初めは録音された音声が流れているのかと思ったが、会話の内容からしてどうやら現在進行形のようだった。
玲旺は非難めいた視線を藤井に向ける。
「どういうことだよ。まさか盗聴してるのか」
「人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。私はただ、周囲の音声を拾うように設定したスマホを、うっかり社長室に置き忘れてしまっただけです」
物は言いようだなと、玲旺はこめかみを押さえた。どうりでスマートフォンではなく、内線で連絡を寄こしてくるわけだ。
この方法で自分も会話を聞かれたことがあるのではないかと、少々不安になってしまう。
そんな玲旺の心情を察したのか、藤井は「ご安心ください」と笑みを浮かべた。
「公私共に、今まで玲旺様にこの方法を取ったことはございませんよ。それに、ブルートゥースの電波が届く範囲内でしか音は拾えません。せいぜい十メートルです」
「十メートル届けば充分だろ。情報収集も大事だが、悪用はするなよ」
「心得ております」
胸に手を当て神妙にうなずく藤井に、玲旺は呆れたような溜め息をつく。
「で、どういう状況なんだ」
「はい。久我が社長室に呼び出されるのを聞き、すぐに玲旺様に連絡を差し上げた次第です。久我が社長室に到着したのは、つい五分ほど前でした。今のところ、和やかに雑談している状態が続いております」
藤井の耳には、玲旺に渡したイヤホンの片割れが装着されていた。
今朝車の中で、確かに「社長に怪しまれない程度に様子を窺っておきましょう」とは言っていたが、その行動力に感心してしまう。
「このまま、先日の合同コレクションの件を労うだけで済めば良いのですが……」
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