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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
肉を切らせて骨を断つ②
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玲旺の笑顔で、生徒たちの間に幾分かホッとしたような空気が流れた。
――昨日はみんな余裕があったから、今日も大丈夫だと思ったんだけどな。
細かい動きや時間配分、照明や音楽も含めて確認するため、昨日のうちに本番さながらのリハーサルを行っている。ただし、クリアデイとは時間をずらしたので、完全に別行動だった。
それなりにピリッとした緊張感が漂っていたが、やはり本番当日のタイトなスケージュールとは違い、どこかまだゆったりとした空気が流れていたように思う。
ところが今日の舞台は、昨日と同じ会場だとは思えないほど、独特な神聖さを放っていた。ランウェイをぐるりと囲むように設けられた客席から注がれる、大勢の視線。それを一身に浴びる場面を想像すると、確かに足がすくみそうだ。
昨日は会場スタッフとの打ち合わせに時間を取られて裏方は見て回れなかったが、こんなことなら無理を言ってでもメイクルームに顔を出しておけばよかった。そんな事を考えながら、玲旺は言葉をつづけた。
「もう説明は受けていると思うけど、これから行うリハはクリアデイと合同です。昨日のうちに本番を想定したリハは済んでいるので、今日は最終確認だけで短時間で終わるからね。それで、キミたちにお願いなんだけど。リハではまだ実力を隠す為に、七割くらいの力で歩いて欲しいんだ。全力のウオーキングは本番まで取って置いてね」
せっかくここまでクリアデイを油断させてきたのに、リハーサルでバレては台無しだ。みんなそれがわかっているので、もちろんと言うように強く頷く。
「特に、トップバッターの宮原くん」
急に名前を呼ばれ、宮原がビクッと体を強張らせた。
「もういっそ、緊張してますって演技で歩いてくれて構わないよ。クリアデイ陣営は、所詮高校生って舐めてるからさ、楽勝だろうって侮ってると思うんだよね。リハまではせいぜい、優越感に浸らせてやろうよ」
宮原をはじめ、生徒らの緊張は、「失敗したらどうしよう」と言う不安から来ているのではないかと玲旺は睨んでいた。ドラマの撮影ならミスをしてもいくらでも撮り直しが可能だが、生モノである舞台ではそうはいかない。
そんなプレッシャーから解放するために、失敗してもいい状況にしてしまおうと目論んだのだ。
それでも、彼らも高校生とは言え立派なプロだ。「失敗してもいい」と情けをかけるような言い方をすれば、意地でも良い歩きをしようと余計に力を入れてしまうに違いない。
なので、あくまでも玲旺が出した指示は「緊張しているフリ」。
これならば、本当に失敗してしまったとしても全て演技だと言い訳できる。その安心感は大きいだろう。
もちろんリハーサルだから許される作戦だが、おそらく桜華高生なら一度歩いてしまえば緊張は解け、本番では良いパフォーマンスを見せてくれるはずだ。
「考えるとわくわくするよね。クリアデイも観客も、フローズンレインは学園祭レベルだと思ってる。そんな人たちに本当の実力を見せつけた時、どんな顔をして驚くのか早く知りたいよ。ただ、そのせいでキミたちが本番までは見くびられてしまうのが、本当に申し訳ないし心が痛むんだけど。肉を切らせて骨を断つつもりで、リハは最高のドッキリを仕掛けるための準備運動だと思って臨もう」
宮原の顔に、ぱあっと赤味が差していくのがわかった。
肩にのしかかっていた重りを振り落とすように、「よっしゃあ!」と叫んで拳を高々と掲げる。
「リハでは大人しくしててやるけど、本番見とけよ! 開幕一発目から、クリアデイも観客も全力でぶん殴る気持ちで歩いてやる」
自分自身を鼓舞する宮原の言葉に、わぁっと部屋が沸き上がる。玲旺はうんうんと頷きながら「勝って氷雨さんに焼き肉奢って貰うんだもんね」と付け加えた。
――昨日はみんな余裕があったから、今日も大丈夫だと思ったんだけどな。
細かい動きや時間配分、照明や音楽も含めて確認するため、昨日のうちに本番さながらのリハーサルを行っている。ただし、クリアデイとは時間をずらしたので、完全に別行動だった。
それなりにピリッとした緊張感が漂っていたが、やはり本番当日のタイトなスケージュールとは違い、どこかまだゆったりとした空気が流れていたように思う。
ところが今日の舞台は、昨日と同じ会場だとは思えないほど、独特な神聖さを放っていた。ランウェイをぐるりと囲むように設けられた客席から注がれる、大勢の視線。それを一身に浴びる場面を想像すると、確かに足がすくみそうだ。
昨日は会場スタッフとの打ち合わせに時間を取られて裏方は見て回れなかったが、こんなことなら無理を言ってでもメイクルームに顔を出しておけばよかった。そんな事を考えながら、玲旺は言葉をつづけた。
「もう説明は受けていると思うけど、これから行うリハはクリアデイと合同です。昨日のうちに本番を想定したリハは済んでいるので、今日は最終確認だけで短時間で終わるからね。それで、キミたちにお願いなんだけど。リハではまだ実力を隠す為に、七割くらいの力で歩いて欲しいんだ。全力のウオーキングは本番まで取って置いてね」
せっかくここまでクリアデイを油断させてきたのに、リハーサルでバレては台無しだ。みんなそれがわかっているので、もちろんと言うように強く頷く。
「特に、トップバッターの宮原くん」
急に名前を呼ばれ、宮原がビクッと体を強張らせた。
「もういっそ、緊張してますって演技で歩いてくれて構わないよ。クリアデイ陣営は、所詮高校生って舐めてるからさ、楽勝だろうって侮ってると思うんだよね。リハまではせいぜい、優越感に浸らせてやろうよ」
宮原をはじめ、生徒らの緊張は、「失敗したらどうしよう」と言う不安から来ているのではないかと玲旺は睨んでいた。ドラマの撮影ならミスをしてもいくらでも撮り直しが可能だが、生モノである舞台ではそうはいかない。
そんなプレッシャーから解放するために、失敗してもいい状況にしてしまおうと目論んだのだ。
それでも、彼らも高校生とは言え立派なプロだ。「失敗してもいい」と情けをかけるような言い方をすれば、意地でも良い歩きをしようと余計に力を入れてしまうに違いない。
なので、あくまでも玲旺が出した指示は「緊張しているフリ」。
これならば、本当に失敗してしまったとしても全て演技だと言い訳できる。その安心感は大きいだろう。
もちろんリハーサルだから許される作戦だが、おそらく桜華高生なら一度歩いてしまえば緊張は解け、本番では良いパフォーマンスを見せてくれるはずだ。
「考えるとわくわくするよね。クリアデイも観客も、フローズンレインは学園祭レベルだと思ってる。そんな人たちに本当の実力を見せつけた時、どんな顔をして驚くのか早く知りたいよ。ただ、そのせいでキミたちが本番までは見くびられてしまうのが、本当に申し訳ないし心が痛むんだけど。肉を切らせて骨を断つつもりで、リハは最高のドッキリを仕掛けるための準備運動だと思って臨もう」
宮原の顔に、ぱあっと赤味が差していくのがわかった。
肩にのしかかっていた重りを振り落とすように、「よっしゃあ!」と叫んで拳を高々と掲げる。
「リハでは大人しくしててやるけど、本番見とけよ! 開幕一発目から、クリアデイも観客も全力でぶん殴る気持ちで歩いてやる」
自分自身を鼓舞する宮原の言葉に、わぁっと部屋が沸き上がる。玲旺はうんうんと頷きながら「勝って氷雨さんに焼き肉奢って貰うんだもんね」と付け加えた。
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