224 / 302
~ 第三章 反撃の狼煙 ~
船頭多くして船山に上る⑧
しおりを挟む
「魔法なんて、そんな大層なものじゃないよ。ちょっとしたおまじない。あのね、手のひらに人って三回書いて飲み込むだけでいいんだよ。簡単なのに凄い効き目だよね」
今日はこのおまじないを何人に教えたっけな。そんな事を考えていたら、久我が口を押さえながら声を殺して笑いだした。
「えっ、なんで笑うの」
「いや、どんな凄い技なのかと思ったら、そんなベタな方法だとは」
堪え切れないようにクククッと喉を鳴らし、久我は目尻の涙を拭う。玲旺は驚いて思わず立ち上がった。
「えっ、これってベタなの? もしかして、みんな知ってる?」
「そうだなぁ、小さな子でもお遊戯会の前にやったりするくらいには、メジャーだと思うよ」
だから氷雨も湯月も聞いた瞬間に吹き出したのかと、真実を知り今すぐ穴を掘って隠れたくなった。
「どうしよう。氷雨さんと湯月さんに、すっごい得意気に披露しちゃった」
真っ赤になった顔を、玲旺が両手で覆う。
メイクルームや更衣室からは離れているので人が通りかかるような場所ではなかったが、それでもここで大笑いしたら、何事かと誰かが様子を見に来るかもしれない。それがわかっているので、久我は必死に笑いを噛み殺す。
「おまえ、ほんっとに可愛いな。桐ケ谷は、なんでそのおまじないを知ってたの?」
「ブレイバーの撮影の時、緊張したくなかったから調べた……」
恥ずかしいを通り越して何だか腹が立ってきた玲旺は、ムスッとした表情でぶっきらぼうに答えた。玲旺は座っている久我の正面に立ち、口を尖らせて見下ろす。笑い過ぎたことを反省したのか、久我が玲旺の手を握り、あやすように優しく撫でた。
「ごめんごめん、そんなにむくれるなよ。でも、氷雨もきっと笑ったことで余計な力が抜けたんだろうな。あいつが楽しそうにしているから、周りのスタッフもそれにつられてリラックスした状態で作業を進めてるよ。そう言うのはモデルたちにも伝わるから、好循環が生まれて現場が凄くいい空気なんだ」
確かにピリピリしながらメイクを施されたら、モデルたちも追い詰められたような気分になって、全体的に切羽詰まったムードになるかもしれない。
玲旺は先ほど見たメイクルームを思い出す。あの場は熱気と活気に満ちていて、誰もが前を向いてキラキラ輝いていた。
「そっか。軍を率いる団長の氷雨さんが泰然としていると、みんなも安心するんだね。だったらあのおまじないで笑われたのも、無駄じゃなかったかな」
「氷雨もプロだから表面上はいつだって余裕のあるフリをしているし、他の人も氷雨の緊張になんて気付かないんだ。でも今日は本当に自然に笑っているから、やっぱりそう言うのは伝わるんだろうなぁ」
しみじみとした口調で呟いた後、久我はじっと玲旺を見上げた。
「それに、なにより桐ケ谷の存在も大きいよ。お前が準備から携わってくれているから、みんな桐ケ谷を見ると安心するんだ。何があってもこの人ならなんとかしてくれるって、そういう信頼感がお前にはある」
今までどうにか戦力になりたくてがむしゃらに駆け抜けてきたが、思いがけず久我から高評価を貰い、玲旺はぶるっと武者震いした。
嬉しさを感じると同時に、責任の重さを痛感する。
それでも少しも苦ではなかった。
そうか、これが期待されていると言うことかと、玲旺は口角を上げて久我を見つめ返す。
「うん、任せて。何があっても俺が居れば大丈夫」
強がりが八割、自信が二割だが、声に出して宣言すれば、言霊となって力が増すような気がした。
「何だか凄く眩しいよ。なぁ、俺にもそのとっておきの魔法、かけてくれないか」
今日はこのおまじないを何人に教えたっけな。そんな事を考えていたら、久我が口を押さえながら声を殺して笑いだした。
「えっ、なんで笑うの」
「いや、どんな凄い技なのかと思ったら、そんなベタな方法だとは」
堪え切れないようにクククッと喉を鳴らし、久我は目尻の涙を拭う。玲旺は驚いて思わず立ち上がった。
「えっ、これってベタなの? もしかして、みんな知ってる?」
「そうだなぁ、小さな子でもお遊戯会の前にやったりするくらいには、メジャーだと思うよ」
だから氷雨も湯月も聞いた瞬間に吹き出したのかと、真実を知り今すぐ穴を掘って隠れたくなった。
「どうしよう。氷雨さんと湯月さんに、すっごい得意気に披露しちゃった」
真っ赤になった顔を、玲旺が両手で覆う。
メイクルームや更衣室からは離れているので人が通りかかるような場所ではなかったが、それでもここで大笑いしたら、何事かと誰かが様子を見に来るかもしれない。それがわかっているので、久我は必死に笑いを噛み殺す。
「おまえ、ほんっとに可愛いな。桐ケ谷は、なんでそのおまじないを知ってたの?」
「ブレイバーの撮影の時、緊張したくなかったから調べた……」
恥ずかしいを通り越して何だか腹が立ってきた玲旺は、ムスッとした表情でぶっきらぼうに答えた。玲旺は座っている久我の正面に立ち、口を尖らせて見下ろす。笑い過ぎたことを反省したのか、久我が玲旺の手を握り、あやすように優しく撫でた。
「ごめんごめん、そんなにむくれるなよ。でも、氷雨もきっと笑ったことで余計な力が抜けたんだろうな。あいつが楽しそうにしているから、周りのスタッフもそれにつられてリラックスした状態で作業を進めてるよ。そう言うのはモデルたちにも伝わるから、好循環が生まれて現場が凄くいい空気なんだ」
確かにピリピリしながらメイクを施されたら、モデルたちも追い詰められたような気分になって、全体的に切羽詰まったムードになるかもしれない。
玲旺は先ほど見たメイクルームを思い出す。あの場は熱気と活気に満ちていて、誰もが前を向いてキラキラ輝いていた。
「そっか。軍を率いる団長の氷雨さんが泰然としていると、みんなも安心するんだね。だったらあのおまじないで笑われたのも、無駄じゃなかったかな」
「氷雨もプロだから表面上はいつだって余裕のあるフリをしているし、他の人も氷雨の緊張になんて気付かないんだ。でも今日は本当に自然に笑っているから、やっぱりそう言うのは伝わるんだろうなぁ」
しみじみとした口調で呟いた後、久我はじっと玲旺を見上げた。
「それに、なにより桐ケ谷の存在も大きいよ。お前が準備から携わってくれているから、みんな桐ケ谷を見ると安心するんだ。何があってもこの人ならなんとかしてくれるって、そういう信頼感がお前にはある」
今までどうにか戦力になりたくてがむしゃらに駆け抜けてきたが、思いがけず久我から高評価を貰い、玲旺はぶるっと武者震いした。
嬉しさを感じると同時に、責任の重さを痛感する。
それでも少しも苦ではなかった。
そうか、これが期待されていると言うことかと、玲旺は口角を上げて久我を見つめ返す。
「うん、任せて。何があっても俺が居れば大丈夫」
強がりが八割、自信が二割だが、声に出して宣言すれば、言霊となって力が増すような気がした。
「何だか凄く眩しいよ。なぁ、俺にもそのとっておきの魔法、かけてくれないか」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき(藤吉めぐみ)
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる