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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
船頭多くして船山に上る③
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遠回しな言い方だが、「これからも側にいる」と言う、湯月なりの決意表明だったのかもしれない。そして恐らく氷雨もそれに気づいたのだろう。だからこそ、「当たり前だ」と言わんばかりのあっさりとした返答をしたに違いない。
「やっぱり氷雨さんは、湯月さんに側にいて欲しいんですよ」
玲旺にそう言われた湯月は、意味もなくネームホルダ―の紐を指で摘まみ、くすぐったそうに口元を緩める。
「正直、まだ氷雨くんの近くにいられることが、信じられないし怖いんですけど。でも、桐ケ谷さんが言ってくれたように、これからは少しでも支えられたらいいなって、思います」
照れつつも、湯月はきっぱり言い切った。器用そうに見えて実は不器用な二人が、ようやく少しだけ前に進めたようだ。
湯月は肩の高さに掲げた拳をグッと握り、気合を入れる。
「とにかく、今日は氷雨くんのためにも絶対に勝たないと。そう言えば、ネットでは桐ケ谷さんも今日はランウェイを歩くんじゃないかって噂されてましたよ。雑誌のあの写真を観たら、そんな期待もしちゃいますよね。お陰様でブレイバーの売れ行きは絶好調で、今や入手困難です。次のコレクションには、桐ケ谷さんも出てみたらどうですか」
冗談ではなく本気で言っていそうなので、玲旺は「とんでもない」と首をブンブン振った。
「プロの現場に俺みたいな素人が話題性だけで出ても、水を差すだけですよ」
「桐ケ谷さんって意外と謙虚なんですね。でもクリアデイは、紅林が歩くみたいですよ。先ほどインタビューで答えてました。快晴がよく了承したなぁと思って」
「紅林が?」
ジョリーの御曹司の名を聞き、玲旺は不快そうに片眉を上げる。すぐにこちらと張り合おうとするので、玲旺がコレクションに出演すると言う噂を鵜呑みにし、しゃしゃり出てきたのかもしれない。
「紅林は上背がありますし、しっかりウオーキングレッスンをしていたなら侮れませんね。まぁ、構成や演出によっては、笑顔を振りまいてただ歩くだけでも充分盛り上がるので、どちらにせよ油断は禁物ですけど」
警戒を怠らない湯月に頼もしさを感じながら、玲旺もうなずいた。
「そうですね、我々は自分の為すべきことをキッチリやっていきましょう」
話しているうちにメイクルームに辿り着き、玲旺は湯月に続いて部屋に足を踏み入れる。
便宜上「メイクルーム」と呼んでいるが、正式な設備ではなく、普段は会議室として使用されている広い部屋に鏡を持ち込み、即席のドレッサーをずらりと並べているような状態だった。
モデル一人一人に事前に決められたメイクの仕様書があり、それを元にヘアメイクスタッフがテキパキと仕事を進めている。これぞファッションショーの舞台裏と感じさせるような、活気と迫力に満ち溢れた光景だった。
早速湯月は撮影の許可を取り、カメラを構える。
「事前にどんなメイクにするのか、細かく決めてあるんですね」
玲旺が興味深そうに呟くと、「そりゃそうですよ」と湯月が肩をすくめた。
「ぶっつけ本番で『あの服には何色の口紅が合うかな』なんて試している時間はありませんからね。髪型やアクセサリーも、何度も試行錯誤して実際にモデルと衣装合わせをし、微調整するんです。小物の使い方も細かい指示があるんですよ」
ほら、と言ってラックにかかった衣装を湯月が指さす。黒のワンピースにレザーのブレスレットの写真が貼り付けられていて、写真には「六連で巻く」とメモが書かれていた。
「ブレスレットの巻き方まで……気が遠くなるくらい、たくさんの作業があるんですね」
感心する玲旺に、湯月も大袈裟なくらいに大きくうなずく。
「ええ。一ヵ月の準備期間でよくここまで完璧に仕上げましたよ。フローズンレインの普段からのチームワークの良さが出ましたね」
「やっぱり氷雨さんは、湯月さんに側にいて欲しいんですよ」
玲旺にそう言われた湯月は、意味もなくネームホルダ―の紐を指で摘まみ、くすぐったそうに口元を緩める。
「正直、まだ氷雨くんの近くにいられることが、信じられないし怖いんですけど。でも、桐ケ谷さんが言ってくれたように、これからは少しでも支えられたらいいなって、思います」
照れつつも、湯月はきっぱり言い切った。器用そうに見えて実は不器用な二人が、ようやく少しだけ前に進めたようだ。
湯月は肩の高さに掲げた拳をグッと握り、気合を入れる。
「とにかく、今日は氷雨くんのためにも絶対に勝たないと。そう言えば、ネットでは桐ケ谷さんも今日はランウェイを歩くんじゃないかって噂されてましたよ。雑誌のあの写真を観たら、そんな期待もしちゃいますよね。お陰様でブレイバーの売れ行きは絶好調で、今や入手困難です。次のコレクションには、桐ケ谷さんも出てみたらどうですか」
冗談ではなく本気で言っていそうなので、玲旺は「とんでもない」と首をブンブン振った。
「プロの現場に俺みたいな素人が話題性だけで出ても、水を差すだけですよ」
「桐ケ谷さんって意外と謙虚なんですね。でもクリアデイは、紅林が歩くみたいですよ。先ほどインタビューで答えてました。快晴がよく了承したなぁと思って」
「紅林が?」
ジョリーの御曹司の名を聞き、玲旺は不快そうに片眉を上げる。すぐにこちらと張り合おうとするので、玲旺がコレクションに出演すると言う噂を鵜呑みにし、しゃしゃり出てきたのかもしれない。
「紅林は上背がありますし、しっかりウオーキングレッスンをしていたなら侮れませんね。まぁ、構成や演出によっては、笑顔を振りまいてただ歩くだけでも充分盛り上がるので、どちらにせよ油断は禁物ですけど」
警戒を怠らない湯月に頼もしさを感じながら、玲旺もうなずいた。
「そうですね、我々は自分の為すべきことをキッチリやっていきましょう」
話しているうちにメイクルームに辿り着き、玲旺は湯月に続いて部屋に足を踏み入れる。
便宜上「メイクルーム」と呼んでいるが、正式な設備ではなく、普段は会議室として使用されている広い部屋に鏡を持ち込み、即席のドレッサーをずらりと並べているような状態だった。
モデル一人一人に事前に決められたメイクの仕様書があり、それを元にヘアメイクスタッフがテキパキと仕事を進めている。これぞファッションショーの舞台裏と感じさせるような、活気と迫力に満ち溢れた光景だった。
早速湯月は撮影の許可を取り、カメラを構える。
「事前にどんなメイクにするのか、細かく決めてあるんですね」
玲旺が興味深そうに呟くと、「そりゃそうですよ」と湯月が肩をすくめた。
「ぶっつけ本番で『あの服には何色の口紅が合うかな』なんて試している時間はありませんからね。髪型やアクセサリーも、何度も試行錯誤して実際にモデルと衣装合わせをし、微調整するんです。小物の使い方も細かい指示があるんですよ」
ほら、と言ってラックにかかった衣装を湯月が指さす。黒のワンピースにレザーのブレスレットの写真が貼り付けられていて、写真には「六連で巻く」とメモが書かれていた。
「ブレスレットの巻き方まで……気が遠くなるくらい、たくさんの作業があるんですね」
感心する玲旺に、湯月も大袈裟なくらいに大きくうなずく。
「ええ。一ヵ月の準備期間でよくここまで完璧に仕上げましたよ。フローズンレインの普段からのチームワークの良さが出ましたね」
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