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~ 第二章 賽は投げられた ~
誰が為に⑤
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傍から見れば、ただの男女のカップルだ。手を繋いだところで、誰も気に留めないだろう。
玲旺に手を差し出された久我はハッとしたように目を見開き、一度だけ大きな瞬きをした。少し寂しそうな笑顔でうなずき返し、しっかりと玲旺の指に自分の指を絡める。
休日の楽し気な空気と、華やぐ街を歩く高揚感。誰に眉を顰められることなく、堂々と手を繋いでいられることが嬉しかった。
それでもショーウィンドウに映る自分が目に入れば、おのずと現実に引き戻される。
けれど、別にいいじゃないかとも思えた。
後ろ指をさされることがあったとしても、恋人であることに変わりはないし、愛している気持は揺らがない。
諦めや妥協よりかは前向きな感情だが、では隠れるように付き合うことに納得できたのかと問われると、それも少し違う。
玲旺は「うーん」と考え込みながら、自分の考えを整理するように口に出してみた。
「俺、別に手を繋いで街中を歩けなくても幸せかもしれない。もちろん、どこでも気兼ねなく、くっついていられたら最高だけど。マンションに忍者みたいにコソコソ隠れながら入るのは疲れるけど、それもまぁ、別にいいや。久我さんとずっと一緒にいられるなら、どんな状況でも大丈夫」
言い終わってから玲旺は、隣を歩く久我を見上げた。久我の方も玲旺に視線を向けていて、その目は少し潤んでいるようにも見える。久我は返事の代わりに微笑んで、繋いだ手に力を込めた。
何だか吹っ切れたような、清々しい気持ちで玲旺は前を向く。
「ごめんな」
玲旺は鼻歌でも歌いだしたいくらい上機嫌だったが、対する久我の口調は重かった。不思議そうに首を傾げて、玲旺が問いかける。
「なんで謝るの」
「玲旺の選択肢を、俺が奪ってしまったから。お前には女の子と付き合う未来だってあったのに」
玲旺は即座に「ううん」と否定した。首を振る動きに合わせて、栗色の長い髪も一緒に揺れる。
「俺、そんなつもりで『手を繋げなくても幸せ』って言ったんじゃないよ。本当に、久我さんとこの先もずっと一緒に居られたら幸せなの。別に悲観してもいじけてもいないんだってば。あと、俺の選択肢は一つも奪われてないからね。全部俺が選んでここまで来たんだ。後悔もしてないよ」
何度時間が巻き戻ったとしても、例え選択肢が無数に用意されていたとしても、玲旺は必ず久我に辿り着く自信があった。
雑踏を行き交う人々の中、玲旺は久我の手を強く握る。
「世の中には、こんなにたくさん人がいるのに、久我さんじゃなきゃどうしても駄目なんだ。そんな人に出会えたって凄いことでしょ。俺は感謝してるよ」
昨日から引きずっていた黒い痛みが、また少し消化されたような気がした。久我の過去に干渉することは出来ないが、その代わり、未来にはうんと関わってやろう。合鍵だって時間をかけて、互いに納得できる形で手に入れてみせる。そう考えたらなんだか気力が高まって来た。
屈託なく笑う玲旺につられ、久我も自然と笑顔になる。
「フローズンレインで買い物しちゃおうかな。レジでスタッフは俺に気付いてくれると思う?」
「どうかなぁ。店長ならその姿でも、玲旺って気付くかもね」
互いの指は絡めたまま、他愛もない会話をしながら表参道を歩いていると、玲旺は前方に見知った顔を見つけた。
「あっ、久我さん。見て、前から歩いてくる人。あれってもしかして……」
長い前髪で顔の半分以上を隠し、更に伊達メガネをかけている男性の存在を、玲旺はワクワクした様子で久我に知らせた。
玲旺に手を差し出された久我はハッとしたように目を見開き、一度だけ大きな瞬きをした。少し寂しそうな笑顔でうなずき返し、しっかりと玲旺の指に自分の指を絡める。
休日の楽し気な空気と、華やぐ街を歩く高揚感。誰に眉を顰められることなく、堂々と手を繋いでいられることが嬉しかった。
それでもショーウィンドウに映る自分が目に入れば、おのずと現実に引き戻される。
けれど、別にいいじゃないかとも思えた。
後ろ指をさされることがあったとしても、恋人であることに変わりはないし、愛している気持は揺らがない。
諦めや妥協よりかは前向きな感情だが、では隠れるように付き合うことに納得できたのかと問われると、それも少し違う。
玲旺は「うーん」と考え込みながら、自分の考えを整理するように口に出してみた。
「俺、別に手を繋いで街中を歩けなくても幸せかもしれない。もちろん、どこでも気兼ねなく、くっついていられたら最高だけど。マンションに忍者みたいにコソコソ隠れながら入るのは疲れるけど、それもまぁ、別にいいや。久我さんとずっと一緒にいられるなら、どんな状況でも大丈夫」
言い終わってから玲旺は、隣を歩く久我を見上げた。久我の方も玲旺に視線を向けていて、その目は少し潤んでいるようにも見える。久我は返事の代わりに微笑んで、繋いだ手に力を込めた。
何だか吹っ切れたような、清々しい気持ちで玲旺は前を向く。
「ごめんな」
玲旺は鼻歌でも歌いだしたいくらい上機嫌だったが、対する久我の口調は重かった。不思議そうに首を傾げて、玲旺が問いかける。
「なんで謝るの」
「玲旺の選択肢を、俺が奪ってしまったから。お前には女の子と付き合う未来だってあったのに」
玲旺は即座に「ううん」と否定した。首を振る動きに合わせて、栗色の長い髪も一緒に揺れる。
「俺、そんなつもりで『手を繋げなくても幸せ』って言ったんじゃないよ。本当に、久我さんとこの先もずっと一緒に居られたら幸せなの。別に悲観してもいじけてもいないんだってば。あと、俺の選択肢は一つも奪われてないからね。全部俺が選んでここまで来たんだ。後悔もしてないよ」
何度時間が巻き戻ったとしても、例え選択肢が無数に用意されていたとしても、玲旺は必ず久我に辿り着く自信があった。
雑踏を行き交う人々の中、玲旺は久我の手を強く握る。
「世の中には、こんなにたくさん人がいるのに、久我さんじゃなきゃどうしても駄目なんだ。そんな人に出会えたって凄いことでしょ。俺は感謝してるよ」
昨日から引きずっていた黒い痛みが、また少し消化されたような気がした。久我の過去に干渉することは出来ないが、その代わり、未来にはうんと関わってやろう。合鍵だって時間をかけて、互いに納得できる形で手に入れてみせる。そう考えたらなんだか気力が高まって来た。
屈託なく笑う玲旺につられ、久我も自然と笑顔になる。
「フローズンレインで買い物しちゃおうかな。レジでスタッフは俺に気付いてくれると思う?」
「どうかなぁ。店長ならその姿でも、玲旺って気付くかもね」
互いの指は絡めたまま、他愛もない会話をしながら表参道を歩いていると、玲旺は前方に見知った顔を見つけた。
「あっ、久我さん。見て、前から歩いてくる人。あれってもしかして……」
長い前髪で顔の半分以上を隠し、更に伊達メガネをかけている男性の存在を、玲旺はワクワクした様子で久我に知らせた。
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