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~ 第二章 賽は投げられた ~
古傷②
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「今日だって、月島くんと会ってるのかと思うと落ち着かなかったよ。心配するようなことは何もないって解ってるのにね。俺はいつも玲旺を繋ぎ止めておくのに精一杯で、余裕なんて少しも無いんだ」
弱音すら謙遜に聞こえてしまう程に、玲旺からすれば久我はいつだって完璧に思えたので、そんな発言は意外だった。
そもそも少し前までは、氷雨に指摘されても月島に嫉妬している事すら認めなかったのに。強がりを止めたのは、一体どんな心境の変化なのだろう。
何はともあれ、また少し距離を縮められたような気がして、玲旺は幸せそうに久我に身を寄せる。
「久我さんが心の中で思ってること、そのまま話してくれるの嬉しい」
「そう言われると、何だか申し訳ないな。今までも本音で話しているつもりだったけど……玲旺を傷つけないように、言い方に気を付けていたかもしれない。でも、最近の玲旺は頼もしいから、ちゃんと全部話して大丈夫だろうって思ってるよ」
玲旺を抱き寄せ、髪に顔を埋める。玲旺も久我との隙間を埋めるように、背中に腕を回した。
「さっきの合鍵の話みたいに?」
「……そうだね。前なら上手く言い訳して、誤魔化しただろうな。玲旺に余計な心配かけたくないからさ。でも今の玲旺は、そんな俺をすぐに見抜くだろ?」
久我がふっと小さく笑う。もしも吐息に色がついていたならば、今の呼吸は溜め息の色に似ているかもしれない。
久我は玲旺を抱き締めているようでいて、実は縋りついているのではないかと思えた。
「原田の件で痛感したよ。お前は俺の悩みに気付いて『相談して欲しい』とまで言ってくれたのに、俺は大した問題じゃないなんて強がって、事態を悪化させてしまった。一人でどうにかしなきゃって、空回りしてたみたいだ。自分の力を過信していたんだろうな」
冷静に自己分析する久我の声は、少し寂しそうではあったが悲愴感はない。
玲旺は久我の額に自分の額をくっつけ、目線を合わせた。
「久我さんは実際、一人で何でもできちゃうから過信するのも無理ないよ。だけど、俺たちはチームだからさ、もっと頼ってほしい」
「そうだよな。……ありがとう」
目を細めた久我に髪をくしゃくしゃかき混ぜられ、久我の髪と同じ香りがふわっと鼻をくすぐった。同じシャンプーを使ったのだからそれは当然のことなのだが、匂いまで共有できるという事実がたまらなく嬉しい。
久我は一区切りつけたような、スッキリとした表情で玲旺に笑いかける。
「実はここ最近、自分が思うように成長できていない気がして焦っていたんだよね。だけど、違ったみたい。俺の成長が霞むくらい、玲旺がもの凄いスピードで育ってきたんだ。俺も、もっとギアを上げなきゃな。まだもうしばらくは、お前に先輩ヅラしていたいよ」
いつもの負けず嫌いが垣間見え、玲旺はホッとしたように微笑んだ。安心したら急激に睡魔に襲われて、トロンとした表情で久我を見る。
「そっかぁ。俺はずっと久我さんの背中を追うつもりでいたけど、追い抜ける可能性もあるんだなぁ」
「そうだよ。俺が玲旺の背を追うようになる日も、そう遠くないかも」
そんな未来が待ち遠しいよと、玲旺の瞼にキスをした。まだまだ久我と語りたいのに、眠りの森への誘いを断れない。
曖昧になりつつある意識の中で、これだけは伝えなくてはと、玲旺はたどたどしく声に出す。
「あのね。俺、もっと強くなって、久我さんやみんなのこと、守れるようになるからね」
夢の世界に漂う間際、唇に柔らかい感触が落ち、「おやすみ」と言う優しい声を聞いた。
弱音すら謙遜に聞こえてしまう程に、玲旺からすれば久我はいつだって完璧に思えたので、そんな発言は意外だった。
そもそも少し前までは、氷雨に指摘されても月島に嫉妬している事すら認めなかったのに。強がりを止めたのは、一体どんな心境の変化なのだろう。
何はともあれ、また少し距離を縮められたような気がして、玲旺は幸せそうに久我に身を寄せる。
「久我さんが心の中で思ってること、そのまま話してくれるの嬉しい」
「そう言われると、何だか申し訳ないな。今までも本音で話しているつもりだったけど……玲旺を傷つけないように、言い方に気を付けていたかもしれない。でも、最近の玲旺は頼もしいから、ちゃんと全部話して大丈夫だろうって思ってるよ」
玲旺を抱き寄せ、髪に顔を埋める。玲旺も久我との隙間を埋めるように、背中に腕を回した。
「さっきの合鍵の話みたいに?」
「……そうだね。前なら上手く言い訳して、誤魔化しただろうな。玲旺に余計な心配かけたくないからさ。でも今の玲旺は、そんな俺をすぐに見抜くだろ?」
久我がふっと小さく笑う。もしも吐息に色がついていたならば、今の呼吸は溜め息の色に似ているかもしれない。
久我は玲旺を抱き締めているようでいて、実は縋りついているのではないかと思えた。
「原田の件で痛感したよ。お前は俺の悩みに気付いて『相談して欲しい』とまで言ってくれたのに、俺は大した問題じゃないなんて強がって、事態を悪化させてしまった。一人でどうにかしなきゃって、空回りしてたみたいだ。自分の力を過信していたんだろうな」
冷静に自己分析する久我の声は、少し寂しそうではあったが悲愴感はない。
玲旺は久我の額に自分の額をくっつけ、目線を合わせた。
「久我さんは実際、一人で何でもできちゃうから過信するのも無理ないよ。だけど、俺たちはチームだからさ、もっと頼ってほしい」
「そうだよな。……ありがとう」
目を細めた久我に髪をくしゃくしゃかき混ぜられ、久我の髪と同じ香りがふわっと鼻をくすぐった。同じシャンプーを使ったのだからそれは当然のことなのだが、匂いまで共有できるという事実がたまらなく嬉しい。
久我は一区切りつけたような、スッキリとした表情で玲旺に笑いかける。
「実はここ最近、自分が思うように成長できていない気がして焦っていたんだよね。だけど、違ったみたい。俺の成長が霞むくらい、玲旺がもの凄いスピードで育ってきたんだ。俺も、もっとギアを上げなきゃな。まだもうしばらくは、お前に先輩ヅラしていたいよ」
いつもの負けず嫌いが垣間見え、玲旺はホッとしたように微笑んだ。安心したら急激に睡魔に襲われて、トロンとした表情で久我を見る。
「そっかぁ。俺はずっと久我さんの背中を追うつもりでいたけど、追い抜ける可能性もあるんだなぁ」
「そうだよ。俺が玲旺の背を追うようになる日も、そう遠くないかも」
そんな未来が待ち遠しいよと、玲旺の瞼にキスをした。まだまだ久我と語りたいのに、眠りの森への誘いを断れない。
曖昧になりつつある意識の中で、これだけは伝えなくてはと、玲旺はたどたどしく声に出す。
「あのね。俺、もっと強くなって、久我さんやみんなのこと、守れるようになるからね」
夢の世界に漂う間際、唇に柔らかい感触が落ち、「おやすみ」と言う優しい声を聞いた。
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