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~ 第二章 賽は投げられた ~
extra key⑤
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久我は一人で会話を完結させてしまったが、玲旺は「ちょっと待って」と声を上げる。
「合鍵、欲しいんだけど。なんでまだ止めておいた方がいいと思うの」
「だって、この部屋に玲旺が一人で来ることはないだろ。駐車場から玲旺が先に部屋に戻る時も、今日みたいに鍵を渡せばいいだけだから、必要ないじゃないか」
「それはそうだけど……」
合鍵を持っているのは、何もドアを開ける目的のためだけではないだろう。究極のプライベート空間に、好きな時にいつでも来て良いと言う信頼の表れではないのか。
「つまり久我さんは、自分がいない時に俺が勝手に家に入るのは嫌ってことなんだ」
「そんなんじゃないよ」
参ったように溜め息を吐かれ、玲旺はムッとした表情を作る。
「じゃあ、どうして」
「何かの拍子に玲旺のキーケースを社長に見られたら、『どこの家の鍵だ』って絶対に聞かれるぞ。社長は観察眼が鋭いから、見逃すはずがない。その時、玲旺は何て答えるの?」
直ぐに言い返せなかった玲旺は、デニムのポケットに入っているキーケースを思い浮かべた。自宅の鍵に、一号店と二号店の店舗キー。それに秘密基地の鍵。そこに加わる新たな鍵に、果たして父親は気付くだろうか。
「俺がどんな鍵を持ってるかなんて、きっと知らないよ」
「そうかな。今までキーケースを無造作に家のどこかに置いていたりしたことはない?」
そう言われてしまうと、無いとは言い切れなかった。リビングや自室に放置したままだったことがあったかもしれない。
ソファでうつむいた玲旺の隣に再び腰を降ろし、久我は優しく髪を撫でた。
「それにね、そもそも社長に気付かれなければ良いって話でもないと思うんだ。玲旺が家族から『この鍵は?』って問われた時に、ちゃんと答えを用意できるまで、合鍵は持たない方が良いよ」
新しく倉庫を借りたとか、預かっている予備の鍵だとか、適当に嘘を吐いて言い逃れる術はいくらでもある。しかし久我が言いたいのは、そんなことではないのだろう。
玲旺が久我を下の名前でまだ呼べないように、合鍵を得るには何かけじめのような物が必要なのかもしれない。
「わかった、今は諦めるよ。……じゃあ、先にシャワー浴びて来るね。それとも一緒に入る?」
気まずい空気を掻き消すように玲旺が笑いかけると、久我もフッと力を抜いて微笑んだ。
「あとで風呂を沸かすから、そうしたら一緒に入ろうか」
久我が玲旺を抱き寄せ、ポンポンと背中を撫でる。数秒見つめ合った後、玲旺は素直にバスルームへ向かった。
大切にされている。とても。
なのに鏡に映った自分の顔は、少し冴えない。
自分の愛する人が、自分のことを愛してくれている。それだけで充分幸せなはずなのに、もっともっとと久我の全てを欲してしまう。
「望み過ぎたら罰が当たるぞ」
欲張りな自分を消し去るように、鏡に向かって勢いよくシャワーをかけた。
「合鍵、欲しいんだけど。なんでまだ止めておいた方がいいと思うの」
「だって、この部屋に玲旺が一人で来ることはないだろ。駐車場から玲旺が先に部屋に戻る時も、今日みたいに鍵を渡せばいいだけだから、必要ないじゃないか」
「それはそうだけど……」
合鍵を持っているのは、何もドアを開ける目的のためだけではないだろう。究極のプライベート空間に、好きな時にいつでも来て良いと言う信頼の表れではないのか。
「つまり久我さんは、自分がいない時に俺が勝手に家に入るのは嫌ってことなんだ」
「そんなんじゃないよ」
参ったように溜め息を吐かれ、玲旺はムッとした表情を作る。
「じゃあ、どうして」
「何かの拍子に玲旺のキーケースを社長に見られたら、『どこの家の鍵だ』って絶対に聞かれるぞ。社長は観察眼が鋭いから、見逃すはずがない。その時、玲旺は何て答えるの?」
直ぐに言い返せなかった玲旺は、デニムのポケットに入っているキーケースを思い浮かべた。自宅の鍵に、一号店と二号店の店舗キー。それに秘密基地の鍵。そこに加わる新たな鍵に、果たして父親は気付くだろうか。
「俺がどんな鍵を持ってるかなんて、きっと知らないよ」
「そうかな。今までキーケースを無造作に家のどこかに置いていたりしたことはない?」
そう言われてしまうと、無いとは言い切れなかった。リビングや自室に放置したままだったことがあったかもしれない。
ソファでうつむいた玲旺の隣に再び腰を降ろし、久我は優しく髪を撫でた。
「それにね、そもそも社長に気付かれなければ良いって話でもないと思うんだ。玲旺が家族から『この鍵は?』って問われた時に、ちゃんと答えを用意できるまで、合鍵は持たない方が良いよ」
新しく倉庫を借りたとか、預かっている予備の鍵だとか、適当に嘘を吐いて言い逃れる術はいくらでもある。しかし久我が言いたいのは、そんなことではないのだろう。
玲旺が久我を下の名前でまだ呼べないように、合鍵を得るには何かけじめのような物が必要なのかもしれない。
「わかった、今は諦めるよ。……じゃあ、先にシャワー浴びて来るね。それとも一緒に入る?」
気まずい空気を掻き消すように玲旺が笑いかけると、久我もフッと力を抜いて微笑んだ。
「あとで風呂を沸かすから、そうしたら一緒に入ろうか」
久我が玲旺を抱き寄せ、ポンポンと背中を撫でる。数秒見つめ合った後、玲旺は素直にバスルームへ向かった。
大切にされている。とても。
なのに鏡に映った自分の顔は、少し冴えない。
自分の愛する人が、自分のことを愛してくれている。それだけで充分幸せなはずなのに、もっともっとと久我の全てを欲してしまう。
「望み過ぎたら罰が当たるぞ」
欲張りな自分を消し去るように、鏡に向かって勢いよくシャワーをかけた。
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