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~ 第二章 賽は投げられた ~
Go for it!④
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「取り敢えずビールでいい?」
玲旺の問いに月島は目をパチパチさせながらうなずく。注文を終え店員がテーブルから離れると、月島は楽しそうに店内を見回した。
「スゲー。想像以上に良い感じ。この熱いおしぼりを手渡されると、日本に帰って来たなぁって実感するよ。『取り敢えず生』ってフレーズも懐かしい」
それを聞いた玲旺は、大きく肩を揺らした。
「確かに。凄く日本って感じがするね」
シンプルな木のテーブルに、背もたれのない四角い椅子。壁一面を埋め尽くす酒瓶と、木札のメニュー。長い時間、炭火と煙草で燻された飴色の天井。
このような空間で生活したことはないにもかかわらず、来るたびに懐かしさを感じてしまうのは、脈々と受け継がれてきた日本人の遺伝子のせいだろうか。
すぐに運ばれてきた生ビールで乾杯を済ませると、店員が「待たせたお詫びに」と豚の角煮をサービスで出してくれた。
月島は追加で、唐揚げやモツの味噌煮込みなどを注文し、幸せそうにビールを呷る。
「日本食もさぁ、寿司やラーメンならロンドン市内でも簡単に見つけられるけど、こういう家庭料理は中々食べられないから凄く嬉しい」
あっという間にジョッキを空けてしまった二人は、次のレモンサワーが届くまでの間、黙々と角煮をつつく。ほろほろと柔らかく崩れる肉を見ながら、玲旺が「そう言えば」と口を開いた。
「大事なことなのに、まだ面と向かって言ってなかった。準グランプリ、おめでとう」
「あっ、俺もまだお礼してなかった。花を贈ってくれただろ、凄く綺麗で励まされたよ。ありがとうな。氷雨さんにもさっきメールしたんだけど、今度会った時に俺が喜んでたって伝えておいて」
それを聞いた玲旺は、意外そうにテーブルの皿から顔を上げた。
「へぇ、氷雨さんも花を贈ってたんだ。って言うか、いつの間にメールのやり取りとかしてたの?」
言ってなかったっけ? と月島は首を傾げる。
「随分前に、出張のついでにウチの店に寄ってくれてさ。その時、アドレス交換したんだ。ひと言ふた言、他愛もない短いメッセージだけど、たまに連絡が来る。結構嬉しいもんだよね、誰かに気にかけて貰えるのって」
長い間故郷を離れていると、理由もないのにどうしようもなく孤独を感じる瞬間が訪れる。そんな時、母国語で書かれた文字を目にしただけで、勇気づけられることが玲旺にも何度かあった。
「うん、わかる。氷雨さんも留学の経験があるから、そう言う何気ない言葉が励ましになるって知ってるんだろうね」
「やっぱトップを走ってる人って流石だな。気配りも細やかだし、周りをよく見てるんだろうね」
月島が感心したように唸る。「周りをよく見ている」と言うフレーズに、玲旺はふと箸を動かす手を止めた。脳裏に原田の言葉が蘇る。
『俺が事務所に行ったって門前払いだし、尾行しようにも影の先すら掴ませねぇ』
氷雨は果たして、尾行されていたことに気付いていたのだろうか。
玲旺の問いに月島は目をパチパチさせながらうなずく。注文を終え店員がテーブルから離れると、月島は楽しそうに店内を見回した。
「スゲー。想像以上に良い感じ。この熱いおしぼりを手渡されると、日本に帰って来たなぁって実感するよ。『取り敢えず生』ってフレーズも懐かしい」
それを聞いた玲旺は、大きく肩を揺らした。
「確かに。凄く日本って感じがするね」
シンプルな木のテーブルに、背もたれのない四角い椅子。壁一面を埋め尽くす酒瓶と、木札のメニュー。長い時間、炭火と煙草で燻された飴色の天井。
このような空間で生活したことはないにもかかわらず、来るたびに懐かしさを感じてしまうのは、脈々と受け継がれてきた日本人の遺伝子のせいだろうか。
すぐに運ばれてきた生ビールで乾杯を済ませると、店員が「待たせたお詫びに」と豚の角煮をサービスで出してくれた。
月島は追加で、唐揚げやモツの味噌煮込みなどを注文し、幸せそうにビールを呷る。
「日本食もさぁ、寿司やラーメンならロンドン市内でも簡単に見つけられるけど、こういう家庭料理は中々食べられないから凄く嬉しい」
あっという間にジョッキを空けてしまった二人は、次のレモンサワーが届くまでの間、黙々と角煮をつつく。ほろほろと柔らかく崩れる肉を見ながら、玲旺が「そう言えば」と口を開いた。
「大事なことなのに、まだ面と向かって言ってなかった。準グランプリ、おめでとう」
「あっ、俺もまだお礼してなかった。花を贈ってくれただろ、凄く綺麗で励まされたよ。ありがとうな。氷雨さんにもさっきメールしたんだけど、今度会った時に俺が喜んでたって伝えておいて」
それを聞いた玲旺は、意外そうにテーブルの皿から顔を上げた。
「へぇ、氷雨さんも花を贈ってたんだ。って言うか、いつの間にメールのやり取りとかしてたの?」
言ってなかったっけ? と月島は首を傾げる。
「随分前に、出張のついでにウチの店に寄ってくれてさ。その時、アドレス交換したんだ。ひと言ふた言、他愛もない短いメッセージだけど、たまに連絡が来る。結構嬉しいもんだよね、誰かに気にかけて貰えるのって」
長い間故郷を離れていると、理由もないのにどうしようもなく孤独を感じる瞬間が訪れる。そんな時、母国語で書かれた文字を目にしただけで、勇気づけられることが玲旺にも何度かあった。
「うん、わかる。氷雨さんも留学の経験があるから、そう言う何気ない言葉が励ましになるって知ってるんだろうね」
「やっぱトップを走ってる人って流石だな。気配りも細やかだし、周りをよく見てるんだろうね」
月島が感心したように唸る。「周りをよく見ている」と言うフレーズに、玲旺はふと箸を動かす手を止めた。脳裏に原田の言葉が蘇る。
『俺が事務所に行ったって門前払いだし、尾行しようにも影の先すら掴ませねぇ』
氷雨は果たして、尾行されていたことに気付いていたのだろうか。
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