されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

第二十七話 Go for it!

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「瞬時の判断、流石でございます。道具があっても使える頭と度胸がなければ、意味がありませんからね。原田の胸ポケットは必ず確認いたしましょう。それにしても、よくお気づきになられましたね」

 感心しながらボイスレコーダーを受け取る藤井に、玲旺はそれほど大層なことではないと肩をすくめた。

「俺の口から、なんとか譲歩の言葉を引き出そうとしている感じがしたんだよね。だから、ただの勘。こんなこと言っといて原田が何も持ってなかったらごめんね」
「なるほど。相手の挑発に乗らず、つぶさに観察されたのですか。いえ、きっと玲旺様の勘は正しいでしょう。いやはや、お見事です」

 玲旺の成長をしみじみと噛みしめ、感激したように藤井が目頭を押さえる。しかし直ぐに表情を引き締め、「後はお任せ下さい」と玲旺に一礼してから弁護士の後を追った。

 誰もいなくなった路地裏に残された玲旺と久我は、どちらからともなく顔を見合わせる。気まずい沈黙が流れたが、先に口を開いたのは玲旺だった。

「久我さんの憂いの理由はこれだったんだね。『大した問題じゃない』って言ってたけど、この件は間違いなく共有すべきだったと思うよ」

 玲旺の口調は落ち着いていたが、強い批難の響きを感じ取ったのだろう。久我はひどく後悔した様子で頭を下げた。

「すまん、俺が見誤った。まさか原田がここまでするとは思わなくて。俺の中では分別もあって、仕事のできる人のイメージが強かったんだ。だから少し楽観視してしまった……でも、これは全部言い訳だな。本当にすまなかった」

 結果的に自分のせいで玲旺にまで危害が及んでしまったことが許せないようだった。実際、玲旺が殴られそうになっている場面を目撃した動揺は、少しも鎮まっていないのだろう。まだ顔に血の気がなく、唇が白くなるほど噛みしめている。ここが路上でなければ、今すぐ抱きしめて背を撫でてやりたいところだ。

 久我にとっての原田は、玲旺にとっての久我や氷雨のような存在だったのかもしれない。だとしたら、「少し楽観視してしまった」と言う気持ちも理解できた。まさか。と思うだろう。

「今度からは、何かあったら直ぐに相談してね」

 責めるような空気は排除し、玲旺は久我を安心させるように微笑んでみせた。久我ならば、二度と同じ失敗は繰り返さないと信じられる。

「ああ、必ず。……ごめんな」

 久我も玲旺を抱きしめたいと思ったのかもしれない。腕を伸ばしかけたが、その手をグッと空中で握り締め、静かに下ろした。
 久我の場合、人目があると言う他に、今は玲旺を抱きしめる資格はないとでも思っていそうで心配になってしまう。
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