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~ 第二章 賽は投げられた ~
金のなる木⑩
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玲旺から無理やり引き剥がした原田の肩を、久我が強く揺さぶる。
「しっかりしろよ、現実を見ろ。あんたは営業としては優れていたかもしれないが、経営者には向いてなかったんだ。例え融資を受けたとしても、きっと派手な宣伝と見映えだけを重視した仕入れで、あっという間に資金は底をつく。カンフル剤を打ち続けなければ維持できない経営なんて、もうとっくに破綻してるんだよ」
もはや「先輩」とすら呼ばなくなった久我を押しのけ、原田はユラリと立ち上がった。足元が非常に頼りなく、まるで酩酊しているかのようだ。ふらふらと体を揺らしながら、玲旺に向かって指をさす。
「お前はいいよな、人生イージーモードで。金に困った事はあるか? どうせ俺のことも、虫けらが足掻いてるってくらいにしか思わないんだろう。心の中で嗤ってんだろうな」
そう罵られても、適当に受け流す事など出来なかった。玲旺にとって、決して他人事ではない。
「嗤えるわけないだろ、明日は我が身だ。やり方は間違ってるけど、自分の城を守ろうとするあんたの気持ちなら、少しわかる」
ぶはっと原田が盛大に吹き出し、腹を抱えて笑い出した。表面を取り繕うだけの同情だと受け取られたのなら、それでもいい。諦めたように玲旺は目を伏せる。
ひとしきり笑った後、原田は気が済んだのかビールケースに腰を落として意味もなく空を見上げた。魂が抜けてしまったような、なんの感情も浮かんでいない顔なのに、なぜか泣いているようにも見える。
ふいに、久我が路地の先に目を向け「こっちだ」と片手を挙げて合図を送った。
どうやら久我はここに来る途中、藤井に連絡していたらしい。
「原田さん。アポイントもなしに急に来られては困りますよ。しかも、私を通さず直接玲旺様の元へだなんて、言語道断です」
藤井の隣にはスーツ姿の男性がいて、見覚えがあるなと思っていたら胸元に天秤のバッヂを付けていた。
「弁護士事務所はこの近くですから、少しお話しさせてくれませんか」
桐ヶ谷家の顧問弁護士が差し出した名刺を、虚ろな目で原田が受け取る。すっかり観念して大人しくなった原田の背を押して弁護士が歩き出すと、藤井は久我にそっと耳打ちをした。
「警察は呼ばない。しかし、原田には相応のペナルティーを課す。今後また玲旺様や氷雨さんに近づくことがないようにな。お前も後から事務所に来い。詳しい事情を聞かせてくれ」
藤井は憑き物でも落とすように久我の肩を叩き、それから玲旺に目を向ける。
「到着が遅くなって申し訳ありません。お怪我はございませんか」
「俺は問題ない。原田の胸ポケットに録音機器が隠されていそうだから、確認しておいて。あと、これは俺が録ったやつ。持たせておいてくれて助かったよ。ありがとう」
玲旺が鞄からボイスレコーダ―を取り出すと、久我と藤井が息をのんだ。
「しっかりしろよ、現実を見ろ。あんたは営業としては優れていたかもしれないが、経営者には向いてなかったんだ。例え融資を受けたとしても、きっと派手な宣伝と見映えだけを重視した仕入れで、あっという間に資金は底をつく。カンフル剤を打ち続けなければ維持できない経営なんて、もうとっくに破綻してるんだよ」
もはや「先輩」とすら呼ばなくなった久我を押しのけ、原田はユラリと立ち上がった。足元が非常に頼りなく、まるで酩酊しているかのようだ。ふらふらと体を揺らしながら、玲旺に向かって指をさす。
「お前はいいよな、人生イージーモードで。金に困った事はあるか? どうせ俺のことも、虫けらが足掻いてるってくらいにしか思わないんだろう。心の中で嗤ってんだろうな」
そう罵られても、適当に受け流す事など出来なかった。玲旺にとって、決して他人事ではない。
「嗤えるわけないだろ、明日は我が身だ。やり方は間違ってるけど、自分の城を守ろうとするあんたの気持ちなら、少しわかる」
ぶはっと原田が盛大に吹き出し、腹を抱えて笑い出した。表面を取り繕うだけの同情だと受け取られたのなら、それでもいい。諦めたように玲旺は目を伏せる。
ひとしきり笑った後、原田は気が済んだのかビールケースに腰を落として意味もなく空を見上げた。魂が抜けてしまったような、なんの感情も浮かんでいない顔なのに、なぜか泣いているようにも見える。
ふいに、久我が路地の先に目を向け「こっちだ」と片手を挙げて合図を送った。
どうやら久我はここに来る途中、藤井に連絡していたらしい。
「原田さん。アポイントもなしに急に来られては困りますよ。しかも、私を通さず直接玲旺様の元へだなんて、言語道断です」
藤井の隣にはスーツ姿の男性がいて、見覚えがあるなと思っていたら胸元に天秤のバッヂを付けていた。
「弁護士事務所はこの近くですから、少しお話しさせてくれませんか」
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「到着が遅くなって申し訳ありません。お怪我はございませんか」
「俺は問題ない。原田の胸ポケットに録音機器が隠されていそうだから、確認しておいて。あと、これは俺が録ったやつ。持たせておいてくれて助かったよ。ありがとう」
玲旺が鞄からボイスレコーダ―を取り出すと、久我と藤井が息をのんだ。
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