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~ 第二章 賽は投げられた ~
金のなる木⑧
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「先輩こそどういうつもりですか。ヘッドハンティングの話なら、キッパリ断ったでしょう。それでも先輩がフローズンレインまで巻き込もうとするから、桐ケ谷や氷雨に近づかないことを条件に、多少手伝うと言っただけです」
久我の憂いの原因はこれだったのかと、隣で聞きながら玲旺は深く納得した。久我は申し訳なさそうに玲旺を横目で見てから、再び原田に向き直る。
「俺が最も大切にしたいのは、フローズンレインであることに変わりはない。先輩の味方になった覚えはないですよ」
頼みの綱に突き放された原田は、よたよたと立ち上がり、すがるように手を伸ばした。
「お前……俺が今どれだけ追い詰められてるか知ってるだろう。東京出店は起死回生のチャンスなんだ。頼む、氷雨に話を通してくれ。俺が事務所に行ったって門前払いだし、尾行しようにも影の先すら掴ませねぇ。アレさえ手に入れば何とでもなるのに」
タチの悪い悪霊にでも憑りつかれたのかと思うほど、原田の顔は醜く歪んでいた。久我は悲しそうに目を伏せ、力なく首を振る。
「氷雨を何だと思ってるんです。彼は便利な道具なんかじゃない」
「何を甘い事言ってんだ。これ以上ないくらい便利な道具だろう。氷雨は先を読む力があるし、頭もキレる。オマケに顔も良いと来たもんだ。最高の金のなる木じゃないか。手の届かない高嶺の花だったが、ようやくお前と言う中継点を経て繋がれそうなんだ。なぁ、いいだろ減るもんじゃないし。天才の力をちょっと貸してくれよ」
ヘラヘラ笑いながら肩を叩く手を、嫌悪に満ちた表情で久我が払い除けた。
「ふざけるな。ブランドを背負うプレッシャーに押し潰され血反吐を吐いて、それでも這いつくばってデザイン画を描く奴だぞ。比喩なんかじゃない。本当に胃の中が空になって吐く物が胃液だけになっても、アイツは今できる限り最高のものを作ろうと突き詰めて作品と向き合うんだ。そんな苦労や努力を、天才の一言で片付けるな」
久我の反論に玲旺は胸のすく想いだったが、氷雨をまるで消耗品のように扱おうとする原田には、全く響いていないようだった。
「別にうちの店のためにイチから服を作ってくれなんて言ってないだろ。人気の出そうなブランドの服を、適当にいくつか見繕ってくれればいいんだよ。氷雨が選んだってだけで価値が出るんだから」
「適当に、見繕う……?」
玲旺と久我から、諦めのような虚しい溜め息が同時に漏れた。もう、何を言っても伝わらないのだろう。無意味だと分かっていながら、久我が訴えた。
「氷雨を愚弄するな。あいつがそんな適当な仕事をするわけがないだろう。それに、消費者だって馬鹿じゃない。そんな小手先の仕入なんて、簡単に見抜かれるぞ」
久我の意見も右から左のようで、ハイハイと軽く受け流す。あれだけのことをしておきながら、原田は粘つくような媚びた声で玲旺に話しかけた。
「そんな事より、桐ケ谷さんにもお願いがあるんです。フローズンレインとうちとで、業務提携しましょうよ」
正気とは思えない提案に、玲旺はうすら寒くなった。
久我の憂いの原因はこれだったのかと、隣で聞きながら玲旺は深く納得した。久我は申し訳なさそうに玲旺を横目で見てから、再び原田に向き直る。
「俺が最も大切にしたいのは、フローズンレインであることに変わりはない。先輩の味方になった覚えはないですよ」
頼みの綱に突き放された原田は、よたよたと立ち上がり、すがるように手を伸ばした。
「お前……俺が今どれだけ追い詰められてるか知ってるだろう。東京出店は起死回生のチャンスなんだ。頼む、氷雨に話を通してくれ。俺が事務所に行ったって門前払いだし、尾行しようにも影の先すら掴ませねぇ。アレさえ手に入れば何とでもなるのに」
タチの悪い悪霊にでも憑りつかれたのかと思うほど、原田の顔は醜く歪んでいた。久我は悲しそうに目を伏せ、力なく首を振る。
「氷雨を何だと思ってるんです。彼は便利な道具なんかじゃない」
「何を甘い事言ってんだ。これ以上ないくらい便利な道具だろう。氷雨は先を読む力があるし、頭もキレる。オマケに顔も良いと来たもんだ。最高の金のなる木じゃないか。手の届かない高嶺の花だったが、ようやくお前と言う中継点を経て繋がれそうなんだ。なぁ、いいだろ減るもんじゃないし。天才の力をちょっと貸してくれよ」
ヘラヘラ笑いながら肩を叩く手を、嫌悪に満ちた表情で久我が払い除けた。
「ふざけるな。ブランドを背負うプレッシャーに押し潰され血反吐を吐いて、それでも這いつくばってデザイン画を描く奴だぞ。比喩なんかじゃない。本当に胃の中が空になって吐く物が胃液だけになっても、アイツは今できる限り最高のものを作ろうと突き詰めて作品と向き合うんだ。そんな苦労や努力を、天才の一言で片付けるな」
久我の反論に玲旺は胸のすく想いだったが、氷雨をまるで消耗品のように扱おうとする原田には、全く響いていないようだった。
「別にうちの店のためにイチから服を作ってくれなんて言ってないだろ。人気の出そうなブランドの服を、適当にいくつか見繕ってくれればいいんだよ。氷雨が選んだってだけで価値が出るんだから」
「適当に、見繕う……?」
玲旺と久我から、諦めのような虚しい溜め息が同時に漏れた。もう、何を言っても伝わらないのだろう。無意味だと分かっていながら、久我が訴えた。
「氷雨を愚弄するな。あいつがそんな適当な仕事をするわけがないだろう。それに、消費者だって馬鹿じゃない。そんな小手先の仕入なんて、簡単に見抜かれるぞ」
久我の意見も右から左のようで、ハイハイと軽く受け流す。あれだけのことをしておきながら、原田は粘つくような媚びた声で玲旺に話しかけた。
「そんな事より、桐ケ谷さんにもお願いがあるんです。フローズンレインとうちとで、業務提携しましょうよ」
正気とは思えない提案に、玲旺はうすら寒くなった。
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