されど御曹司は愛を誓う

～ 第二章 賽は投げられた ～

金のなる木⑥

　玲旺はうんざりしたように首をゆっくり回し、原田を見る。言葉尻を捕らえて自分勝手な解釈をし、あわよくば言質を取ろうとしているようだ。
　何となく原田も音声を録っているのではないかと言う予感がして、玲旺は嫌味を込めてニヤッと笑った。

「いいえ、その条件でもお断りいたします。ちなみに俺もこの会話、録音してますからね。都合よくつなぎ合わせて俺の言葉を編集しても無駄ですよ」

　玲旺の言葉を聞き、原田が無意識にジャケットの上から心臓の辺りを押さえる。やはり内ポケットにボイスレコーダーを忍ばせていたようだ。
　原田は玲旺の目を見つめ、にっこり笑ったままの状態で大きな舌打ちをした。
　どこまでも失礼で気味の悪い男だ。

　玲旺は呆れながらも手元のスマートフォンに目を落とし、久我に送ったメッセージに既読が付いていることを確認する。そろそろ月島も到着する頃かもしれない。
　どちらでもいいから早く来てくれと切に願った。とにかく原田と二人でいる状況から脱したい。
　再び顔を上げると、原田は玲旺から視線を外して苛立ったように爪を噛んでいた。

　容易く懐柔できるだろうと舐めていたのに、玲旺が思ったより上手く立ち回るので、脳内で作戦を練り直しているのかもしれない。
　原田の気が逸れているうちにここから離れてしまおうと、玲旺がそっと立ち上がる。けれど一歩踏み出そうとした瞬間、物凄い力で腕を掴まれた。

「どちらに行かれるんです。まだ話は終わっていませんよ」

　痣になるのではないかと思うほど指が腕に食い込んだが、玲旺は痛みを顔に出さず、冷たく原田を見下ろした。

「最初から話す事などありませんよ。先ほどから何度も申し上げているはずです。あなたからの要求は、全てお断りすると」

　呪い殺そうとしているのではないかと疑いたくなるほど、玲旺を睨む原田の目は血走り、剣呑としていた。原田から発せられる陰惨な空気に触れ、肌がチリチリと痛む。
　玲旺は上等だと言わんばかりに、周囲の空気ごと押し潰すようなイメージで睨み返した。
　玲旺が一歩も退かないのが悔しいのか、原田は奥歯を噛みしめ、突然勢いよく立ち上がる。右手を振り上げるのが見え「殴られるんだ」と理解したが、それでも玲旺は動じなかった。

　チキンレースのようなものだ。
　一秒でも原田から目を逸らしてしまえば、負けのような気がして睨み続けた。