されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

僕たちが作る世界⑥

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 眩いストロボ、ライティング用の器材。カメラマンから飛ぶ指示。頃合いを見計らって絶妙なタイミングで直されるメイク。
 玲旺はプロの矜持が詰まった風景を目に焼き付ける。

 編集者や校正者。誌面を作るデザイナーにオペレーター。印刷業者に運送業者。そして書店員。まだまだほかにもいるかもしれない。この雑誌が読者に届くまでに、一体どれほどの人が携わるのだろう。

 業種は違えど、玲旺はこの場に居る人たちが全員、同士のように思えた。
自分たちも毎日、この現場に負けないくらいの熱量で挑み続けている。

「俺たちが作っているのは服だけど、届けたいのはそれだけじゃないよね」

 日常生活のふとした場面で、服を手にしてくれた人たちの背中を押したり、気分を高揚させたり、寄り添ったり励ましたり、力になりたいという強い想いも乗せている。
 氷雨はうなずく代わりに大きな瞬きを一つした。伏せた睫毛の先が僅かに震える。

「キミたちと組めて、本当に良かった」

 噛みしめるように言うと、氷雨は誇らしげな表情で白い髪をかき上げた。

「次はランウェイの上から、観客たちの心臓を貫いて見せるよ。いつか言ったでしょう?『僕はキミがこの世界で戦うための武器になる』って。とびきり切れ味のいい刀で、向かってくる敵は全部薙ぎ払ってあげる。ステージを観てくれた人に、僕らの想いを届けよう」

 不敵に笑った氷雨の向こう側に、ランウェイと大勢の観客が見えた気がした。

「その時、隣に永遠がいてくれたらいいね」

 玲旺の声は囁くような小ささだったが、氷雨にはどうやら聞こえたらしい。一瞬だけ、泣いてしまうのかと思うほど切なそうに眉を寄せた。そんな顔をするくらいなら、もっと素直になればいいのに。
 そう思いつつ、自分だって久我との関係に悪戦苦闘しているのだから、人のことは言えないな、とこっそり肩をすくめる。

 無事にツーショットを撮り終えた後も着替えとメイクを繰り返し、玲旺はようやくお役御免となった。
 確かに体験したことは「何度か着替えて何枚か写真を撮るだけ」と、倉持の説明通りなのだが、実際にやってみれば言うほど楽ではないと痛感する。
 メイクを落とし自前のスーツに着替えてスタジオに戻ると、表紙用の衣装を身にまとった氷雨の撮影が、既に始まっていた。

「桐ケ谷さん、お疲れ様でした」

 撮影風景を眺めていた玲旺の横に、湯月が並ぶ。大役を果たしたことを実感して、玲旺はふーっと長く息を吐きだした。

「モデルって、動きが少ないのに凄く疲れますね。明日、筋肉痛になりそうです」
「あはは。そうですね、ポーズを維持するのって意外と筋肉必要ですから。でも、桐ケ谷さん凄く良かったですよ」

 労って貰って何だかホッとしてしまう。湯月はカメラの前に立つ氷雨に目を向けたまま、玲旺に「先ほどはすみませんでした」と謝罪した。

「ヘンな誤解をしてしまって、お恥ずかしい。とは言え、実はまだちょっと疑ってるんですけどね。だって氷雨くんがあんなに人に心を開いているの、見たことないんですもん」

 湯月の握っていたボールペンが、ミシッと鳴る。その横顔には、明らかに嫉妬の色が見て取れた。
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