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~ 第二章 賽は投げられた ~
僕たちが作る世界④
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「桐ケ谷さんの清廉さと氷雨さんの妖艶さを、ガラッと入れ替えてみたくて。先日桐ケ谷さんにお会いした時に、爽やかだけど意外と色気のある方だなぁと思ったんですよね」
玲旺の目元は黒が強調されたダークメイクで、唇は血が滴るような赤色だ。メイクを施されている最中、別人のように変わっていく自分の顔を見ているのが面白かった。
対する氷雨は、青みのあるローズカラーのリップに潤んだ瞳を強調させるような赤系のアイメイクで、甘めながらもどことなく憂いを帯びた雰囲気に仕上げられていた。
「お願いします」
氷雨と二人、眩しいくらいの照明の下に進み出る。
スタジオの背景紙は僅かに赤味を帯びた褪せた紫色で、アンティークゴールドの色をした大小の歯車が、そこら中に散りばめられたセットだった。
「桐ケ谷クンは初めてだから、最初はお話ししながら自由に動いていいかしら」
氷雨がカメラマンに問うと「ええ。もちろん」と言う答えがすぐに返って来た。いきなりポーズを取れと言われずに済んでホッとしたが、自由に動けと言われても、それはそれで困ってしまう。
そんな玲旺の思考を見抜いたかのように、氷雨がクスッと笑った。
「スタジオでの撮影って緊張する?」
「そうだね。インタビューの合間に撮られることはあっても、こんなに改まって撮られるのは初めてだし」
玲旺の話を聞きながら、氷雨は両手を広げその場でゆっくりターンする。白い衣装といつもより柔らかいメイクのせいか、その仕草はとても無垢に見えた。
しかし可憐に微笑んでいたのも束の間、今度は潤んだ瞳でカメラをジッと見据える。先ほどまで清楚にすら感じていた氷雨の赤いメイクが、急に泣いた後の目元のように思えて、その背徳的な色香にドキリとした。
カメラのシャッターが切られる音が、絶えずスタジオに響く。
自分が黒い衣装を身に纏っているからだろうか。非日常の空間で、フィルムのネガとポジのように、玲旺は氷雨がもう一人の自分のような存在に思えた。
氷雨が汚してはいけない、ゾクゾクするような毒を隠した妖艶さを放つなら、自分はその正反対を行こうか。悪辣で攻撃的な眼差しで、解りやすく挑発するようにカメラを睨む。
氷雨がククッと喉を鳴らした。
「いい顔ねぇ。キミはやっぱり勘が鋭いな」
「氷雨さんがお手本になってくれるからだよ。一人じゃ無理だ」
声のトーンを落としているので、二人の会話は周囲にまでは聞こえないだろう。氷雨はカメラに視線を向けたまま、儚さを主張するように玲旺にしなだれかかる。
「僕の動きを参考にしようって気づけるところが、凄いのよ。初めての撮影で舞い上がって、何も出来ない子も大勢いるんだから」
スポットライトの熱と迫りくるようなシャッター音は、感情を昂らせ冷静さを奪う。何もできない子がいても可笑しくはないと、この空間に身を置く経験をした玲旺は納得した。
そして一枚の画像を思い出し、寄り掛かる氷雨に自分も体重を預けながら尋ねる。
「俺、氷雨さんの初撮影の写真、見たことあるよ。とても高校生とは思えない凄味があった。『天に選ばれた人』って感じたよ。ねぇ。あの時、どんなことを考えていたの」
玲旺の目元は黒が強調されたダークメイクで、唇は血が滴るような赤色だ。メイクを施されている最中、別人のように変わっていく自分の顔を見ているのが面白かった。
対する氷雨は、青みのあるローズカラーのリップに潤んだ瞳を強調させるような赤系のアイメイクで、甘めながらもどことなく憂いを帯びた雰囲気に仕上げられていた。
「お願いします」
氷雨と二人、眩しいくらいの照明の下に進み出る。
スタジオの背景紙は僅かに赤味を帯びた褪せた紫色で、アンティークゴールドの色をした大小の歯車が、そこら中に散りばめられたセットだった。
「桐ケ谷クンは初めてだから、最初はお話ししながら自由に動いていいかしら」
氷雨がカメラマンに問うと「ええ。もちろん」と言う答えがすぐに返って来た。いきなりポーズを取れと言われずに済んでホッとしたが、自由に動けと言われても、それはそれで困ってしまう。
そんな玲旺の思考を見抜いたかのように、氷雨がクスッと笑った。
「スタジオでの撮影って緊張する?」
「そうだね。インタビューの合間に撮られることはあっても、こんなに改まって撮られるのは初めてだし」
玲旺の話を聞きながら、氷雨は両手を広げその場でゆっくりターンする。白い衣装といつもより柔らかいメイクのせいか、その仕草はとても無垢に見えた。
しかし可憐に微笑んでいたのも束の間、今度は潤んだ瞳でカメラをジッと見据える。先ほどまで清楚にすら感じていた氷雨の赤いメイクが、急に泣いた後の目元のように思えて、その背徳的な色香にドキリとした。
カメラのシャッターが切られる音が、絶えずスタジオに響く。
自分が黒い衣装を身に纏っているからだろうか。非日常の空間で、フィルムのネガとポジのように、玲旺は氷雨がもう一人の自分のような存在に思えた。
氷雨が汚してはいけない、ゾクゾクするような毒を隠した妖艶さを放つなら、自分はその正反対を行こうか。悪辣で攻撃的な眼差しで、解りやすく挑発するようにカメラを睨む。
氷雨がククッと喉を鳴らした。
「いい顔ねぇ。キミはやっぱり勘が鋭いな」
「氷雨さんがお手本になってくれるからだよ。一人じゃ無理だ」
声のトーンを落としているので、二人の会話は周囲にまでは聞こえないだろう。氷雨はカメラに視線を向けたまま、儚さを主張するように玲旺にしなだれかかる。
「僕の動きを参考にしようって気づけるところが、凄いのよ。初めての撮影で舞い上がって、何も出来ない子も大勢いるんだから」
スポットライトの熱と迫りくるようなシャッター音は、感情を昂らせ冷静さを奪う。何もできない子がいても可笑しくはないと、この空間に身を置く経験をした玲旺は納得した。
そして一枚の画像を思い出し、寄り掛かる氷雨に自分も体重を預けながら尋ねる。
「俺、氷雨さんの初撮影の写真、見たことあるよ。とても高校生とは思えない凄味があった。『天に選ばれた人』って感じたよ。ねぇ。あの時、どんなことを考えていたの」
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