されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

僕たちが作る世界③

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 片膝をつき、改まった口調で湯月を見上げる氷雨の所作には、まるで舞踏会でダンスの申し込みをしているような優雅さがあった。
 ただそれは、着ている衣装と氷雨の容姿が雅やかなせいであって、決して本人に余裕があると言うわけではなさそうだ。
 その証拠に、「歩いてくれませんか」など、珍しく敬語を口走っている。

 目線を合わせるためとはいえ、身を屈めてまで懇願する氷雨にたじろぎ、湯月が思わず後ずさった。しかし右手を握られているので、半歩も後ろに下がれない。
 湯月が怯えたように首を振る。

「ランウェイなんて、もう歩けないよ。レッスンもしてないし、筋肉も落ちちゃったから」
「未経験で一からって訳じゃないんだから、勘はすぐに戻るわよ。体幹を鍛え直すのは僕もフォローする。だから、ね? お願い」

 氷雨は立ち上がり、湯月の手を握り締めた。その間も湯月はずっと腰が引けていて、泣きそうな顔で必死に拒み続ける。

「もう、化粧したってあの頃みたいに中性的にはなれないし、みんなの中にあるイメージを壊したくないよ。それに、今の生活も守りたい。ファッション誌の編集は、ずっと憧れてた仕事なんだ。正体がバレて騒がれたり続けられなくなるのは、本当に困る」

 湯月の訴えを聞き、玲旺はふと久我から見せてもらった永遠の画像を思い出す。
 あの頃は確かに少年にも少女にも見え、まさしく天使のように可憐な印象だった。十代前半の刹那的な魅力が永遠の売りでもあったなら、大人になってしまった姿はもしかするとマイナスイメージに繋がるかもしれない。
 しかし氷雨は、出来ない理由を羅列する湯月に「問題ない」と言い切った。

「キミが不安に思ってること全部、僕が取り除いてあげる。だから何も心配しないで、キミはただイエスって頷けばいいだけよ。撮影が終わったら、もう一度返事を聞かせて」

 握っていた右手を解き、湯月の頭をポンポンと軽く二回撫でてから、氷雨は更衣室の扉へ向かう。ドアノブに手をかけ、静かに玲旺を振り返った。「行こう」と目で訴えていたので、玲旺もうなずいて氷雨と一緒に部屋を出る。
 大きく息を吸い込んだ氷雨は、撮影へと気持ちを切り替えているようだった。

 メイクルームでメイクを済ませ、小物を付け足し、コーディネートが完成される。
 玲旺が黒、氷雨が白を基調とした揃いの服で、エレガントな装いながらもスチームパンクの要素を取り入れた服の組み合わせが斬新だった。
 ゴーグルや皮手袋のアイテム一つで、印象がガラリと変わるものだなと玲旺は感心する。

「僕じゃなくて桐ケ谷クンの方が黒のチョイスって面白いね」

 衣装の最終チェックをしている早川に氷雨が笑いかけると、早川は嬉しそうに「えへへ」と鼻をこすった。
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