されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

子の心親知らず⑩

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 震える息を吐きながら、玲旺は配管が張り巡らされた駐車場の天井を見上げる。

「藤井には凄く感謝してるよ。こんなプライベートなことで煩わせてごめんね。さっき会議室で、『今はクリアデイの件に集中しよう』って話し合ったんだ。みんなの迷惑になったり足を引っ張るような事だけはしないから」

 なるべく心配させないように笑顔を作ったが、藤井はひどく心を痛めているようだった。

「玲旺様は本当に成長されました。足を引っ張るようなことなど、もう滅多に起きないでしょう。逆に、今後は頼られる場面が増えていくと思われます。あと二、三年もすれば、誰の助言がなくてもお一人で決断し、皆を導いていくはずです。ですから今のうちにお伝えしておきますね」

 前を見ていた藤井が、改まったようにこちらに向き直る。

「あなた様がどれだけ立派になられたとしても、どうぞ周囲に頼る事をお忘れになりませんように。遠慮なく私を煩わせてください。どんな無理難題でも、必ず応えてみせますから。私は死ぬまであなた様の味方だということを、心に留めておいてくださいませ」

 胸に手を当て、まるで騎士の誓いのように藤井が宣言した。
 この上なく有難いと思うと同時に、こうまで言ってくれる藤井に何も返せるものが無いと、玲旺は申し訳なさそうに眉を寄せる。

「俺、藤井に迷惑ばっかりかけてる。まだ何も恩返し出来てないのに」

 玲旺のその一言に、藤井はオーバーなくらいに驚いた表情をみせた。

「何をおっしゃいますか。あなた様の目覚ましい成長を、秘書と言う特等席で見守れるのですよ。これ以上の報酬はありません。それに、玲旺様も氷雨さんに『この先もずっと味方だから』とおっしゃっていたではありませんか。あの時、氷雨さんからの見返りを求めていましたか?」

 見返りなんて考えたこともなかったと、玲旺は大きく首を振る。藤井は「同じ気持ちなのです」と、珍しく口元に笑みを浮かべた。

「純粋に応援したいのですよ。そして、応援できる立場に居られることが、光栄で幸福なのです」

 自分が成長できたのは、間違いなく周囲の人たちのお陰だ。温かい気持ちに満たされて、玲旺は藤井に笑顔を返す。

「そっか……うん。凄く嬉しい。ありがとう」

 藤井はうなずきながら、思い出したように付け加えた。

「氷雨さんも、玲旺様に味方でいると言って貰えて嬉しかったと思いますよ。まぁ、あの方は本音を隠すのが得意ですから、なかなかそう言った感情も出さないので実感しにくいでしょうけど」
「……氷雨さんもあの時、今の俺みたいな気持ちになってくれてたらいいなぁ」

 そんな会話をしていたら、タイヤをキュルキュル鳴らしながら一台の黒い高級ワンボックスカーがスロープを降りて来るのが見えた。

「ああ、いらっしゃいましたね」

 玲旺たちが待つエレベーターホール前で停車すると、後部座席のスライドドアがスーッと開かれる。
 国内で量販されているLLサイズのミニバンの中でも最上位のラグジュアリーな車内から、氷雨が「お待たせぇ」と手を振った。
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