されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

子の心親知らず⑥

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「なに勝手なこと言ってんだよ」
「いや、驚かせてすまなかった」

 玲旺の声が上ずったが、自分が変な誤解をしたせいで動揺させてしまったと思ったのか、父親はすんなりと謝罪の言葉を口にした。

「しかし、それならやはり彼女を一度家に連れて来なさい。私もきちんと挨拶をしなければ。そうだ、久我君と藤井君も同席してくれないか。鑑識眼のある君たちがいてくれれば、私も心強い」

 先ほどまでは社長の風格が確かにあったのだが、今はただの父親の顔になっていて、それが余計に辛かった。
 玲旺が何も言えずに目を逸らしてしまったので、藤井は「社長ほど人を見る目のある方が、何をおっしゃいますか」と、無言が続くのを回避するように言葉を発する。
 いつもなら玲旺の窮地には真っ先に救いの手を差し伸べる久我は、口をつぐんだままだった。

「付き合っている女性はいないって、言っただろ」

 口の中が乾いて喉が締め付けられ、玲旺の声が掠れる。

「だったら、なぜ見合いの話を受けない。クリアデイの件が片付いてからでも構わないから、一度きちんと将来のことをよく考えてみたらどうだ。どうせいつかは身を固めるんだ、それなら早い方がいいだろう」

 父親に本当のことを告げられない後ろめたさと、久我にこんな話を聞かせてしまった申し訳なさで、感情の行き場が解らなくなる。
 その場に崩れ落ちそうになるのを堪えながら、玲旺が声を絞り出した。

「見合いはしない。ごめん、俺は結婚自体するつもりがない。今どき世襲制じゃなくたっていいだろ。もしどうしても一族経営にこだわるなら、俺の後継は姉貴の子にお願いしてよ」

 自分の爪先を見つめたまま、顔を上げられなかった。父親の溜め息が聞こえてきて、きっと不機嫌そうな顔をしているのだろうなと想像する。

「何を馬鹿げたことを。……まぁ、今はクリアデイの件で手一杯だろうから仕方ない。この話はまた改めるとしよう。お前はまだ若いから、この先いくらでも考えが変わるだろうしな。合同コレクションは、フォーチュンも当然だが全面的に支援する。何かあればすぐに言いなさい。その代わり、解っているだろうが負けは許されないからな」

 玲旺は一度グッと唇を噛みしめてから、「承知しましたと」うなずいた。

「では、撮影がありますのでこれで失礼致します」

 藤井が玲旺の背に手を添えて、さりげなく支えるように退出を促す。久我も一礼し、玲旺の後に続いた。
 社長室の扉を閉めると、三人から同時にはぁっと深いため息が漏れる。
 重い足取りでエレベーターホールへ向かう途中、久我が急に足を止めた。

「藤井、すまない。五分だけでいい、桐ケ谷を少し借りるぞ」

 藤井の返事を待つことなく、玲旺は久我に腕を掴まれ、会議室に引きずり込まれた。
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