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~ 第二章 賽は投げられた ~
新しい提案⑤
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苦虫を噛み潰したような顔をする玲旺を見て、氷雨が可笑しそうに声を上げて笑う。
「あっはは。桐ケ谷クン、撮影は気が重い? 大丈夫、大丈夫。気楽に行こうよ」
氷雨が「楽しみだねぇ」と助手席の窓枠に手をかけて、嬉しそうに軽く飛び跳ねた。
あまり目立つ動きはしない方が良いのではとハラハラしていると、案の定カフェの店内にいる客の何人かが氷雨に気付き、ギョッとした顔で窓に張り付いたのが見えた。
「ほら、カフェの客に見つかったぞ。騒ぎになる前に早く建物に入れよ」
久我が急かすと、氷雨は素直にさっと車から離れる。
「はぁい。じゃあね、ばいばーい」
車に向かって投げキッスをした氷雨が、くるりと踵を返した。店内で興奮気味に足をバタつかせている女性客にも、愛想良くひらひらと手を振ってみせる。客の声は当然ここまで届かないが、「ぎゃー」と言っていそうな表情と雰囲気だった。
騒然とする店内をよそに、氷雨はカフェの入り口とは別の、事務所へ続くエレベーターホールへ颯爽と消えていく。それを見届けた久我が、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。
「氷雨さん、大丈夫かな。あんなに堂々と表から入って、待ち伏せされたらどうするんだろ」
無防備過ぎる気がして、玲旺はバックミラーの中でどんどん遠ざかる英国風の可愛らしいオフィスビルを不安気に見つめた。
「それなら心配ないよ。帰りは化粧を落として裏口から出ていくから、気付かれることは無いだろ。事務所にはアイツの着替えがいくつか置いてあるって言ってたし」
それを聞いた玲旺は「あぁ」と納得した。
ウィッグと赤いコンタクトレンズを外すだけでも、かなり印象が変わる。その上、氷雨は普段わざと男性っぽいカーゴパンツやデニムパンツで無骨なコーディネートをしているのだ。パッと見ただけで氷雨だと気づける者は少ないだろう。
ただ、化粧をしていなくても目を引く容姿であることに変わりはないので、いつも長く伸ばした前髪で顔の半分以上を隠しているのを、玲旺は不憫に思っていた。
「なんか、大変そうだよね」
「そんな他人事みたいなこと言って。ブレイバーで特集が掲載されたら、玲旺だって今みたいに気軽に外を歩けなくなるだろ。動画だけでもあれだけ注目されたんだ。もう、一人で電車に乗って移動するなよ」
眉を寄せた久我が、ちらりと横目で玲旺を見る。信号待ちで車が停車すると、久我は外から見えないように、ダッシュボードの下で玲旺に向かって左手を差し出した。
何だろうと思って久我の手のひらを見つめていると、焦れたように「玲旺」と名前を呼ばれる。
熱のこもった声に、思わずドキリとした。
「あっはは。桐ケ谷クン、撮影は気が重い? 大丈夫、大丈夫。気楽に行こうよ」
氷雨が「楽しみだねぇ」と助手席の窓枠に手をかけて、嬉しそうに軽く飛び跳ねた。
あまり目立つ動きはしない方が良いのではとハラハラしていると、案の定カフェの店内にいる客の何人かが氷雨に気付き、ギョッとした顔で窓に張り付いたのが見えた。
「ほら、カフェの客に見つかったぞ。騒ぎになる前に早く建物に入れよ」
久我が急かすと、氷雨は素直にさっと車から離れる。
「はぁい。じゃあね、ばいばーい」
車に向かって投げキッスをした氷雨が、くるりと踵を返した。店内で興奮気味に足をバタつかせている女性客にも、愛想良くひらひらと手を振ってみせる。客の声は当然ここまで届かないが、「ぎゃー」と言っていそうな表情と雰囲気だった。
騒然とする店内をよそに、氷雨はカフェの入り口とは別の、事務所へ続くエレベーターホールへ颯爽と消えていく。それを見届けた久我が、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。
「氷雨さん、大丈夫かな。あんなに堂々と表から入って、待ち伏せされたらどうするんだろ」
無防備過ぎる気がして、玲旺はバックミラーの中でどんどん遠ざかる英国風の可愛らしいオフィスビルを不安気に見つめた。
「それなら心配ないよ。帰りは化粧を落として裏口から出ていくから、気付かれることは無いだろ。事務所にはアイツの着替えがいくつか置いてあるって言ってたし」
それを聞いた玲旺は「あぁ」と納得した。
ウィッグと赤いコンタクトレンズを外すだけでも、かなり印象が変わる。その上、氷雨は普段わざと男性っぽいカーゴパンツやデニムパンツで無骨なコーディネートをしているのだ。パッと見ただけで氷雨だと気づける者は少ないだろう。
ただ、化粧をしていなくても目を引く容姿であることに変わりはないので、いつも長く伸ばした前髪で顔の半分以上を隠しているのを、玲旺は不憫に思っていた。
「なんか、大変そうだよね」
「そんな他人事みたいなこと言って。ブレイバーで特集が掲載されたら、玲旺だって今みたいに気軽に外を歩けなくなるだろ。動画だけでもあれだけ注目されたんだ。もう、一人で電車に乗って移動するなよ」
眉を寄せた久我が、ちらりと横目で玲旺を見る。信号待ちで車が停車すると、久我は外から見えないように、ダッシュボードの下で玲旺に向かって左手を差し出した。
何だろうと思って久我の手のひらを見つめていると、焦れたように「玲旺」と名前を呼ばれる。
熱のこもった声に、思わずドキリとした。
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