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~ 第二章 賽は投げられた ~
第二十一話 新しい提案
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助手席に座った玲旺は、グッと奥歯を噛みしめる。
桜華高の生徒たちと出会う前は、不利な条件のままならこの勝負は辞退するつもりでいた。でも今は、どんな条件を出されたとしても退く気はなく、その上で勝ちたいとすら思っている。
「なんて返事が来たの」
玲旺が発した声は、緊張の色を帯びていた。氷雨は不愉快そうに顔をしかめ、手にしたスマートフォンの画面を玲旺に向ける。
「僕は取り敢えず、クリアデイのホームページに載ってた小っちゃい注意書きをスクショして、わざわざ赤線引いた画像付きでこちらが不利だってことを問い合わせたんだけどさぁ。快晴の返事は『えーホントだ、気付かなかった。じゃあどうしよっか?』だって。舐めてんのかなアイツ」
舌打ちとともに辛辣な言葉を吐き出す。
玲旺も確認するため自身のスマートフォンからSNSを開き、氷雨のアカウントにアクセスした。
数時間前に配信中の快晴から挑発を受け、『僕のコト庇ってくれてありがとう。でも少し落ち着いて』とファンたちを気遣って投稿したコメントには、既に十万のいいねが付けられている。改めて注目度の高さを思い知り、玲旺は無意識に背筋を伸ばした。
氷雨は快晴に、フローズンレインが後攻であることによって受けるデメリットを、丁寧に説明したコメントを送っている。
それに対し、初めに反応したのは快晴ではなくクリアデイの公式アカウントだった。氷雨の投稿を引用する形で「デメリットより、トリを飾れる後攻の方がメリットが大きい」と、フローズンレインが難癖を付けているかのような印象を持たせる投稿がされている。
その上、あの小さな文字の説明文はいつの間にか修正され、クリアデイのホームページでは通常の文字サイズに変更されていた。
しかし氷雨が添付したホームページの画像には、『一度投票してしまうと変更は不可・最初に投票した一票は三点、二票目は二点、三票目からは一点』と小さな文字で記されている。
案の定、クリアデイの発言に違和感を抱いたユーザーたちが、「票の移動が出来ないのなら、トリにメリットはないのではないか」と声を上げ始めていた。肝心なことなのに、本文の一番下の目立たない箇所に小文字で書かれていた点も、それをしれっと修正した点も卑怯だと非難されている。
炎上と言っても過言ではないその流れで、快晴の「じゃあどうしよっか?」は随分と呑気に思えた。
「氷雨さんが言った通り、他の人からも見えるところで問題提起して良かった。会議室みたいな閉ざされた場所で議論してたら、後からあることないこと言われて、俺たちが悪者にされるところだったね。で、快晴のコメントには何て答えるの?」
玲旺の声が聞こえないのか、氷雨は画面を見つめたまま、それでもどこか遠くを眺めるような虚ろな目をしていた。玲旺が心配になって、「氷雨さん?」ともう一度呼びかける。
ハッと我に返った氷雨が、ごめんと口にしながら前髪をかき上げた。
桜華高の生徒たちと出会う前は、不利な条件のままならこの勝負は辞退するつもりでいた。でも今は、どんな条件を出されたとしても退く気はなく、その上で勝ちたいとすら思っている。
「なんて返事が来たの」
玲旺が発した声は、緊張の色を帯びていた。氷雨は不愉快そうに顔をしかめ、手にしたスマートフォンの画面を玲旺に向ける。
「僕は取り敢えず、クリアデイのホームページに載ってた小っちゃい注意書きをスクショして、わざわざ赤線引いた画像付きでこちらが不利だってことを問い合わせたんだけどさぁ。快晴の返事は『えーホントだ、気付かなかった。じゃあどうしよっか?』だって。舐めてんのかなアイツ」
舌打ちとともに辛辣な言葉を吐き出す。
玲旺も確認するため自身のスマートフォンからSNSを開き、氷雨のアカウントにアクセスした。
数時間前に配信中の快晴から挑発を受け、『僕のコト庇ってくれてありがとう。でも少し落ち着いて』とファンたちを気遣って投稿したコメントには、既に十万のいいねが付けられている。改めて注目度の高さを思い知り、玲旺は無意識に背筋を伸ばした。
氷雨は快晴に、フローズンレインが後攻であることによって受けるデメリットを、丁寧に説明したコメントを送っている。
それに対し、初めに反応したのは快晴ではなくクリアデイの公式アカウントだった。氷雨の投稿を引用する形で「デメリットより、トリを飾れる後攻の方がメリットが大きい」と、フローズンレインが難癖を付けているかのような印象を持たせる投稿がされている。
その上、あの小さな文字の説明文はいつの間にか修正され、クリアデイのホームページでは通常の文字サイズに変更されていた。
しかし氷雨が添付したホームページの画像には、『一度投票してしまうと変更は不可・最初に投票した一票は三点、二票目は二点、三票目からは一点』と小さな文字で記されている。
案の定、クリアデイの発言に違和感を抱いたユーザーたちが、「票の移動が出来ないのなら、トリにメリットはないのではないか」と声を上げ始めていた。肝心なことなのに、本文の一番下の目立たない箇所に小文字で書かれていた点も、それをしれっと修正した点も卑怯だと非難されている。
炎上と言っても過言ではないその流れで、快晴の「じゃあどうしよっか?」は随分と呑気に思えた。
「氷雨さんが言った通り、他の人からも見えるところで問題提起して良かった。会議室みたいな閉ざされた場所で議論してたら、後からあることないこと言われて、俺たちが悪者にされるところだったね。で、快晴のコメントには何て答えるの?」
玲旺の声が聞こえないのか、氷雨は画面を見つめたまま、それでもどこか遠くを眺めるような虚ろな目をしていた。玲旺が心配になって、「氷雨さん?」ともう一度呼びかける。
ハッと我に返った氷雨が、ごめんと口にしながら前髪をかき上げた。
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