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~ 第二章 賽は投げられた ~
prefect⑩
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「それなら大丈夫。氷雨さんが全部なんとかしてくれるから」
ね? と玲旺が氷雨に同意を求める。解雇の理由がクリアになった今、氷雨が断る理由もないだろう。
「あーそっか、そんな話だったわね。ウチはホークスアイに比べたら小さな事務所だけど、まぁ居心地はいいわよ。深影さんさえ良ければ上に話を通すけど、どうする?」
そう尋ねた氷雨が言い終わらぬうちに、深影は「お願いします」と声を張り上げた。
「氷雨さんが所属している事務所は、質の高いマネジメントで有名な『Sirius』ですよね。モデルや俳優の他に、画家や書道家などの芸術家も在籍していると聞いたことがあります。ずっとシリウスが羨ましくて憧れていたんです。ぜひお願いします」
夢みたい、と深影は両手で顔を覆った。ほんの少し前までは、新しい所属先を探す事すら怖いと思ってしまうほど、誰も信用出来ずに絶望の淵にいたのだろう。
緑川は包み込むように優しく深影を抱きしめて、震える背中をさすった。
「シリウスなら何も心配いらないわ。あなたにピッタリよ。氷雨君も、ありがとう」
「どういたしまして。僕も有能な後輩がいてくれたら、コレクションの時に声を掛けやすくて助かるわ。あ、そうそう桐ケ谷クン。あと五人、僕と同じ事務所のモデル確保したからね」
氷雨が手のひらを広げて「五」と示す。
芸能科の生徒が何人残ってくれるか解らないが、氷雨と同じ事務所のモデルと南野が加われば二十名近くにはなるだろう。ホッとした玲旺は「これで何とかなりそうだね」と喜びながら手を叩いたが、氷雨の表情は余り冴えなかった。
恐らく何人モデルを確保できたとしても、永遠がいなければ「まだ足りない」と言う気持ちは消えないままなのだろう。
永遠はオファーを受けてくれるのだろうか。
しかしこの部屋でその話題は出せないなと考えながら、玲旺は黛に目を向ける。
黛はソファの上で縮こまり、怯えたように上目使いでキョロキョロ周りを気にしていた。
全く事態が解らない上に、会話も置いてけぼりにしてしまったなと反省しつつ、玲旺は黛の傍らでひざまずくようにしゃがみ込んだ。こうしないと、うつむいたままの黛と目を合わせることが難しい。
「黛くんごめんね、お待たせしちゃって。今後のことについて話したいと思って残って貰ったんだ。そう言えば、黛くんの所属先は劇団なんだよね。どんなきっかけで演劇を始めようと思ったの?」
本題に入る前に、少し緊張を解そうと考えた玲旺が世間話を始める。黛は目を泳がせながら、ボソボソと答えた。
「えっと、あの。俺、すごい人見知りだから親が心配して、小学生の時に小さな児童劇団に習い事感覚で入れられました。ミュージカルがメインの劇団で、演技レッスンの他にダンスレッスンや歌唱レッスンがあったり……。ただ、児童劇団だから十八歳までしかいられないんですけど」
小さな声だが、聞き取れないほどではなかった。氷雨の耳にもきちんと届いたらしく、後半部分に反応して「じゃあさァ」と会話に加わってくる。
「黛くんも、ウチの事務所に来ちゃえば? 今すぐでもいいし、十八歳になって卒団してからでもいいし」
ね? と玲旺が氷雨に同意を求める。解雇の理由がクリアになった今、氷雨が断る理由もないだろう。
「あーそっか、そんな話だったわね。ウチはホークスアイに比べたら小さな事務所だけど、まぁ居心地はいいわよ。深影さんさえ良ければ上に話を通すけど、どうする?」
そう尋ねた氷雨が言い終わらぬうちに、深影は「お願いします」と声を張り上げた。
「氷雨さんが所属している事務所は、質の高いマネジメントで有名な『Sirius』ですよね。モデルや俳優の他に、画家や書道家などの芸術家も在籍していると聞いたことがあります。ずっとシリウスが羨ましくて憧れていたんです。ぜひお願いします」
夢みたい、と深影は両手で顔を覆った。ほんの少し前までは、新しい所属先を探す事すら怖いと思ってしまうほど、誰も信用出来ずに絶望の淵にいたのだろう。
緑川は包み込むように優しく深影を抱きしめて、震える背中をさすった。
「シリウスなら何も心配いらないわ。あなたにピッタリよ。氷雨君も、ありがとう」
「どういたしまして。僕も有能な後輩がいてくれたら、コレクションの時に声を掛けやすくて助かるわ。あ、そうそう桐ケ谷クン。あと五人、僕と同じ事務所のモデル確保したからね」
氷雨が手のひらを広げて「五」と示す。
芸能科の生徒が何人残ってくれるか解らないが、氷雨と同じ事務所のモデルと南野が加われば二十名近くにはなるだろう。ホッとした玲旺は「これで何とかなりそうだね」と喜びながら手を叩いたが、氷雨の表情は余り冴えなかった。
恐らく何人モデルを確保できたとしても、永遠がいなければ「まだ足りない」と言う気持ちは消えないままなのだろう。
永遠はオファーを受けてくれるのだろうか。
しかしこの部屋でその話題は出せないなと考えながら、玲旺は黛に目を向ける。
黛はソファの上で縮こまり、怯えたように上目使いでキョロキョロ周りを気にしていた。
全く事態が解らない上に、会話も置いてけぼりにしてしまったなと反省しつつ、玲旺は黛の傍らでひざまずくようにしゃがみ込んだ。こうしないと、うつむいたままの黛と目を合わせることが難しい。
「黛くんごめんね、お待たせしちゃって。今後のことについて話したいと思って残って貰ったんだ。そう言えば、黛くんの所属先は劇団なんだよね。どんなきっかけで演劇を始めようと思ったの?」
本題に入る前に、少し緊張を解そうと考えた玲旺が世間話を始める。黛は目を泳がせながら、ボソボソと答えた。
「えっと、あの。俺、すごい人見知りだから親が心配して、小学生の時に小さな児童劇団に習い事感覚で入れられました。ミュージカルがメインの劇団で、演技レッスンの他にダンスレッスンや歌唱レッスンがあったり……。ただ、児童劇団だから十八歳までしかいられないんですけど」
小さな声だが、聞き取れないほどではなかった。氷雨の耳にもきちんと届いたらしく、後半部分に反応して「じゃあさァ」と会話に加わってくる。
「黛くんも、ウチの事務所に来ちゃえば? 今すぐでもいいし、十八歳になって卒団してからでもいいし」
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