されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

prefect⑦

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 緑川は腰を浮かせ、テーブルを乗り越えるようにして深影の両肩に手を置いた。目をしっかり合わせ、「いいえ」と強く宣言する。

「あなたには少しも非がないわ。退学になんてするもんですか。それより、今すぐジェネスの編集部とホークスアイに抗議しましょう。あなたの名誉を回復させなくちゃ」

 言い終わると同時に席を立ち、緑川は執務机に歩み寄った。電話に手を伸ばす緑川を見て、玲旺は「あっ」と声が出かかったが、一旦飲み込む。
 ジェネスの編集部もホークスアイも、話が通じる相手なのだろうか。もし余計にこじれてしまったら? 深影のためにどうするのが最善なのかと、玲旺は思考をフル回転させる。

 玲旺が躊躇っている間に、緑川の行動を阻止するように、氷雨が電話のフックスイッチを勢いよく押した。当然コールは中断されてしまい、緑川はなぜと言う顔で氷雨を見る。

「これじゃあ繋がらないじゃない。氷雨君、電話から手をどかしてちょうだい」

 悪戯を叱るような口ぶりの緑川を、氷雨は執務机に頬杖をついたまま見上げた。

「せんせぇ、ちょっと落ち着いて? ホークスアイって去年社長が交代してから、評判がガタ落ちなのよね。あんまり相手にしない方が良いと思うよ。まぁ、桜華の学長自らクレーム入れたら、さすがにあっちも頭を下げてくるだろうけどさぁ。解雇を撤回されたって、深影さんはもうあんな事務所に戻る気ないでしょ?」

 氷雨の言葉に、深影が「はい」と神妙にうなずく。緑川は考え込むように眉間に皺を寄せ、その反応を確認した氷雨が畳みかけるように話しをつづけた。

「ジェネスの件はきっと、そのスタイリストの独断でしょうね。でもそんな女に好き勝手させておくような編集部だから、抗議した所でのらりくらりと適当な謝罪をしてかわされるだけよ。どっちにしろ時間と労力の無駄」

 キッパリと氷雨に断言されて、緑川は仕方なく受話器を降ろす。それでもまだ少し、納得いかないようだった。

「でも、それじゃあ深影さんは泣き寝入りだわ。そんなのあんまりじゃない」

 緑川は憤慨していたが、今度は玲旺が「大丈夫です」と言い切って前に出る。
 ジェネスとホークスアイへの対応をどうすべきか迷っていたが、氷雨が提示してくれた情報で玲旺の気持ちは固まった。

「氷雨さんの言う通り、ロクなことにならなそうですから編集部も事務所にも直接関わるのは止めておきましょう。でもその代わり、芸能科らしいやり方で必ず一撃を喰らわせてやります」

 深影は大きな黒目をパチパチさせて、「芸能科らしいやり方?」と繰り返した。玲旺は深影を安心させるように、にっこり微笑んで見せる。
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