されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

prefect④

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「せっかく模範生でみんなと違ったベストを着てるんだから、こんなやり方じゃなくて、もっと自分を信じてみたら?」

 氷雨は真顔のまま宮原の目を覗き込む。見かねた久我が、「もうその辺で」とやんわりストップをかけた。氷雨もここらが引き際と考えたのか、フッと力を抜く。

「そうね。宮原クンが十年後、『安泰なポジション』に見える位置がどんなものか解ったら、一緒にお酒でも飲みましょうか。それまでキミも僕も、この世界に残っていられるように頑張らなきゃねぇ」

 ふふふ、と氷雨が涼やかに笑って表情を戻すと、張り詰めていた空気があっという間に緩んだ。やり取りを見守っていた生徒たちは、呼吸を思い出したかのように一斉に息を吐き出す。

 緊張の糸が切れたのか、宮原はその場で脱力するように尻もちをついた。豹に尻尾の先で軽く撫でられて、子猫はコテンと倒れてしまったようだ。
 氷雨は宮原の腕を掴んで立ち上がらせ、何事もなかったかのように機嫌よくにっこり微笑む。

「初回のウオーキング練習は、三日後の夕方にしようかな。それまでにオファーを受けるかどうか決めてね。時間や場所は、また改めてお知らせするわ」

 そう言って氷雨は可愛らしく首を傾げたが、生徒たちは既に威圧感を目の当たりにしているので、もう見た目の優美さに惑わされる者はいなかった。

 久我が氷雨よりも前に出て、今後の連絡方法や契約内容を軽く説明し、最後にオーディション合格の件はまだ両親以外には口外しないようにと伝える。
 桜華高はSNSの扱いについて特に厳しく教育しているので、不合格だった生徒らも含め、後先考えず軽率に発信するようなことはないと断言できた。情報管理が統率されているのは非常に有難く、玲旺がオファーに芸能科を推した大きな理由のひとつでもある。

「それじゃあ、みんなお疲れ様。深影さんと黛クン以外、今日はこれで解散よ。二人はちょっとそのまま残ってね」

 何を言われるのか心当たりのある深影は、唇を噛み締め深刻そうな顔でうつむく。黛の方は氷雨が自分の名を呼んでくれたことが信じられないらしく、感激したように固まった。
 他の生徒らは二人だけが残ることに疑問を抱きつつも、言われた通り退出していく。その背中を見送りながら、玲旺が揶揄うように小声で氷雨に尋ねた。

「子どもに意地悪はしないんじゃなかったの? アドバイスならもっと優しくしてあげればいいのに」
「宮原クンのこと? だって、あんな駆け引きにもなっていない、怒らせてでも相手の印象に残ろうとするやり方は、早めに止めさせておかなきゃ。本当に厄介なヤツを挑発しちゃったら、簡単に消されちゃうじゃない。あの子、才能ありそうだから勿体ないなぁと思って。銃に込める弾は、何発あったっていいんでしょ?」

 あれでも手加減したのよ。と、氷雨がおどけたようにペロっと舌を出した。それからおもむろに深影と黛に視線を移す。
 その視線に気づいた二人の背筋が、ピッと伸びた。

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