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~ 第二章 賽は投げられた ~
諸刃の剣⑩
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「こうと決めたら絶対曲げない頑固さがあったじゃない。僕が歩きたくないって言ってんのに譲らないしさぁ。仕事を選り好みして、事務所的には使い難かったんじゃないの? まぁ、それだけで解雇されるとも思えないけど」
「……もしかして、無理矢理ウオーキングやらされたこと、根に持ってる?」
よっぽど嫌だったんだねぇと憐れんだ目で氷雨を見たら、中指で思い切り額を弾かれた。
「痛った! 暴力反対」
「だって桐ケ谷クンが超失礼なこと言うから悪いんだよ。まるで僕が腹いせに、深影さんをうちの事務所に入れてあげないみたいじゃない。さすがに僕だって子ども相手にイジワルしないからね。めちゃめちゃヤなことされたとしても」
「やっぱ、ヤなことされたと思ってんじゃん」
額をさすりながら玲旺が抗議の目を向ける。氷雨も唇を尖らせて、ツンとそっぽを向いた。
「お前ら、いい加減にしろよ。遊びで来てるんじゃないって言ってたのはどこのどいつだ? もっと緊張感を持て」
低い声で久我からぴしゃりと注意され、玲旺と氷雨はしぼむように背を丸める。その様子が可笑しかったのか、緑川がくすくす笑った。
「まぁ、解雇の理由は深影さんから直接聞きましょう。もうそろそろ生徒たちが来る頃よ。……そう言えば、深影さんは廃刊したジェネスでモデルをしていたのよねぇ。そのことも何か関係があるかしら」
「ジェネス……」
傲慢な塩野崎の顔が脳裏をよぎる。
ジェネスは小中学生向けのファッション誌で、どちらかと言えば派手で賑やかなコーディネートが多かった。落ち着いた大人っぽい深影とは、あまりイメージが結びつかない。
久我も同じように感じたらしく、「意外だな」と半ば独り言のように小さくこぼした。
深影のことやイベントのことなど、それぞれ何かしら思う所があったのだろう。執務室に、ぽかんと空いた穴のような沈黙が訪れる。
その静けさを破ったのは、重厚で高級感のある扉をノックする音だった。
「来たみたいね」
緑川が扉を開けて出迎えると、緊張気味な顔つきの生徒たちが恐る恐る入室してきた。
女子は白いワイシャツに青いリボン、ウエストが絞られたベスト、丈が短めのブレザー。ふくらはぎが半分ほど隠れる丈のふんわりとしたフレアスカート。男子生徒は青いネクタイにブレザーとベスト、それに少し細身のスラックス。
どれもフォーチュン製品だが、紺青に白のストライプ模様の布地は桜華大特注のオリジナルだった。
まるでアニメに出てきそうな制服だが、芸能科の生徒たちはそれらを見事に着こなしている。
ここに呼ばれた理由は既に聞かされているようで、どの子らも背筋をピンと伸ばし、恐れと期待を織り交ぜながら頬を紅潮させていた。ただ、黛だけは「なぜ自分が」とでも言いたげな、不安しかない表情でブレザーの裾を握り締めている。
「ご指名頂きました二十名、全員揃っております」
一人だけベストの柄の違う深影が前に進み出て、玲旺に向かって高らかに告げた。
「……もしかして、無理矢理ウオーキングやらされたこと、根に持ってる?」
よっぽど嫌だったんだねぇと憐れんだ目で氷雨を見たら、中指で思い切り額を弾かれた。
「痛った! 暴力反対」
「だって桐ケ谷クンが超失礼なこと言うから悪いんだよ。まるで僕が腹いせに、深影さんをうちの事務所に入れてあげないみたいじゃない。さすがに僕だって子ども相手にイジワルしないからね。めちゃめちゃヤなことされたとしても」
「やっぱ、ヤなことされたと思ってんじゃん」
額をさすりながら玲旺が抗議の目を向ける。氷雨も唇を尖らせて、ツンとそっぽを向いた。
「お前ら、いい加減にしろよ。遊びで来てるんじゃないって言ってたのはどこのどいつだ? もっと緊張感を持て」
低い声で久我からぴしゃりと注意され、玲旺と氷雨はしぼむように背を丸める。その様子が可笑しかったのか、緑川がくすくす笑った。
「まぁ、解雇の理由は深影さんから直接聞きましょう。もうそろそろ生徒たちが来る頃よ。……そう言えば、深影さんは廃刊したジェネスでモデルをしていたのよねぇ。そのことも何か関係があるかしら」
「ジェネス……」
傲慢な塩野崎の顔が脳裏をよぎる。
ジェネスは小中学生向けのファッション誌で、どちらかと言えば派手で賑やかなコーディネートが多かった。落ち着いた大人っぽい深影とは、あまりイメージが結びつかない。
久我も同じように感じたらしく、「意外だな」と半ば独り言のように小さくこぼした。
深影のことやイベントのことなど、それぞれ何かしら思う所があったのだろう。執務室に、ぽかんと空いた穴のような沈黙が訪れる。
その静けさを破ったのは、重厚で高級感のある扉をノックする音だった。
「来たみたいね」
緑川が扉を開けて出迎えると、緊張気味な顔つきの生徒たちが恐る恐る入室してきた。
女子は白いワイシャツに青いリボン、ウエストが絞られたベスト、丈が短めのブレザー。ふくらはぎが半分ほど隠れる丈のふんわりとしたフレアスカート。男子生徒は青いネクタイにブレザーとベスト、それに少し細身のスラックス。
どれもフォーチュン製品だが、紺青に白のストライプ模様の布地は桜華大特注のオリジナルだった。
まるでアニメに出てきそうな制服だが、芸能科の生徒たちはそれらを見事に着こなしている。
ここに呼ばれた理由は既に聞かされているようで、どの子らも背筋をピンと伸ばし、恐れと期待を織り交ぜながら頬を紅潮させていた。ただ、黛だけは「なぜ自分が」とでも言いたげな、不安しかない表情でブレザーの裾を握り締めている。
「ご指名頂きました二十名、全員揃っております」
一人だけベストの柄の違う深影が前に進み出て、玲旺に向かって高らかに告げた。
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