されど御曹司は愛を誓う

雪華

文字の大きさ
上 下
102 / 302
~ 第二章 賽は投げられた ~

諸刃の剣⑩

しおりを挟む
「こうと決めたら絶対曲げない頑固さがあったじゃない。僕が歩きたくないって言ってんのに譲らないしさぁ。仕事を選り好みして、事務所的には使い難かったんじゃないの? まぁ、それだけで解雇されるとも思えないけど」
「……もしかして、無理矢理ウオーキングやらされたこと、根に持ってる?」

 よっぽど嫌だったんだねぇと憐れんだ目で氷雨を見たら、中指で思い切り額を弾かれた。

「痛った! 暴力反対」
「だって桐ケ谷クンが超失礼なこと言うから悪いんだよ。まるで僕が腹いせに、深影さんをうちの事務所に入れてあげないみたいじゃない。さすがに僕だって子ども相手にイジワルしないからね。めちゃめちゃヤなことされたとしても」
「やっぱ、ヤなことされたと思ってんじゃん」

 額をさすりながら玲旺が抗議の目を向ける。氷雨も唇を尖らせて、ツンとそっぽを向いた。

「お前ら、いい加減にしろよ。遊びで来てるんじゃないって言ってたのはどこのどいつだ? もっと緊張感を持て」

 低い声で久我からぴしゃりと注意され、玲旺と氷雨はしぼむように背を丸める。その様子が可笑しかったのか、緑川がくすくす笑った。

「まぁ、解雇の理由は深影さんから直接聞きましょう。もうそろそろ生徒たちが来る頃よ。……そう言えば、深影さんは廃刊したジェネスでモデルをしていたのよねぇ。そのことも何か関係があるかしら」
「ジェネス……」

 傲慢な塩野崎の顔が脳裏をよぎる。
 ジェネスは小中学生向けのファッション誌で、どちらかと言えば派手で賑やかなコーディネートが多かった。落ち着いた大人っぽい深影とは、あまりイメージが結びつかない。
 久我も同じように感じたらしく、「意外だな」と半ば独り言のように小さくこぼした。

 深影のことやイベントのことなど、それぞれ何かしら思う所があったのだろう。執務室に、ぽかんと空いた穴のような沈黙が訪れる。
 その静けさを破ったのは、重厚で高級感のある扉をノックする音だった。

「来たみたいね」

 緑川が扉を開けて出迎えると、緊張気味な顔つきの生徒たちが恐る恐る入室してきた。
 女子は白いワイシャツに青いリボン、ウエストが絞られたベスト、丈が短めのブレザー。ふくらはぎが半分ほど隠れる丈のふんわりとしたフレアスカート。男子生徒は青いネクタイにブレザーとベスト、それに少し細身のスラックス。
 どれもフォーチュン製品だが、紺青に白のストライプ模様の布地は桜華大特注のオリジナルだった。
 まるでアニメに出てきそうな制服だが、芸能科の生徒たちはそれらを見事に着こなしている。

 ここに呼ばれた理由は既に聞かされているようで、どの子らも背筋をピンと伸ばし、恐れと期待を織り交ぜながら頬を紅潮させていた。ただ、黛だけは「なぜ自分が」とでも言いたげな、不安しかない表情でブレザーの裾を握り締めている。

「ご指名頂きました二十名、全員揃っております」

 一人だけベストの柄の違う深影が前に進み出て、玲旺に向かって高らかに告げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

処理中です...