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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
If⑦
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「お借りしていた衣装の返却に来たんですけど、アポを今日にしておいて良かったぁ。本物のイケメン御曹司なんて、天然記念物並みに中々拝めませんものね。最後に桐ケ谷さんに直接お会いできて、超ラッキー」
語尾に音符がついていそうなテンションで、塩野崎が体をくねらせる。玲旺は笑顔の仮面を被ったまま、白々しく首を傾げた。
「最後、ですか」
「またまた、とぼけちゃってぇ。もう噂では聞いてらっしゃるでしょ? うち、来月号で廃刊なんです」
もちろん既に聞いてはいたが、玲旺は初めて知ったような顔をする。
「いえ、それは存じませんでした。寂しくなりますね。ですが、最終号にはうちの商品を使って頂けるなんて光栄です」
『今月号では使ってくれなかったけど』という含みを持たせつつ、いかにも残念そうに玲旺が眉を寄せると、塩野崎は手を口元に当ててふふふと笑った。
「やだぁ、桐ケ谷さんたら。もしかしてご機嫌ナナメですかぁ? 今月号は本当にごめんなさいね。うちにも色々事情がありまして」
ぺろっと舌を出しながら、少しも悪びれていないように肩をすくめる。
あまり長く話さない方がいい相手だと判断し、さっさと済ませてしまおうと吉田に視線を送った。吉田も同じことを考えていたようで、玲旺より先に口を開く。
「桐ケ谷部長。返却作業はこちらで進めておきますので、どうぞ打ち合わせに向かってください」
「うん。じゃあ、後はよろしく。塩野崎さん、今までありがとうございました。それでは、私はこれで失礼しますね」
「あっ、桐ケ谷さん、お待ちください」
架空の打ち合わせを理由にその場を立ち去ろうとした玲旺を、鼻にかかる声で塩野崎が呼び止める。
「せっかくですし、お名刺頂戴できますか」
言いながら可愛らしく首を傾げると、ふわりとカールした髪が揺れた。塩野崎は充分に美人と言える分類で、恐らくそれを自分でもよく理解しているのだろう。
いちいち仕草が可憐に見えるよう計算されている気がして、玲旺はげんなりした。
「本日は私服なので、生憎名刺は持ち合わせておらず……申し訳ありません。またの機会にでも」
本当はポケットにきちんと名刺は収まっているのだが、玲旺はしらばっくれる。塩野崎は心得たように「そうですか」と微笑んだが、そのまま大人しくは引き下がらなかった。
語尾に音符がついていそうなテンションで、塩野崎が体をくねらせる。玲旺は笑顔の仮面を被ったまま、白々しく首を傾げた。
「最後、ですか」
「またまた、とぼけちゃってぇ。もう噂では聞いてらっしゃるでしょ? うち、来月号で廃刊なんです」
もちろん既に聞いてはいたが、玲旺は初めて知ったような顔をする。
「いえ、それは存じませんでした。寂しくなりますね。ですが、最終号にはうちの商品を使って頂けるなんて光栄です」
『今月号では使ってくれなかったけど』という含みを持たせつつ、いかにも残念そうに玲旺が眉を寄せると、塩野崎は手を口元に当ててふふふと笑った。
「やだぁ、桐ケ谷さんたら。もしかしてご機嫌ナナメですかぁ? 今月号は本当にごめんなさいね。うちにも色々事情がありまして」
ぺろっと舌を出しながら、少しも悪びれていないように肩をすくめる。
あまり長く話さない方がいい相手だと判断し、さっさと済ませてしまおうと吉田に視線を送った。吉田も同じことを考えていたようで、玲旺より先に口を開く。
「桐ケ谷部長。返却作業はこちらで進めておきますので、どうぞ打ち合わせに向かってください」
「うん。じゃあ、後はよろしく。塩野崎さん、今までありがとうございました。それでは、私はこれで失礼しますね」
「あっ、桐ケ谷さん、お待ちください」
架空の打ち合わせを理由にその場を立ち去ろうとした玲旺を、鼻にかかる声で塩野崎が呼び止める。
「せっかくですし、お名刺頂戴できますか」
言いながら可愛らしく首を傾げると、ふわりとカールした髪が揺れた。塩野崎は充分に美人と言える分類で、恐らくそれを自分でもよく理解しているのだろう。
いちいち仕草が可憐に見えるよう計算されている気がして、玲旺はげんなりした。
「本日は私服なので、生憎名刺は持ち合わせておらず……申し訳ありません。またの機会にでも」
本当はポケットにきちんと名刺は収まっているのだが、玲旺はしらばっくれる。塩野崎は心得たように「そうですか」と微笑んだが、そのまま大人しくは引き下がらなかった。
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