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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
If⑤
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すぐに「もちろん」と答えるべきだと解っていた。それでも実際声に出すまで時間がかかったのは、見合い話や二人の未来のことが、ほんの少し頭を掠めてしまったからだ。
玲旺から身を引く気は毛頭ない。
けれど、久我こそが玲旺の為を思って姿を消してしまうのではないか。そんな懸念が湧き上がる。
「久我さんも約束して。何があっても黙って俺の前からいなくなったりしないって」
「ああ。約束する」
縋るような声を聞き、久我が玲旺の頬を両手で包む。今度は先ほどより長く唇が触れ合った。
誰もいないとはいえ、社内で交わす口づけは後ろめたい。背徳感から胸の鼓動は激しく鳴り、キスが深くなる前に玲旺は久我の体を押し戻した。
「だ、誰かに見られたら大変だよ」
「入り口からここは見えないから大丈夫」
「でも、そろそろ吉田くんが戻って来るし」
頬を染めてあたふたする玲旺が可愛く見えたのか、久我は手放すのが惜しいと言うように玲旺の額に唇を強く押し当てる。
ドアが開く音は、まだしない。
久我の胸の中に囚われ、もぞもぞと身じろぎする玲旺は、ふと肝心なことを伝え忘れていたことに気がついた。
「あの。言いそびれたけど、撮影には俺もモデルとして参加することになっちゃったから」
「えっ」
久我が玲旺の両肩を掴んだまま、ガバッと勢いよく身体を離す。
「なんで玲旺まで」
「氷雨さんだけじゃインパクトが足りないからって。俺は、そんなことないと思うんだけど」
玲旺と視線を合わせ、久我が困ったように眉を下げた。なにやら葛藤している気配がする。
「まぁ……確かに。久しぶりに登場する氷雨と、ネットニュースで注目された玲旺との共演は、クリアデイが霞むほどの話題になりそうだ。俺も見てみたいよ。でも、なぁ」
「何か問題あった? 今からでも断ろうか」
むしろ断る理由があるなら大歓迎だと玲旺は身を乗り出したが、久我は「違う」と首を振る。
「断らないで。フローズンレインにとってはプラスだから」
「じゃあ、なんで渋ったの」
「それは、凄く、個人的な理由」
たどたどしく返答した久我は、唸りながら頭を掻いた。続く言葉があるのかと待っていると、久我が上目遣いでソロリと玲旺を見る。
「だって、雑誌に載ったらまた玲旺のファンが増えるだろ。嬉しいんだけど、ちょっと複雑なんだよ。玲旺の凄さは自慢したいけど、誰の目にも触れないように隠しておきたくもある」
普段は先頭に立って指揮を執る久我が、こんな時ばかりは駄々をこねる子どものような顔をする。
自分しか知らない表情に、玲旺は幸福感を噛みしめた。
玲旺から身を引く気は毛頭ない。
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「ああ。約束する」
縋るような声を聞き、久我が玲旺の頬を両手で包む。今度は先ほどより長く唇が触れ合った。
誰もいないとはいえ、社内で交わす口づけは後ろめたい。背徳感から胸の鼓動は激しく鳴り、キスが深くなる前に玲旺は久我の体を押し戻した。
「だ、誰かに見られたら大変だよ」
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ドアが開く音は、まだしない。
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「あの。言いそびれたけど、撮影には俺もモデルとして参加することになっちゃったから」
「えっ」
久我が玲旺の両肩を掴んだまま、ガバッと勢いよく身体を離す。
「なんで玲旺まで」
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「まぁ……確かに。久しぶりに登場する氷雨と、ネットニュースで注目された玲旺との共演は、クリアデイが霞むほどの話題になりそうだ。俺も見てみたいよ。でも、なぁ」
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「だって、雑誌に載ったらまた玲旺のファンが増えるだろ。嬉しいんだけど、ちょっと複雑なんだよ。玲旺の凄さは自慢したいけど、誰の目にも触れないように隠しておきたくもある」
普段は先頭に立って指揮を執る久我が、こんな時ばかりは駄々をこねる子どものような顔をする。
自分しか知らない表情に、玲旺は幸福感を噛みしめた。
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